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第58話 魔王軍の参戦

 時刻はラッシュがヴェロニカと合流する少し前。

 場所は聖地を中心にすると、ラッシュたちが向かう場所やエルフの集落とは逆方向の数キロ先。


「うおらぁっ!」

「グギャアアアアアアッ」


 戦士たちの怒声と魔物たちの断末魔が響く。


 ラッシュたちが交戦している魔物と同種の群れとの闘争が繰り広げられていた。


 魔物たちに対するは獣人や魔族の混合部隊。魔王アイシアが率いる魔王軍、その精鋭部隊である。


 彼らの今回の任務はエルフの森の探索と調査。


 数か月前にメアが持ち帰った報告と瘴気の残滓から、古代文明の技術が関与していると気づいた彼らは部隊を発足して、こうしてエルフの森への侵攻を始めた。


 最悪、ハイエルフたちと交戦になる事も覚悟していた彼らだが、待っていたのは見た事がない新種の魔物の群れであった。

 彼らの中にも魔物を自由に使役するスキルを持っている者もいた。

 しかし、どういうわけか彼らのスキルは通じずに、魔物たちは襲ってきたため、応戦する羽目になった。


「くそっ。数が多い……」

「おい。魔法が効かなくなってるぞ!」

「チッ。いつの間にか耐性作りやがった! 近接組はもっと前に出ろ!」


 恐れ知らずで獰猛、しかも数が多い上に共食いをして相手方の攻撃の耐性を身に着ける。

 こちらもラッシュ同様に苦戦を強いられていた。


「恐れるな。我らにはあの方々がついている!」

「そうだ。ガルドフ様に続け!」


 ……しかし、それでも彼らの士気は下がらずに、むしろ上がり続けている。

 それは怯まずに彼らの先頭に立ち、大立ち回りをする一人の獣人がそこにいるからだ。


「グオオオオオオオオオ!」


 獅子の鬣をたなびかせた戦士。その姿はまさに鬼神が如き。

 彼が勢いよく戦斧を振り回す度に轟風が巻き起こり、魔物たちは斬り潰され飛んでいく。


「グギュ――「ウオォオオオオオオオオオオ!」――!」


 魔物たちの声は獅子の獣人の咆哮で掻き消される。


 思わず魔物たちは慄いて動きを止める。

 その叫びに、これまで本能のまま暴れ回っていた彼らの頭から、忘れていたはずの恐怖が強引に呼び起こされていた。


「グ、グギュルウウウウウ!」


 だが、それはあくまで直に彼と対峙している魔物たちだ。

 後列に控えている魔物たちはその限りではない。


 彼らは怯んでいる前列を後ろから押しのけ、もしくは踏み倒し、そこにいる獲物たちに追いすがろうとする。


 ……いや、していた。


「――⁉」


 魔物の一匹がようやく違和感に気付いた。

 体が思うように動かない。……いや違う。体に霜が降りて凍てついており、霜はみるみると広がり、己の身体を侵食していく。


「グ、グギュ……」


 冷たい。痛い。動けない。

 魔物たちは初めての恐怖からくる叫びをあげる間もなく、最後には完全に氷漬けとなる。


「――これであらかた片付けたでしょうか」


 魔物たちを凍らせた女はそんな声と共にパチンと指を鳴らすと、魔物たちを封じた氷塊は全てひび割れて粉々に砕け散った。

 砕け散る氷雪が舞い散る中、鮮やかな青髪を持つ竜人の女が降り立つ。

 その姿は鮮烈かつ美麗。

 まるで一枚の絵画のようであった。


「あらかた、では足りぬ。一匹も討ち漏らしてはならん。例の共食いで耐性をつけられては面倒だ」

「ハッ。申し訳ありません」


 獣人……ガルドフからの言葉に、竜人の女……レヴィアは恭しくかしづく。


「しかし酷いものだ。エルフの聖地とまで呼ばれた森がここまで荒らされているとは」


 残りの魔物たちを駆除していく部下たちを確認しながら、ガルドフは滅茶苦茶にされた森を見る。


「ですね。こんな状況だと知っていれば、メア殿にも来てもらった方が良かったかもしれません」

「仕方あるまい。あやつはこの前、学園の潜入から戻って来たばかりだ。無理はさせられんさ」


 ガルドフの言葉にレヴィアは頷く。学園での一件の事は彼女も聞いていた。

 相当に過酷な任務だったのだろう。

 直属の部下二人が復活こそすれど、帰ってきたメアはだいぶ疲れきっている様子だった。


(マジェスティヌではかの堕天眼に加え、例の勇者たちまでも居合わせており、だいぶ苛烈かつ混迷した状況だと聞きましたが、それでもなお任務を達成して帰還するとは流石です――私も精進しなければ)


 未熟ではあるが、この魔王軍幹部の末席に加えられている立場である自分も、それにふさわしい活躍をしなければならない。そう意気込んでいた所へ、部下が新しい報告を持ち込んでくる。


「コカー! 報告! ……報告でありまシャー!」

「どうしたコケポケル。落ち着け」


 喧しい声とともに、どこからか走ってきた人語を介する鶏に、ガルドフは応じる。


「コケッ! ここから東に2キロ程先に同じような魔物の群れを確認しました! ……しかし、こちらには向かわずに例の遺跡に向けての移動を始めていまシャー!」


 コケポケルと呼ばれる尻尾から生えた蛇と交互に喋る鶏からの報告に、ガルドフとレヴィアは顔を見合わせる。

 あの魔物たちの習性はこれまでの戦いで、こちらもそれなりに理解している。

 これぐらいの距離ならば、迷わずにこちらへ仕掛けてきてもおかしくはないはずである。


「――別の獲物でも見つけたのでしょうか?」

「かもしれん。どちらにせよ、我々も今日はここまでだ」


 二人自身はまだ余裕はあるものの、部隊そのものは度重なる連戦で疲弊していた。

 これ以上の無理を押して進むのは危険だろう。


「今夜はここをキャンプ地とする。明日に向けて英気を養え!」

「「「はっ!」」」

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