第21話 魔王の復活
「おい、これで本当にこれで良いのだろうね?」
「ええ、ええ。間違いありませぬ」
ウバクが訝し気な目でジョエールを見る。
場所は王城の地下の大広間。
そこは王都でも特に大地の魔力が集約される場所で、王都を丸ごと包む防御結界や異世界からの英雄召喚、古より大規模魔法を発動させるのに利用されてきた場所だった。
そして今、彼らの足元には新しい巨大な魔法陣が描かれていた。
だが、今回のそれは召喚でも防護結界のものでもない。
「し、しかし本当に良いのでしょうか。王都の民の魂を集めて聖剣の強化に使うなどと……」
ナフシアは青褪めた顔でウバクを見る。
他の取り巻きの女たちも動揺だ。
魔物の魂の代わりに人間の魂を吸収しての強化。素人でもわかる外法の禁術なのだ。
「ナフシア、これは必要な事なんだ。今勇者である僕の力は疑われ、国民からの不満と不安が溜まってきている。これを払拭するにはさらなる力が必要なんだ。なあに、魂を集めると言っても、あくまでほんの少し……少しだけ精気を分けてもらうだけだよ」
ウバクはいつもの眩しい笑顔で早口にまくし立てるが、流石に今回はその笑顔に歪さが混じっている事に彼女らも気付いてはいた。
「そ、そうですわね」
「ウバク様がそう言うなら……」
「きっと最後は上手くいきますわ」
それでも彼女たちは見て見ぬ振りをするしかない。
ウバクが破滅すれば、側室として彼と婚姻関係を結んだり、懇意の仲だと宣言した自分たちも共倒れだ。
今さら降りる事はできない。
「よし、ジョエール。始めてくれ」
「わかりました。それではいきますぞぉ。暗き闇よ、我が呼びかけに応えよ。贄を喰らいて、奮い立て――!」
ジョエールが詠唱を始めると共に彼らの足元の魔法陣が妖しく輝き始めた。
「おぉ……!」
呼応するように聖剣も輝き、凄まじい力が宿っていくのがわかる。ウバクも思わず声を漏らす。
「はは、ははは! すごい。すごいぞ! 力が漲っていく!」
ウバクは感動に震える。
これこそがあの忌々しい孤児上がりの先代勇者や魔王たちをも超える圧倒的な力。
これならば全てやり直せる。
「――あれ?」
そこでウバクはようやく違和感に気付いた。
一瞬だけ、沸いてきたと思っていた身の内の魔力は急激に弱まっていく。
……いや、吸われている。目の前の聖剣に。
魔法陣も聖剣も真っ黒に染まってきていた。間違いないこの魔力の属性は――。
「お、おい。ジョエ-ル!」
「なんですかな?」
「この魔力。明らかに闇の魔力だぞ」
ウバクの言葉にジョエールも感心したように頷く。
「ほう。一応は勇者としての素養があったようですね。そうですよ。今聖剣に宿っている力はまさしく闇のものです。元々は魔物の精気や魂を浄化させて光に反転させて力と変えるのがその剣の本質でしたらからね。人間のものを使えばそうもなりましょう」
「聞いてない! こんなの聞いてないぞ! わ、私を騙したのかぁ!」
激昂するウバクをジョエールは嘲笑う。
「クハハッ。今さら遅いですぞ。あなたはそこで指を咥えて見ていなさい。我が主の復活とこの国が滅んでいく瞬間を!」
相変わらずの丁寧な敬語だが、その声色には慇懃さと嘲りが含まれていた。
「それはそうですよ。生贄は人間。つまりはここにいるあなた方も含まれるのですから」
いけしゃあしゃあとのたまうジョエールにウバクは絶句する。
……一方その頃、王都の方にも異変が広がっていく。
「な、なんだ……体が重い」
「……あれ、なんだか急に眠――」
「お母さぁん……」
王都の民たちが軒並み精気を吸われて、崩れ落ちて意識を落としていく。
一部の人間が事態に気付いて、その場で結界を張るなり、予め結界が張られた場所にいたり、退避するなりしているが、それも僅かな者らだ。
その一方で王城の地下室では陣の中央に黒い聖剣を中心に繭のようなものが形成されていた。
「ふざけるなふざけるなふざけるなぁ!」
ウバクは掴みかかろうとするも、既に身体に力が入らずへたり込む。
既にナフシアたちは意識を失っており、ウバクもロクに動けなくなっていた。
「ふざけ――私は――勇――」
そのまま完全に意識を落とすと同時に、黒い聖剣を中心に魔力が集まりきったその場所で、繭のようなものが形成されていた。
「さあ、我が主よ。今こそ復活の時ですぞ!」
やがてジョエールの言葉と共に黒い繭に亀裂が走り、剥がれ砕け落ちていく。
その中から、頭から二つの大きな角を生やした青い肌の大男が現れた。
「ククッ。クハハハハー! 我輩復活ー!」
大男は己の身体が完全に再生した事を確認すると、高笑いを始める。
「おお! おめでとうございます、ゴラゼオス様」
復活をはたした主……魔王ゴラゼオスにジョエールは恭しく首を垂れる。
「おう。ジョエールご苦労であったなぁ!」
「いえいえ。主のためならばこの命」
「うむ! では、手始めにこの街の連中を血祭りにしてくれるわー!」
「いえ、ここの者どもは全てゴラゼオス様のエネルギーにしましょう」
儀式はまだ終わっていない。
王都の民たちはこのまま生かさず殺さずゴラゼオスに魔力を送る苗床として活用させるのが、ジョエールの算段であった。
「むう。そうか、では仕方ないなっ!」
ゴラゼオスはかつてよりも我が身に漲るエネルギーを感じつつ、あっさりと納得する。
「では世界へと号令をかけよ。このゴラゼオスの復活と世界への宣言を!」
「承知いたしました」
「ああ、そうだ。既に我輩の魔力はかつてより上である。最強と言っても良い。……ならば他の魔王や亜人族も全て我輩に従うのは当然である! ――という旨も伝えておくのだ」
「なるほど。ではそのように――」
ジョエールはかしこまりながら、召喚陣を展開。
そこから、眷属である数多の魔族たちが這い出てくる。
「ゆけ。ゴラゼオス様の糧となる栄誉を受け取らぬ不心得者を片付けてくるのだ」
「「「はっ!」」」
やがてジョエール自身も主の命を遂行すべく姿を消した。
「フフフッ。フウーハハハハハハハハハアー!」
聞く者が誰もいなくなっても、ゴラゼオスは我が世の春が来たと言わんばかりの哄笑をあげ続けた。




