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第54話 そんな日まで待てない

2章完結です。

 メリー・ナイトもといメア・リオネスは天蘭祭の翌日から姿を消した。


 朝、アンジュが目を覚ますと、部屋の机に一通の封筒が置かれていたのだ。


 そこには彼女がこの学園に入った目的と騙していた事への謝罪の文が記されていた。


 アンジュは血相を変えて、メアの部屋を訪れるも既に彼女の姿は影も形もないどころか、人がいた痕跡そのものがなくなっていた。


 担任の先生に何か聞いてないか問い詰めるも、彼も何も聞かされておらず、どころかメリー・ナイトという生徒戸籍の退学届けが、いつの間にか提出されていたというのだ。


「何よこれ……」


 アンジュは憤慨した。


 彼女の正体なんてどうでも良かった。


 腹が立つのは、別れの言葉一つも無しに勝手に出て行った事。


 この程度で彼女は自分との繋がりを諦めると思っているのか。


 まず手始めに、アンジュは先生の机から提出された退学届けをこっそりと回収。

 休学届に書き換えておいた。


 そして、皆には彼女はこの前の戦いで呪いを受けてしまい、実家に療養すると伝えた。


「絶対にふん捕まえて、連れ戻してやるんだから」


 いつかまた会う日まで、なんて悠長な考えはアンジュになかった。


 修学旅行に強化合宿。


 まだまだ彼女と一緒にやりたい事があった。

 逃すつもりはない。

 彼女の出席日数が足りなくなる前に、強引にでも学校に連れ戻す。


 とりあえず今学期が終わった後の長期休暇。

 旅行と称して、こっそり魔族領にでも行ってみるのもいいかもしれない。


「まずは情報を集めなきゃ、あとは色々と準備も必要ね」



 ……場所は変わり、とある山道の道中。



「へくちっ!」


 山道には不釣り合いな黒いゴシック服を着た少女は可愛らしいくしゃみをする。


 メア・リオネス。現在、魔族領の城に帰る途中であった。


「風邪でもひいたか? クソッ。あんな人が多い密集地域に長くいたからこうなったんだっ」


 八つ当たりにも近い愚痴を好き勝手に吐き散らすメア。

 そんなすこぶる機嫌が悪いご主人様に、隣のメイド……ミラカナがおそるおそる声をかける。


「あ、あのうメア様」

「何さ」


 振られたメアは自分でも驚くぐらいに低い声で返す。


「いえ。やっぱりそのう……」

「ウダウダ言ってないで、しっかり答えなよ。怒るよ」


 もう怒ってるじゃないですかあ、とミラカナは涙目で悲鳴混じりに抗議する。


「……友人たちと……ちゃんと別れを告げず……良かったの……ですか?」


 言いあぐねているミラカナのさらに隣、包帯だらけの犬人の執事……ヌビンスが見かねて言った。


 対してメアの方はといえば、少しだけ黙って、やがて息を大きく吐いた。


「勘違いしているようだね、ヌビンス。そもそも彼らは友人じゃないよ。利用価値のある駒だ」


 底冷えするような声色で答えた。その風格はまさに魔王軍幹部と言っていいだろう。


 だが、二人は知っている。

 こっそり、主があのアンジュとかいう少女にウンウンと悩みながら手紙を書いて、夜明け前に置いていったという事に。


「ふっふっふ。そうさ、今回彼らは実に役に立ってくれたよ。なんなら部下としてスカウトしてやってもいいくらいだ」


 嘲笑いながら、口早にまくしたてるメアの手の中には一つの欠片――ウバクを成仏させた時に出てきた瘴気の塊があった。

 これを研究すれば、ワイアードの技術をこちらで再現させる事ができるかもしれない。


 ――そうだ。今回の潜入任務は実に有意義なものだった。捕縛こそできなかったものの禍騎士はどうにか討伐し、これも手に入れられた。


 ――長らく姿を隠していた堕天眼の討伐。新しい勇者と聖剣の所在も掴めた。スキル由来の古代文明の件は改めてガルドフたちと話し合わなければいけないが、概ね収穫はあったといえよう。


 ――ああ。本当に……、本当に楽しかった。


「メア様が良いならそれで良いですよぉ」

「……主が……それでいいならば……我らは……何も……言いませぬ」


「ふん。まあ、次に会って、まだ私に使える価値があるなら、ぜいぜいまた利用してやるさ」


 歩を進めながら、しばらくしてポツリと呟いた主のその言葉。


 とりあえず、ヌビンスとミラカナは聞こえない振りをしておいた。

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