第59話 聖女と冒険者たちの参戦
大森林よりも少し離れた丘の上。
森を一望できるその場所から、ベールから漏れる美しい金髪をたなびかせながら、一人の修道女が広がる大森林を見下ろしていた。
「ああ。ラッシュ貴方は今どこに……」
はあ、と嘆息をつく。
もはや週一の恒例と化したラッシュ宅への訪問。
しかしある日、村に訪れると、突然彼は姿を消してしまっていた。
村の住人たちに聞くと、旅行に行くので一か月ほど家を空ける、と言い残していったそうであるが、シスカはそれはもう動揺した。
さらに聞けば、あのヴェロニカも彼の行方を追いかけていったと言うではないか。
不覚であった。
よもや、あの竜女に後れを取ろうとは。
「こうしてはいられません。急ぎ追いつかなければっ!」
以降のシスカの行動は早かった。
速攻で有休をとり、旧知の中であるガンズや仲間である冒険者たちを雇い、この大森林まで追いかけてきたのである。
「待っていてくださいラッシュ。そして首を洗って待ってなさいヴェロニカ!」
彼女にとって一番心配なのはラッシュの貞操であった。
よもやあの戦闘狂の脳筋女に限って間違いがあるとは考えにくいが、万が一というのもある。
「ラッシュ、あなたの貞操は私が貰……ではなく守って見せます!」
さっきの儚げな憂い顔はどこに行ったのか。
覇気と野心に溢れる武将のような顔をしながら、シスカは拳を天に突き上げる。
「あのさあ。さっきから聖女様が貞操云々言うの、どうかと思うぞ。……あと、そろそろこっちも手伝ってくれねえかなあ!」
「ワシなんぞラッシュめがピンチと聞いて、慌てて店を閉めて駆け付けてきたんだぞ! ぬうっ! 向こうからもワラワラ出てきおった!」
シスカが一人決意を固めている一方で、向こうの方から物々しい鎧を担いだ偉丈夫と一人のドワーフの戦士が回復欲しさに叫ぶ。
彼だけではない。剣士や魔法使いといった冒険者たちが魔物たち相手に応戦していた。
彼らは全員、今回シスカが雇った冒険者たちである。
「つうか、なんだコイツら、初めて見るぞ。新種の魔物か?」
「おいおい。なんか魔法に耐性作り始めてやがるぞっ!」
「あのポーション足りなくなってきたんですけど……、マジで回復お願い……」
彼らもまた限界のようである。
割とピンチな状態なのだが、シスカ当人だけはいまだにアンニュイに耽っていた。
「ガンズ、ラッシュは抜け駆けした竜女に酷い事をされていないでしょうか。……心配です」
「わかったわかった。手伝ってやるから。こっちにバフかけろ!」
ガンズはいい加減、このお花畑の頭をぶっ叩いて目を覚まさせようかと考えていると、小型の魔物の一匹がシスカの喉笛に食らいつこうと、顎を開いて飛びかかる。
「おい。危な……」
慌ててガンズが言いかける前に、魔物の動きが止まった。
「グ、ギギ……」
どうなっているのかとガンズは目を凝らすと、魔物はシスカが聖糸で絡め取って動きを封じられていたのだ。
「まったく……こっちは真剣に悩んでいるというのに本当にしつこい方々ですね」
同時に他の魔物たちも同様の方法で縛られていた。
「罪深き魂よ。眠りなさい」
そう言って、シスカはピンッと糸を弾く。
それだけでズンバラリと魔物たちはコマ切れとなった。
生き残りが耐性をつけるも何もない。
一匹残らずの全滅であった。
「シスカお前……いつの間にそんなえげつない技を……」
「いやですわ。一網打尽にできたのは皆さんが惹きつけてくれていたからですし。切断できたのは瘴気を多く含んだ魔物だからできた事です。それ以外の生き物なら動きを封じる事で精一杯ですよ」
照れくさそうに笑うシスカ。
そういう問題じゃねえ、と全員が顔に浮かべているが、シスカ当人はそんなもの知らずに、皆を先へと促す。
「さあ。早くラッシュたちに追いつかなければいけませんっ! 急ぎましょう!」
「お、おう……」
皆がドン引きしてる中、ガンズだけがなんとか頷く事ができた。
(昔から血の気が多い部分はあったが、一皮むけたってレベルじゃねえぞ。こりゃ俺もウカウカしてられねえな)
目の前の彼女といい、勇者出なくなったはずのラッシュといい、どいつもこいつも戦いから離れて落ち着くどころか、成長していっている。
かつて彼らと死線を共にした仲としては、置いていかれているようで癪なのである。
「やれやれ、若い連中は血気盛んで羨ましいわい」
そんなガンズの心中を察しているドワーフの戦士は苦笑する。
そういうわけで魔物の群れを討伐した彼らは改めてハテノ大森林を進んでいく。




