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第27話 スローライフはいつの日か

「結局、今日まで何も起こらなかったな」


 僕は家でゆっくりとひとりごちた。


 ……あれから一か月が経過している。


 ガンズたちに挨拶をして、ほぼ逃走同然に王都を抜け出し、ここまで帰ってきた。


 ナフシア姫が何か仕掛けてくるのかと思って警戒していたが、結局ずっと何も音沙汰がなかった。


 この村からも王都での事件は伝わってきたものの、王都で復活した魔王は冒険者の連合に討伐されたとだけしか伝えられていなかった。


 そこから、さらにもうしばらくしての事だ。

 聖女であるはずのシスカが自らやってきて、その後の顛末を聞かせてくれた。


 どうやら、ナフシア姫と公爵は王城でやろうとしていたこと――王都民の命を使った聖剣強化もといゴラゼオス復活が世間に明るみになったらしい。


 まあ、あれだけの惨事となったのだから当然か。

 その後は宰相を中心とした元からウバクやナフシア姫に反感を抱いていた者らから糾弾を受け、同様に怒り狂った王都民からの壮絶なバッシング。


 シスカたち、教会の後押しもあって、こうしてナフシアを始めとした勇者もといウバク公爵派は事実上崩壊した。

 ナフシア王女は王位継承権を剥奪され、実母である王妃の実家……大公の家に移り住むことになった。


 代わりに後見人の伯爵預かりとなっていた双子である第二王子と第二王女が呼ばれてくるそうで、順当にいけば、次期国王はその二人のどちらかになるらしい。


 ちなみに、ウバク公爵は今回の騒動の主犯として牢獄へと入れられた。


『違う! 僕は被害者だ。騙されていただけなんだぁー!』


 という感じで、本人は無罪を主張していたようだが、王都を巻き込んだ外法を行おうとしたのは事実らしいので、罪に問われるのは仕方ないだろう。

 掌を返した取り巻きの女たちから、減刑と引き換えに色々と証言を引き出してもらっているので、まだまだ余罪は出てきそうだ。

 もう僕には関係の無い事だろうけど。


 そういえば、ウバクからゴラゼオスに渡っていた聖剣はいまだに僕の所にも戻ってきていない。

 ……特に気にはしなかった。

 元より、勇者の地位には未練なんてなかったし、きっと人類のピンチになったら、ひょっこり別の誰かの所へ現れたりするだろう。


「いや、それでいいのか。お前の場合はもう少し俗な執着をしてもいいと思うぞ」


 隣で茶菓子をつまんでいたヴェロニカにやや心配げに言われるが、彼女はどうせ勇者に戻った僕と戦いたいだけなので聞き流す。

 後、もう家に遊びに来るのはあきらめたが、勝手に家に上がって物色するのはやめてくれ。


「しかし、ここも賑やかになってきたな」


 家を出て、丘の上に立つと麓の村が見渡せた。


 そこには幾人もの大工が訪れており、引っ越してきた人々のための家の増築が行われていた。

 彼らは戦争で居場所を失った流民たちだ。

 家屋だけではない。他にも宿屋や冒険者ギルド支部といった施設の増設が行われていた。


 なんでも此度の王国での事件をきっかけに、貴族連中は急速に力を失ったらしく、彼らに反対されていた国家をあげての他民族との融和政策や、大規模な開拓を推し進められているそうだ。


 あと数年もすれば、この村も町……いやラグーンのような都市になるかもしれない。


「まあ、これで平和になるならいいかな」

「はたしてどうだろうな? 人間同士のわだかまりと言うのが、一筋縄でいかんのはお前が一番よくわかっているだろうに」


 ヴェロニカが楽しそうに表情で茶々を入れてくる。


「今度こそゴラゼオスは討伐されたものの、一応は世界でも有数の大国であった王国がこの有様だ。他の魔王や他国もこぞって動きだすやもな」

「それは今度は人同士で争いが起きると言う事かい? そこまでみんな愚かじゃないと信じたいけど」

「まあ、新しい戦いが始まるというのは言い過ぎか。だが、どちらにせよ世界は変わり始めるだろうよ」


 その時に生まれる混乱をこそ、楽しみだと言わんばかりに、ヴェロニカはくっくと喉を鳴らす。

 どうにも普段は脳筋のくせに、こういう荒事に関しては鼻が利くらしい。


 ……やはり彼女のこういう部分は相容れないな。


「その時は今度こそ隠遁するかな」


 事実上のドロップアウト宣言。

 情けない限りだが、人導師の争いにまで関与するつもりの無い僕には、今はこれが精一杯である。


 しかし、たしかに彼女の言う通り、これからいろんなことが起きるだろう。

 だが、それでも今はこの平和を享受していたかった。


「とりあえず今日の夕飯の献立でも考えなきゃ」

「私はハンバーグがいい」

「君さぁ……」


 なんでこの竜女はナチュラルに夕飯のリクエストができるんですかね。


 いや待て、これはまずいぞ。

 すっかり彼女との対応に慣れきってしまっている。

 このままでは本当に家に居つかれてしまうのも時間の問題だ。

 ただでさえ、ギリギリなのだ。


 ううむ。シスカ辺りにでも相談してみようか。


 いや、駄目だ。

 紆余曲折あって、なぜか彼女までこの家に居座ってしまいそうな光景が幻視してしまった。

 どうしたことだ。自分でもわからない。


「おーい。ラッシュー! ヴェロニカー!」


 そこへ丘の下の方からリズベルが走ってくる。


 手にはクエストの依頼書らしき紙束を持っている。何やらまた厄介事を持ってきたようだ。


 こうして僕のスローライフと呼ぶには騒がし過ぎる生活は続いていく。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

短編を長編化した部分はこの辺で終わりで、一区切りとなります。

続きは既に書き始めてますが、このまま投稿を続けるか、もう少し間を置きストックを書き溜めるか考え中です。

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