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第20話 不穏な王都

「クソックソックソォオオオオ!」


 王城の一室で怒号と破壊音が響く。


 ウバク・レイダー。

 公爵家子息であり、第一王女ナフシアの婚約者、そして今代勇者でもある彼は与えられた貴賓室で、置いてあった机やテーブルに調度品とありとあらゆる物を壊しまくっていた。


 あの後、ガルドフに吹き飛ばされた彼は味方の騎士に回収され、命からがら逃げ延びていた。

 しかし、意識が戻った後の彼は酷いものだった。


 敗北という屈辱による憤怒、かろうじての生存からの恐怖と安堵。


 あらゆる感情がない交ぜになって、今日に至るまで周囲へ八つ当たりを続けていた。


「ふざけるなふざけるなふざけるな。私は勇者だぞ! 選ばれた存在だぞ! それがなんだこの体たらくは! こんなのおかしいだろぉ!」


「……」


 そんな彼の醜態を僅かに開けた扉の間から覗いていたナフシア王女や取り巻きの女たちは絶句する。


 ……目の前の男は誰だ?


 最初に会った時の美しく気品に溢れた貴公子とは程遠い。

 ひたすら癇癪を起こして暴れ続けるその姿はまるで別人ではないか。


(これならば前の勇者の方がまだ……)


 ふと、かつて追放した元勇者の顔を思い出して、すぐに頭からかき消した。


 かつての英雄を追放してしまった罪悪感から逃げるためとかではない。


 自分が男選びを間違えたと認めたくないというプライド故にだ。


 だからこそウバクにはここで終わってほしくはなかった。


「ん? ナ、ナフシア! ……は、ははは。すまないね。少しみっともない所を見せてしまったかな」


 扉から覗く彼女に気付いたウバクは引き攣った笑顔で慌てて取り繕う。

 いや、もう手遅れなのだが。


「この前は少し失敗してしまったが大丈夫だ。まだ巻き返せる。いきなり魔王退治はハードルが高かっただけさ」


 まるで自分に言い聞かせるように言い訳じみた事をベラベラと喋る。


「そうだ! 今度こそ冒険者ギルドの力を借りよう。シスカにもそろそろ戻ってきて貰わないとね。今回こそ協力してくれるはずさ! 皆の力が合わさればできない事はない!」


 既に先の無茶な魔族領侵攻からの敗戦で、教会や冒険者ギルドからも信用を失っているのだが、公爵家と勇者としての権威を使えばゴリ押せると彼はいまだに考えていた。


「あの……私たちはどうなるのでしょうか……?」


 一方で取り巻き女たちはウバクがあそこまで執心しているシスカがハーレム入りしてしまえば、自分らの立場も危ういのではないかと心配する。


「大丈夫。心配しないでくれ。働き過ぎているシスカは聖女を辞退して僕の下で働いてもらう予定だ。君らと何も変わらない。ちゃんと等しく愛するよ!」


 シスカ本人からの許諾も何も決まっていないのに、ウバクはまるで確定事項のような口ぶりで語る。

 まるで自分に言い聞かせるように。


「大丈夫だよ。万事上手くいくさ。ちゃんと次の手は打っている」


 ウバクとて全くの無策というわけではなく、彼なりに対策を考えていた。

 するとそこへ、王室仕えのメイドがドアをノックする。


「失礼します。ウバク様。その……客人が訪れていますが……」

「ああ、丁度良いタイミングで来たようだ。王室間に呼びたまえ。ナフシアたちにも紹介しなければねっ!」


 メイドからの報を聞いて、ウバクは嬉々として部屋を出て、一抹の不安を抱きつつも、ナフシアも後に続いた。


 ――王室間。


 本来、王やその臣下たちが謁見や儀礼に使われる広間であるが、今ではウバクやナフシアが主だと言わんばかりに玉座に居座っていた。

 しかし、それを指摘する者はここにはいない。

 いるのはウバクとナフシア当人らとローブに身を包んだ壮年の男の三人だけである。


「お久しぶりです、ウバク様、そしてご機嫌麗しゅう姫殿下。お初にお目にかかります、私はジョエールと申します」


 恭しく頭を下げる男にナフシアは怪訝な視線を向ける。


「あの……ウバク様、この者はいったい……」

「うん。彼は公爵家で雇った魔法使いだよ。彼はこれで宮廷魔導師にも並ぶ魔法の腕の持ち主で、魔法武器、特に聖剣への理解も深いんだ」


 まるで自分の事であるかのようにウバクは誇らしげに語るが、ジョエールは特に気にした様子もなく説明を始める。


「いえいえ。私などまだまだ未熟に御座います。ええと、今回の公爵のご依頼は確か聖剣の強化で御座いますね?」

「ああ、そうだ。どうやら聖剣は僕のスペックについてこれないらしくてね」


 さも自分には責がないかのような物言いで話を続けるウバクにジョエールはなるほどと頷く。


「確かに聖剣は使い手に馴染むまで相応の時間と経験が必要となりますなあ。先代勇者を始めとしたお歴々が旅や実戦に赴いた主な理由はそれだとか」

「おいおい。まさか貴族である私に同じ真似をしろというんじゃないだろうね?」


 由緒ある公爵家の出身である自分がいそいそと辺境や田舎の森に巡るなんて、ウバクの肥大化したプライドが許さなかった。

 せめて、やるならば先に言ったように強力な魔物を討伐して一気に稼ぎたい所だが、先の敗北からか、ウバクは戦いに対して恐怖が刻まれていたため、できればもっと楽で確実な方法が知りたかった。


「いえいえまさか。聖剣を御身に馴染ませる。それをだけならば、もっと手軽な方法があるのでございますよ」

「ほほう?」


 興味深げに耳を傾けるウバクにジョエールはニヤリと微笑んだ。

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