第22話 二度目の魔王討伐へ
その日、薪割りをしている最中の事だ。
ヴェロニカが血相を変えて……いや、いつも以上に嬉々とした表情でやってきた。
「おい。ラッシュ聞いたか⁉ 素晴らしいニュースだ!」
なんだろう、言葉とは裏腹に無性に嫌な予感がする。
というより、彼女がこんな様子で来ると言う事はほとんどがこちらにとっては悪い事だ。
「聞いて驚け。なんと魔王ゴラゼオスが復活したそうだ!」
「……! ――うわぁ……」
一瞬話の理解が追いつかずに脳がフリーズ。
やがて、ようやく情報の読み込みが完了すると、僕は思わず顔を手で覆った。
復活!
魔王復活!
……ハハ、どうしてこうなった。
「なんで君が知ってるんだよ」
「ふっ。あまり私を舐めるなよ。これでも日課のトレーニングで国中を飛び回っているのでな。その際に挨拶代わりに色んな人間と雑談をしているのだ」
朝のジョギング感覚で国中を飛び回るな。
いや、しかしこの女はこう言う事で嘘を言うタイプではない。少なくともこの話は本当なのだろう。
「うーむ。私なりに色々と他の筋を辿って情報を集めてみた所。どうやら王都の人間たちを生贄にして復活したらしい。現在王都はほぼ壊滅状態だそうだぞ。ハハッざまぁ!」
「いや、ざまぁじゃねーよ!」
そんな惨状を聞いて、素直に喜べるほど僕は図太くはないのだ。
――ってこんな所で呑気にしている場合ではない。
僕は慌てて部屋の端に立てかけていた剣を取る。
王都を出る時にガンズから貰った剣だが、魔物退治や都市での死霊術師戦と、短いながらも、今日まで共に戦ってきてくれた相棒となっている。
まさかこれで再び魔王とも一戦交えるとは思わなかった。
「おいおい正気か? お前を追い出した連中だぞ」
「正直そっちはどうでもいい。でも、助けたい人たちは他にいるんだ」
ヴェロニカの呆れたような声を無視して、僕は準備を始める。
僕だって聖人じゃない。
貴族や王家にはもう未練なんてない。
でも、この魔王による災いが国全体に及ぶとなると、当然故郷の孤児院の皆にも被害が及ぶだろうし、当の王都にだってガンズを始めとした冒険者たちやドワーフのおやっさんがいる。
彼らの事だから、そう簡単に死ぬなんて事はないだろうけど……。
「全てを見捨てる事なんてできないよ」
そう言って、僕は荷物を担ぎ上げる。
一方でヴェロニカといえば、そんな僕の方をじっと眺めていたと思ったら、あきらめたように溜息をつく。
「やれやれ、本当にお前は仕方がないな。……仕方がないから、私もついていってやろう」
「……は?」
ちょっと待って?
何を言っているのかわからないから、しっかり説明してほしい。
「だから魔王との戦いに同行してやると言ってるんだ。もちろん、お前の助っ人としてな」
どうしよう。説明されても全然わからない。
……え、マジで?
本気で魔王と戦う気なの?
「いや、あの野郎。今回はどうやら自分の傘下以外の魔族や亜人種族にも隷属するように言ってきているらしい。これはもう私にとっても敵でいいだろ」
憮然とした面持ちのヴェロニカだが、どこか取って付けたような言い分だ。
しかし、あの魔王そんな事言っていたのか。
そういえば、最初に対面した時から、無駄に上から目線でイラッとくるような奴だったけど、どうやら今回の復活で以前よりもはるかに力が強大となっており、気もさらに大きくなっているようだ。
「ほらほら。早く戦いに行こうぜっ!」
ところで、僕はこの気紛れな彼女の言葉を本当に信じていいのだろうか?
先のメアとの戦いでは協力してくれたが、今回の相手はかつての主に当たる存在だ。
すんでの所で心変わりしてまた敵対する可能性だってあるかもしれない。
「実はあの魔王ゴラゼオスとも一度戦ってみたかったんだよ。いやー楽しみだなあ!」
あ、大丈夫だ。
この女、強い奴と戦う事しか考えていない。
思えば、あのゴラゼオスもよくコレを御していたなあ。
……いや、思い返せば、ロクに御さずに放し飼い状態で暴れさせていただけのような気もする。
なんか今さら彼がちょっと不憫に思えてきた。
「ん? なんだ、その目は。ははーん。戦いが終わった後、また姫や貴族共に振り回されたらどうしようとか思ってるな? なーに、心配するな。もしその王女や他の女共が生きていて、助けに来たお前に手の平を返し、また求婚してきたら私が追い返してやる。安心しろ」
ドンと胸を叩くヴェロニカさん。
いや、これから再び生きるか死ぬかの決戦の場に赴こうというのに、なんでそんな勝った後の事を心配せねばならないのか。
……というか、その場合はむしろヴェロニカが勢い余って王女たちを殺してしまわないかの方が心配なんだけど。
気付けば、僕は彼女とのやり取りで、自分の心が大分軽くなっている事に気付いた。
認めたくないが、ヴェロニカが味方となって大分心強い。
「さあ、新しい冒険の始まりだ!」
「いや、なんで君が仕切るのさ」
こうして僕はこの奇妙な相棒に腕を引っ張られながら、共に二度目の魔王退治に駆け出した。




