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第23話 戦場となった王都

 ――「見えてきたぞ、王都だ。しかし本当にすごいな。まさかこんな一日足らずで着くなんて」

 ――「ふっふっふ。私がいて良かっただろ?」

 ――「ああ、最初はどうなる事かと思ったけど、君がいて良かった。ありがとう」

 ――「や、やめろやめろ。そんなストレートに感謝されると照れるだろうがっ」

 ――「ちょっ。空飛んでる状態で暴れないでくれっ。うわぁあああああ」

 ――「し、しまったバランスがっ。格好つけて人型のまま飛んだのがいかんかったか!」

 ――「「あ゛ぁあああああああああああ!」」


 ……。

 ……王都。


 国政を司る大貴族が集まり、教の要となる神殿が建ち、流通の中心を担うその大都市は建物は軒並み崩壊し、火の手があがる。

 いまやそこは被災地であり、凄惨な戦場となっていた。

 あの異変から何日経過しただろうか。


「クソッ。どんどん状況が悪くなっていきやがる!」


 冒険者ガンズは破壊された建物の瓦礫の山を背に悪態をつく。


 王都外での大規模クエストを終え仲間たちを酒場で労い、そのまま帰宅。

 家でグースカ寝ていた所を突然起こった大きな地響きで叩き起こされた。


 力を吸い上げられていく感覚に耐えながら外に出ると、自分と同じような症状に見舞われている者らが沢山倒れていた。

 なんとか意識を保っていられた自分は運が良かったのだろう。

 ガンズはなんとか部屋に戻り、机から一枚の護符を取り出す。

 昔、共に戦った聖女が作ってくれた護符であった。


 それを体に貼り付けると、奪われていく感覚が消え、大分楽になった。


 家に戻り、改めて装備をしたガンズは急いでギルドに向かってひた走る。


 見渡すとどこもかしこも同じような光景が広がっている。

 どうやら王都中がこの状況になっているようだ。


 忸怩たる思いを抱きながらも、ガンズはギルド本部にようやく辿り着く。


 既に幾人もの冒険者が集まっていた。

 ここは結界術式が張られていた。


 この様子ならば、同じような処置が施されている教会や王城も無事だろう。


「とりあえず教会や城の騎士団と連絡を取ろう。俺たちだけじゃ、とてもじゃないが手が足りん」


「ガンズさん、大変っす。城から魔族がっ!」

「なにぃ⁉」


 さらには突如として王城からわらわらと湧き出してきたのは角と羽を生やした青い肌の異形。

 ……魔族たちだ。


 王都中が大乱戦。


 迎え撃つのはかろうじて意識を保っていられた高レベルの冒険者、教会の加護を持った聖職者。

 しかし、状況もいまだにロクに把握しきれずに、防戦を強いられるこの状況。


「攻撃がきたぞぉ! 備えろぉ!」


 仲間のレンジャーの声に我に返ったガンズは即座に飛んでくる氷塊と雷撃を大盾で防いだ。


 同時に後ろにいるエルフの魔法使いに目配せする。


「アクアカッター!」

「ギィイ!」


 水流の刃で魔族の身体を切り裂き、レンジャーや剣士が弓矢でトドメを刺す。


 どうやらコイツらの狙いは自分たちの排除を優先しているようだ。


 倒れている王都民は二の次なのが救いだった。

 しかし、彼らは一向に意識を取り戻す様子もなく、いまだに微細ながら、生命力を吸われている状態のため予断は許さなかった。


「おい。大丈夫か?」

「は、はい。まだいけます」


 そして吸われているのはこちらも同じ。


 教会の修道士たちからガンズのような護符や加護や奇跡を与えられて、最低限抑えられており、なんとか戦える状態だ。


 特に彼女のような魔法使いは消耗が激しいはずだ。


 破棄されれば自分たちも倒れてる王都民のように身動きが出来なくなるだろう。

 せめてこの市街地に通じる大通りだけは死守せねばならないのだ。


「ガンズ、待たせたの!」

