第50話 マジェスティヌ学園VSウバク②
機甲竜の渾身の体当たりをまともに受けて、吹き飛ばされたウバクはそのまま塔に激突。
そのまま再び校庭の方へと墜落していく。
「ウグゥウウウウウウ」
地に打ち付けられた黒き禍竜は痛みに呻きながらも、空を飛ぶ鉄竜に向けてブレスを吐こうとする。
「だから、こっちを無視するんじゃねえ!」
「うにゃあー!」
すると今度は待ち伏せていたシュガ、加えてレドが再び打撃と斬撃を浴びせかける。
「グギャアァー!」
邪魔だと言わんばかりに、ウバクは彼らに向けて爪を振り下ろした。
だが、それもすんでの所で障壁に阻害された。
「馬鹿共め。深入りするとフォローし辛いだろうが!」
遠くに待機していたニクスが防護魔法で防ぎながら、通信魔法越しで相変わらずの毒舌を吐く。
マジックアイテムによる補助があるとはいえ、遠距離からの防護壁の遠隔発動は相当の技術が必要となる。
これこそが彼の鍛錬の成果であった。
「へっ。今のお前ならしっかり防いでくれるって思ったんだよ」
「平民からの賛辞など嬉しくないっ!」
「ウチ知ってるにゃ! これがツンデレにゃ! 田舎の婆ちゃんが言ってたにゃ!」
「違う! 気色の悪い勘違いをするな!」
死線の真っ最中だというのに、好き勝手に緊張感の無い言い合いを始める三人。
「グガァー!」
馬鹿にされたと感じたのか、ウバクは一吠えすると体中から蒸気のように瘴気を吹き出した。
「うにゃあ! 嫌な煙にゃあ!」
「ごほっごほっ……体が痺れ……!」
耐性のない人間であるならば、行動不能になる程の濃密な瘴気が辺り一帯に散布されていく。
「癒しの守り手よ。我らを悍ましき風から守りたまえ――」
しかし、どこからか流れてくる祝詞と共に、瘴気は少しずつ薄くなっていく。
「皆さん、こちらです! ポーションも用意していますから魔力が少ない人は補給してください」
シスカが祝詞で浄化していっているのだ。
しかも、それだけでなく彼女は回復魔法を使える者らをまとめあげ、怪我人や魔力が限界の者らを集めて傷を癒している。
「ゴガァアアアアアアアー!」
またあの女か、と苛立つウバクはそちらに向かおうとするも、バランスを崩してよたついた。
――おかしい。
さっき確かに足に何か衝撃を受けた。
さっきからちょくちょく絶妙なタイミングで邪魔が入る。
把握している虫けらども以外にも、何か別の生き物に纏わりつかれている感覚だ。
ウバクは身体強化――五感を鋭敏にさせるスキルを発動させてみる。
発動からしばらくして、不意にウバクは真後ろの方へ尻尾を振る。
「うぎゃあ! バ、バレたー!」
すると、何かが尻尾を掠めたと思ったら、マントを羽織っていた桃色髪の少女が転がりながら悲鳴を上げていた。
隠密用のマジックアイテムのマントを纏い、姿を隠して攻撃やサポートを行っていたのだ。
「ゴォガアアアアアアアアアアー!」
「ひいえええええええ!」
貴様か、と言わんばかりに吠えるウバクはリズベルを一思いに踏み潰そうとするが、今度は機甲竜から真上に覆い被され身動きそのものを封じられる。
「いい仕事してくれたわリズベル。後は任せて」
「え。じゃあ帰っていい?」
「それはダメ」
「鬼ー!」
目を輝かせるリズベルにアンジュにピシャリと釘を刺され、涙目で抗議する。
相も変わらず気の抜けたやり取りである。
――なんだ。このふざけたガキ共は。
ウバク・レイダーは嘆き怒る。
今の自分は最強の存在になったはずだ。
――なのになぜ。どうして、この子供たちはどうしてこんなに強い。なぜ、自分はこんな烏合の衆のガキ共に手こずっているのだ。
気付けば、その思いが口から零れていた。
「アリ……エナ……イ」
自分は選ばれた存在のはずだ。
「アりエなイ」
最強の力を賜ったはずだ。
「ありえないぃーー!」
何の皮肉か、追い詰められたウバクは人の言葉を取り戻していた。
「キサッ、キサマラァー! ワタ、私ヲ誰ダト思っていル。私はコウシャク家で、ユウシャで――選バレた存ザイなのだぞぉー!」
「おいおい! アイツ、急に人語で喋り始めたぞ!?」
「それだけ追い詰められてるんだろう。あと一歩だね」
驚くレドをよそに、メアは機甲竜を操作して大きく飛翔させる。
大きく広げる両翼。
そこに光が帯びたかと思えば熱線の光が照射され、ウバクに降り注ぐ。
「ウギャアアアアアアアアアア‼」
さっきの結界の比ではない炎と熱に喘ぐウバク。
「熱ぅっ! てめっ……メリー! お前、こっちも巻き込む気かよ!」
一方で、彼女らからの指示を無視して、一人追撃をしようとしていたレドは危うくそれに巻き込まれかけ、抗議するも、返ってきたのは鼻で笑うメリーの声だった。
