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第19話 その頃の魔王軍

 闇と静寂に包まれた空間。

 その中央で明かりがポツリと灯る。


 煌々と照らされた真下には一つの棺桶が置かれており、やがて棺の蓋がギッと僅かに傾き、そこからさらにギギギと少しずつ開いていく。


「ぷはああぁー!」


 やがて完全に開いた棺の中から紫髪の少女が飛び出し、大きく息を吸い込んだ。

 ……メア・リオネスである。


「死ぬかと思った! というか実際死んでたぁー!」


 薄着のネグリジェに身を包んだ凹凸の少ない華奢な身体は、汗で濡れ肌が滲んでおり実に煽情的……なはずなのだが、汗だくで息をぜえぜえと荒げながら、場違いなほどに大声で喚くメアの今の姿はぶっちゃけ色々と台無しであった。


「チクショー! なんであのタイミングで邪魔が入るんだよ。悔しいぃー! ……はぁ」

「ふむ。手酷くやられたようだな、メア」


 一通り吐き出して落ち着いた彼女へと、大分前から部屋にスタンバっていた獅子の獣人……ガルドフが後ろから声をかけながら外套をかける。


 王国の辺境都市で討たれたはずのメアが今ここにいる。

 これは彼女の秘術の一つであった。

 都市でラッシュたちが戦っていたのは彼女が切り分けた魂の一部を屍人形に押し込めていた分身で、本物はこうして棺桶の中で意識を向こうの人形に移しつつ、仮死状態となって眠っていたのだ。


「なるほど。思っていたよりも早くお前の魂が戻ってきたと携帯魔石から反応がでたので、よもやと思ったが。本当に失敗したのだな」

「失敗……ああそうさ。失敗だよ! あの勇者と飛竜戦姫のコンビのせいでね!」

「……何?」


 怒り狂うメアにガルドフは静かに促され、彼女も不機嫌ながらも事のあらましを説明し始めた。


「……ふむ。事情は分かった。それはどうして災難だったな」


「本当だよ。用意していたアンデッドはほぼ全滅! ミラカナとヌビンスもやられた! どうしてこんな事にぃ!」


 説明している内に、先の敗北を思い出したのか、再び怒り出したメアは悔しそうに地団駄を踏む。


「落ち着け。あの二人はお前が生きている限り不滅なのではないのか?」

「……ああ、うん。それでも蘇生にはしばらく時間がかかるんだよね……」


 ミラカナとヌビンスはメアと従魔契約を結んだアンデッドであり、その一環で魂の一部をメアに譲渡させている。

 代替えする肉体があれば復活する事が出来るが、その肉体を再構築させるには、相応の魔力と魂魄の補充が必要なのだ


「――しかし、元勇者に加え、よりにもよってヴェロニカか。まさか本気で人間側に与したとは考えにくいが」


 ガルドフも以前から彼女とは魔族同士の派閥間の小競り合いで敵として戦った事も味方として共闘した事もある。

 その時に彼女と接した経験から言って、本気で人間に寝返ったとは考えていない。

 所詮はほんの気まぐれか一宿一飯程度の恩だろう。


「どちらにせよ、レヴィアちゃんには教えられないね」


 二人はこの場にいない三魔将の最後の一人であるレヴィア……竜人族の少女にしてヴェロニカの妹である彼女の顔を思い浮かべる。

 

 ヴェロニカの話題が上がる度に愚姉と罵っていたものの、言葉の端々は情のようなものが滲んでいた気がする。

 それが愛情であれ憎悪であれ、万が一、姉であるヴェロニカと戦う事になった場合、……裏切るとまで思っていないが、年若い彼女ならば幾分か刃が鈍る可能性はある。


 なんにせよ、彼女の前で姉の話題は出さない方が良いだろう、色んな意味で。


「ああ、もう本当に面倒くさいなあ!」


 頭をガシガシと掻くメアにガルドフは無言で同意を示しつつも、別の話題に変える。


「それよりももう一つの頼んでいた調査の件についてだが」

「……ああ、そうだったね。そっちの方も報告しなきゃだったね」


 切り替えるように、さっきとは打って変わって神妙な顔をするメアは部屋の端に置かれていた地図を床に広げ敷く。

 彼女にはもう一つ仕事があったのだ。


「都市にアンデッドの召喚陣を作成している間に地脈を調べてみたんだけど、確信したよ。やっぱりあの国おかしいね。魔力の流れが異常だよ」


 それにメアは置いてあったペンに印や線を引き始める。


 戦争が終わって半年、魔物を操作する魔族や影響を与える魔王がいなくなったはずなのに、いまだに王国への領地へと魔物が引き寄せられているという現象が続いていた。


 メアは侵攻と同時にそちらの捜査に当たってもらっていたのだ。


 やがてメアが描き終えたその図を見たガルドフはおおよその事情を察する。


「――なるほど。ともすれば魔力の集まっている中心は王都か。やはり王国への侵攻は見直した方が良さそうだ」

「そうだね。今は下手につつくのは悪手かな。派閥が違えど流石に同じ魔族陣営と戦うのは御免だよ。国境に配置させた軍はレヴィアちゃんに言って退かせておこう。巻き添えにされたらたまらない」


 二人は今後の予定を話し合いながら、やがてメアの方は吐き捨てるように毒づく。


「まったく一度は倒されたんだから、もうしばらくは大人しく眠っていれば良いものを。魔王ゴラゼオス殿は何を企んでおられるのやら……」

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