「おうジイさん!」


 そこへ駆け付けたドワーフが率いる冒険者たちにガンズは少しだけ安堵する。


 良かった。

 これならばもう少しだけ持ちこたえられる。


「とはいえ焼け石に水。こうなった原因を何とかせねば、状況は悪くなる一方じゃぞ」

「わかってるさ、チクショウめ」


 だが、あくまで少しだけだろう。

 状況は依然として変わらず、むしろ悪くなっている。


 ふと、ガンズたちの脳裏に浮かぶのはかつて共に戦った勇者の姿だ。


(チッ。情けねえ)


 こんな時にも彼の姿を思い出すとは、この国の人間が世界を救った彼に何をしたのか、自分だってわかっているはずなのに。

 いや、それを止められなかった自分もまた同罪だろう。


 彼の力をこれ以上借りるわけにはいかない。自分らの尻拭いは自分でするべきだ。


「オラァッ!」

「ふんっ!」

「「ギャアアアアッ!」」


 矢先に、すぐ傍まで忍び寄っていた魔族たちをガンズは盾で殴りつけ、ドワーフは斧で真っ二つにした。


「お前ら、ここが正念場だぁ!」

「そうじゃぞ、根性を見せいっ!」


「「「おぉ!」」」


 彼の姿に冒険者は奮い立つ。

 彼らとて先の戦いで活躍した猛者だ。カリスマもあるし、士気の上げ方も承知している。


「ふむ。人間にしてはやるではないか」


 ――怖気を走らせるような声。

 現れたのは燕尾服を着た額に一本角を生やした男――魔族だ。


「お前ら防――」


 言い終わる前に、魔族は既に剣を鞘に納めていた。

 直後、ガンズ以外の前衛メンバーは肩や脇腹から血を吹き出し倒れる。


「ガハッ!」


 既に切り捨てられていた。


「おいおい。せっかく急所は外してやったのだから、もう少し楽しませたまえよ」


「ああ。自己紹介が遅れたね。我が名はバイト。偉大なるゴラゼオス様が新たに築く魔王軍の新幹部、魔剣士バイトだ」

「ゴラゼオスだと⁉」


 ガンズは耳を疑う。

 その名を持つ者はかつて自分らが討伐したはずだ。


「ふむ。下等かつ稚拙な人間どもはいまだに己の置かれた状況がわからないと見える。よかろう、教えてやろうではないか。ここはね、祭壇なんだよ。魔王ゴラゼオス様が復活するための贄の祭壇だ」


 バイトの言葉にガンズのみならず、そこにいた面々は皆絶句する。


「笑えん冗談じゃわい……」


 おやっさんが苦々し気に舌打ちする。


 魔王ゴラゼオス。その名はいまだに彼らの記憶に新しい。


 この魔族の言葉が本当ならここにる戦士たちで勝利するなんて不可能だ。


 状況は最悪。

 こうなれば自分が殿を務めて、後ろの彼らを王都から逃がすことに専念した方が良いかもしれない。

 ガンズの決意とは裏腹に当の魔族……バイトはいかにも興醒めしたかのように欠伸をする。


「ああ。一つ言っておくが王都への門は全て我々が掌握して塞いでいるから逃げるなんて無駄だよ」

「……チッ!」


 こっちの動きも予想済みか。


「ほう。まだ頑張るかね。しかし、他の皆はもう絶望してしまったようだよ。つまらんねえ」


 彼としては久しぶりに殺戮を楽しめると思ったのだが、人間たちは魔王ゴラゼオス様の贄とするために手を出してはいけないと言われて、不本意ながら目の前の戦士たちだけで我慢する事にしていた。


「できれば、もっとじっくり痛めつけたかったのだがねえ」


 まず狙うのは冒険者の魔法使いたちだ。

 こいつらを潰せば、他の冒険者も力尽きる。


 次の儀式の段階に必要なのは領主の魔法使いで足りている。

 反抗的な不穏分子だ。

 ならば、ここで潰してしまっても構わないだろう。


 とはいえ弱すぎる。

 冒険者たちは既にボロボロだ。

 唯一それなりに強い守護戦士も満身創痍。


「――む?」


 はるか後方から歩いてきている女がいた。

 のんびりとした足取りだ。

 街の状況が理解できていないのだろうか?


