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第28話 堕ちた聖剣

沢山の人たちに読んでいただき嬉しかったので、残りの書き溜めや続きも投稿します。

 ――ガンガンガンッ!


 薄暗い地下の中で、けたたましい騒音が響く。


「……ったく、毎晩毎晩うるうせえな」

「気でも触れちまったのかもな。まあ、無理もねえさ。人生の絶頂からの一気に転落だ」

「ハッ。自業自得だぜ。なにせ、俺ら全員魔王の生贄にしようとしやがったんだぜ」


 違いない、と頷くのはこの王城の地下牢獄を管理する看守たち。

 彼らは看守室の窓から、両横に立ち並ぶ牢獄のさらに最奥の暗闇に、嘲りと憐れみを込めた眼差しを向ける。


「なんで。なんで。なんで……!」


 その最奥に暗闇にある牢屋。

 主である囚人の男はブツブツと呟きながら、ひたすらに檻を叩き続けていた。


 彼の名はウバク・レイダー。


 新しい勇者として選ばれながらも、実際は特殊なスキルで勇者の力を奪った簒奪者にして、無茶な侵攻で王国を傾かせ、挙句は魔王ゴラゼオスを復活させた大罪人である。


 本来なら死罪であってもおかしくなかったが、彼も魔族に利用されていたという情状酌量の余地に、貴重な聖剣保有者であるためにひとまず生かされる事となったのだ。

 ちなみに勇者のスキルを奪ったという罪は証拠がないため、立件されていない。聖女としては先代勇者が勇者の力を取り戻すための手がかりとして手元に置いておきたかったというのもあった。


「くそっ。くそっ。クソォオオオオオオオ!」


 そういう経緯でかろうじての生を繋いでいるウバクであるが、彼にとってはそれすらも屈辱以外の何物でもなく、思い出すだけで、より牢を叩き蹴る力を入れている。


 彼にとっては途中まで全て上手くいっていたはずだったのだ。


 まんまと勇者の力を手に入れ権力を手にし、姫を始めとした数多の美女を囲いハーレムを作った。

 あと、もう少しでこの国の全てを手に入れる寸前だったはずだ。


 なのにどうしてこうなった?


 彼は幾度となく自問自答するが、自己愛か心の弱さか、その答えを見出すことはできなかった。


 私は悪くない。

 あの元勇者が悪い。

 私を差し置いて、平民のくせに勇者になって目立っていたのがいけないんだ。


 私は悪くない。

 あの目が節穴の姫君や他の女共が悪い。

 王族だから、凄腕の魔女というから、騎士の名家の令嬢というから、優しくしてやったのに、全然役に立たなかった。

 どころか、全ての罪をこちらに押し付けていきやがった。


 私は悪くない。

 あのジョエールとかいう魔族のスパイが悪い。

 私はアイツに騙されていたんだ。

 被害者だ。


 私は悪くない。悪くない。悪くない――。


 ああ、なんてこの世界は理不尽なのだろうか!


 ふとウバクは昔読んだ物語を思い出した。

 婚約破棄やパーティ追放、不遇な目に遭った人間が真の力に目覚めて、周囲を見返す物語を。


 そうだ。


 きっといつか自分も彼らのように報われる日が来る。

 かつて他ならぬ自分自身がその元勇者を同じような目にあわせた事など、すっかり忘れていた。


 暗闇の中、ウバクは虚栄心をより膨らませていく。

 だが、そんなもの応えてくれる他者がいなければ意味の無いものである。


「悪くない。私は悪くないんだ。誰か言ってくれ……」


 そんな状態が長く続いたのか。その長い自己弁護も限界が来る。


「――お願いだ。誰か、誰かいないか。誰か言ってくれ。私を認めてくれ――!」


 そして絞り出されたのは、彼の根底ともいえる本音だった。


 しかし、そんな幼稚な願望に応える者など、この暗い牢獄の中には誰もいない。

 ……はずだった。


 ――そうだね。君は悪くないよ。


「! 誰だ⁉」


 突然の売りに響く声にウバクは辺りを見回す。


 それでも声は続く。


 ――君は周囲の期待に応えようとしただけだ。なのに誰もそれを理解してくれない。酷い話だ。


「そうだ。そうなんだ!」


 ウバクは歓喜の表情で何度も頷く。もはや幻聴でも何でもよかった。

 この声は自分を肯定してくれる。

 それだけで彼にとっては十分だったのだ。


 ――さあ、顔を上げなさい。君には私がついている。


 ソレは姿を現す。

 ウバクは今日が気に目を見開くも、合点がいく。


「あ。あぁあああ……」


 ウバク・レイダーは滂沱の涙を流しながら、再び自分の所に戻ってきてくれた聖剣へと手を伸ばした。


 それがかつて魔王ゴラゼオスが握っていた頃と同様に、禍々しい瘴気を帯びている事など気にも留めずに。


ドゴォオオオオオオオオオオオオンッ!


「ふぁっ!?」


「なんだ。どうした!?」


 眠っていた所へ突然の爆発に叩き起こされた看守たち。


 彼らは上の城兵たちへと伝令を送ると、槍や盾を手に音のした方へと駆けつける。


「ウゥゥ……」


「ひっ」

「なんだ。こいつ……」


 そこに立っていたのは黒い鎧を纏った禍々しい何か。

 獣のように唸り声を上げながら、ソレはゆっくりと視線を動かしていく。

 まるで、何かを探しているかのように。


 やがて、その黒い鎧は目当てのものが無いとわかるや、ゆっくりと動き出す。


「か、かかれぇー!」


 この異形を外に出してはならない。


 直感でそう感じた看守たちは、後ろの方から城兵や騎士が駆けつけて来たのもあって、共に一気に押し寄せる。


「邪魔ダ。――ウォアアアアアアアア!」


 しかし、黒鎧の異形は獣のごとき咆哮をあげる。


 ……数刻して、そこに居合わせた者らを瞬く間に壊滅させた黒い鎧は、地下牢獄をそのまま悠々と出ていく。


 こうして、千近くの城兵が守る城門すらも正面から堂々と破壊。

 遂には脱走までしてみせた。


 凄まじいスピードで、王都をも抜けて、森の中を疾走しているウバクほとんど薄くなった人としての意識の中でも高揚感を持っていた。


 ここからだ。

 ここから自分の新しい……本当の物語が始まるのだと、ウバク・レイダーは歓喜の咆哮をあげた。


「ガァアアアアアアアアアアーー!」

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