「指示も送ったし、そもそも以前から作戦の一つとしてちゃんと説明しておいたよね? 巻き込まれたら自己責任だよ。ばいばいレド。君の犠牲は忘れない」
「お前本当最悪だな!」
なぜだか不貞腐れたような声でアンジュが挟まってきた。
「ちょっと二人共、喧嘩してる場合じゃないでしょ。私も混ぜなさい!」
「「お前は何を言ってるんだ」」
「虫ケラ共メ。舐メルナァー!」
再び気が抜けるようなやり取りを始めかけるも、それを阻むようにウバクは怒声をあげる。
今度は己を中心にした猛吹雪を起こす。
――スキル凍土領域。
自動発動される猛吹雪により、辺り一帯の炎を消し去る。
「撃てぇー!」
しかし、そこへニクスの号令が木霊する。
「ガアアアア!」
最初の攻撃により崩壊した砲台から、回収された大砲の一つを今度は近距離から直撃を受け、ウバクは悲鳴をあげる。
明らかに前より効いていた。
高熱からの冷却により、確実にウバクの身体は脆くなっていたのだった。
「オノレ……オノレ……コノ端役ガァー! 貴様らヘイミン共がコノ貴族である私にィー!」
人の言葉を取り戻したかと思えば、ひたすらに身勝手な言動を振りかざすウバク。
「おいニクス。アイツ、お前と趣味合うんじゃね?」
「――だにゃあ。傲慢な所がそっくりにゃ」
「ふざけるな! 私はあそこまで言動は酷くない……はずだ」
「酷いって自覚あんのか……」
「黙れっ!」
さっきのレドたちのが移ったのか、ニクスやシュガたちまで緊張感の無い会話に混ざる。
「グゴァアアアアア!」
一方でウバクは反撃とばかりに、弾幕を潜り抜けながら伸ばした爪を隊列に向けて鋭く伸ばす。
「だから通さねえって言ってんだろうが!」
またもレドが爪を剣で弾き返す。
今度は誰からの支援もない。
己の力の身によるもので、だ。
「人様から奪った力を我が物顔で振り回して、それで上手くいかねえと逆切れかよ。俺の一番嫌いなタイプだぜ!」
レドの啖呵にウバクはさらに己の力が弱まるのを感じた。
……ようやく理解した。
力そのものが衰えているというのもあったが違う。
この身体そのものがレドへと力を貸しているのだ。
思えば、あの闘技場で違和感があった。
鎧と化し、自身の身体を構成していた聖剣が奇妙な反応を示していた。
――まるで目の前の少年に惹かれている様な。
ウバクは確信する。
最初に闘技場で見た時、もっと早く気付くべきだった。
地下ダンジョンで存在を感じ取った時、もっと早く始末すべきだった。
目の前の男は聖剣を所有できる資格を持つ者。
つまりレド・グランバードこそが次世代の勇者だったのだ。
聖剣の所有権を奪われかけて、ウバクの肉体は崩壊しかけている。
急いでこの場から脱出せねば――!
今までのような戦略的撤退ではなく、純粋な恐怖からウバクは今度こそ離脱しようと、ウバクは三度翼を広げる。
「……逃がさぬ……」
「させませんよぉ」
しかし、どこからか飛んできた赤い包帯で身体を雁字搦めにされる。
「――⁉」
強引に引き千切ろうにも、血液を染み込ませ鉄のような硬度を持ったそれは容易に引きちぎれず、さらにはデバフの呪詛が織り込まれており、どんどん身体の自由が利かなくなる。
「ふっふっふ。復活早々、久しぶりの大仕事ですねえ」
「……無駄口は……やめろ……メア様からの……命を全うするのだ……」
蝙蝠の羽根を生やし空を舞うメイドが得意げに笑い、隣の包帯だらけの犬人の執事がそれを嗜める。
メアはスカルドラゴンを消滅させるだけでなく、この二人の身体も再生させていたのだ。
レドがこちらに向けて走り迫る。
「ク、来ルナァー!」
「癒したまえ――」
ウバクはせめてもの抵抗に瘴気を再びバラ撒くも、シスカが再び浄化する。
「死ネエエエエエ!」
「そうは――」
「させないわっ!」
なんとか動く右腕の爪で切り裂こうとするも、ダメ押しとばかりに、二人の魔女が駆る機甲竜に押さえつけられる。
「お前、腐っても聖剣のはずだろうが……」
言いながら、目の前まで走り迫ってくる少年。
そんな彼に向けて、ウバクは顎を開きブレスを吐き出そうとする。
「来ルナ来ルナクルナ、コナイデクレェー!」
「そんなクソ野郎にいいように使われてんじゃねー!」
しかし、レドは恐れない。
叫びながら駆け、ブレスを撃たれる前にウバクの頭――眉間へと拳を叩きつけた。
無謀な少年の小さな一撃。
だがそれは今のウバクには致命的な一撃だった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
ビシリと亀裂が入る。
絶叫と共に、ウバク・レイダーの身体は光の粒子を放ちながら崩壊していった。
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