「おい姉ちゃん、逃げろぉ!」


 冒険者の一人が叫ぶ。

 動けるという事は相応に腕の立つ部類の者だろう。

 ならば斬って捨てても問題はないはずだ。


 既に遅い。


 この女の死をもって彼らの心をさらに挫くとしよう。


 いや、それよりも彼らはどんな悲痛な顔を見せてくれるかの方がそそられる。


 沸き立つ気持ちを押さえながら、バイトは女へと斬りかかる。


「我が魔剣ドーグの錆となれる事を光栄に思いたまえ」


 ザグンと肉と骨を断つ音が響く。

 最初、バイトはそれが自分が女を切った音だと思った。

 しかし、己の魔剣からはそんな感触が伝わってこなかった。


 ふと、己の視界が逆さになっている事に気付いた。


 反転する世界。

 その端には上半身を失った己の下半身だけが映っていた。


「――ああああぇ⁉」


 ようやく自分が上半身と下半身を真っ二つにされて宙を舞っている事に気付いたバイトはベシャリと地面に叩きつけられる。


 遅れて二つにへし折れた自慢の魔剣がカランと音を立てて落ちた。


「嘘……だ……」


 それが彼が最後に見た光景だった。


「ううむ。いきなり斬りかかられたから斬り返したが、さすがに正当防衛だよな? これでラッシュの奴にどやされたら理不尽だぞ……」


 自分らを圧倒した魔族をあっさりと返り討ちにした女は困った表情でブツクサと唸っていた。


 そんな彼女の姿を呆気に取られながら見ている冒険者たち。

 だが、ガンズだけは危機感に囚われていた。


「な、なんでアイツがここに……」


 かつて戦場で、何度も殺されかけた戦姫。

 ゴラゼオスが復活したのなら、その配下であるこの女も召集されているのも納得できる。

 ならば、なぜさっき自分を助けた?

 仲間である魔族を斬り捨てた?


 それに彼女の口からラッシュの名前も出ていた。


 彼も来てくれているのか?

 だとすれば、目の前のこの女……敵であったはずのヴェロニカと行動を共にしている?

 なぜ?


「おい、そこの見覚えがある人間」

「うおおおおおおおお!」

「魔王の奴に会うにはどこへ行けばいい? とりあえずアイツと完全にはぐれてしまってな。この街を囲っていた塀に張り付いていた魔族連中はあらかた片付けたんだがな。こいつら弱いくせに無駄に多いし、面倒くさくてもう散々だ!」

「おおおお――は?」


 こっちの胸倉をつかんで、愚痴を飛ばし始めた。


「ガンズさん、また魔族が来ました!」


「ガァーー!」


 こちらが対応する間もなかった。

 間髪言わせずヴェロニカの一吠え……竜の吐息。


「「「ギャアアアアアアアア!」」」


 それだけで魔族は炎の斬撃に飲まれて消えた。


「ったく鬱陶しいったらない。ほらっ、さっさとゴラゼオスの所へと案内しろっ!」

「いや。普通にあのデカい建物……城にいると思うぞ」

「……マジか?」


 さっきの魔族の男の話が正しければそうだろう。


 ヴェロニカは顔を赤くする。


 ガンズは思わず目をパチクリとさせた。


「いったいどうなってるんじゃい……」


 おやっさんがポツリと呟く。全くの同感だった。

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