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第17話 ラッシュVSメア

「近いな……」


 僕は気配を探りながら、目的地へと急ぐ。


 皆のおかげで向こう側は総崩れだ。


 僕が目指しているのは特に瘴気が集まっていると思わしき場所。

 ここに来る前に冒険者ギルドの魔法使いや僧侶に確認してもらった。


 ただ闇雲に暴れさせるだけならまだしも、これだけのアンデッドを一律に統率し操るのは、熟練の死霊術師でも容易ではない。

 必ず安定した操作を行うためのアイテムや儀式の場が必要なはずだ。


 聖女であるシスカの保護にはヴェロニカの方に行ってもらった。

 ヴェロニカの薙刀を預かっているシスカは一種の従魔契約に近い。だからこそ、ヴェロニカは彼女の気配を感じ取る事が出来るはずだ。

 そして、力を半分失っているとしても、そこらのアンデッドに後れを取るような彼女ではない。

 それぐらいの信頼は僕もしている。


 それに死霊術師との戦闘経験は勇者として活動していた分、僕の方が上だろう。


 僅かな遅れが甚大な被害を出しかねない今の状況ならば少しでも早く駆け付けられる側が早々に勝負をつけるべきだ。

 

 やがて、辿り着いたのは都市の中央の噴水広場。

 少し前まで沢山の人で賑わっていたはずが、今では見る影もなく、代わりにゾンビやスケルトンといったアンデッドが山のようにもひしめいていた。


「どけっ!」


 僕は剣に力を込めて、魔法剣を撃つ。

 放たれた斬撃は炎となり、アンデッドたちをたやすく焼き尽くした。

 アンデッドは光属性以外にも火に弱い。


 さらには、ここに来る前にあらかじめ刀身には聖水を流して清めていた。

 二重による浄化を受けたアンデッドたちは四散し、最後は塵となって消えていった。


「うわあ。本当にここまで来ちゃったよ……」


 あらかたのアンデッドを討滅すると、気付けば紫髪の少女がゲンナリした顔で噴水の縁に座っていた。


 フリルが沢山ついたドレスを着た美しい少女だった。

 しかし、その身に纏う禍々しい魔力に僕はすぐさまに臨戦態勢をとる。


「その暴れっぷり、知っていたけど、いざ自分が相手取らなきゃと思うと嫌になるよ……はぁ」


 自分こそが此度の騒動の元凶と言外に語る少女はどこまでも憂鬱そうに青空を仰ぐ。

 死霊術師だからとかそんなじゃなくて純粋に疲れが顔に出ている感じだ。


「まったく私も運が悪いね。目をつけた街によりにもよって君らみたいな規格外がいるなんてさ」

「そう思うなら、ここから手を引いてほしい。僕もできる限り争いは避けたい」

「それは無理だね。私たちももう後には引けない」


 彼女の言葉とこの街に来る前にシスカから聞いたこの国の情勢を照らし合わせ、僕は推測を立てる。


「君は魔王アイシアの手の者か」

「おや、ご名答。そこまで有名だったかな? 表舞台にはできる限り立たないようにしてたのだけど」


 災厄の女王アイシアという魔王がいる。

 個の力よりも数多の屈強な魔族の戦士たちを多く抱えているため、他の魔王たちよりもある意味厄介だとされている魔王。

 特に三魔将と呼ばれる幹部たちは魔法や武芸といった各分野だけなら魔王級とまで呼ばれている。


 にしても、話には聞いていたが、本当にこんな年若い少女だとは思わなかった。


 見た目だけなら、かつて共に戦った魔法使いの少女と変わらぬ年つき。

 しかし、見た目と言葉とは裏腹に、目の前にいる少女のその立ち振る舞いと雰囲気からは上級魔族を相手にした時と同じ凄まじいプレッシャーを感じられる。


 さらには現在行使されているこの大規模な死霊魔術。


 彼女こそ魔王アイシアに属する三魔将の一人。


「邪霊参謀メア・リオネス」

「そこまで知っているとは光栄だよ。勇者ラッシュ。いや、元というべきかな?」


 挑発するような物言いだが、僕は取り合うつもりはなかった。


「もう一度言おう。すぐにこの召喚術を解くんだ」

「だから、それはできない相談だってば、もう知っているだろう?」


 メアは嘲笑いつつ却下する。


「最初に領地を攻め込まれたのはこっちなんだ。どうにか追い返せたとはいえ、相応の損害も出てしまった。ゆえにこちらも多少は手を出してきた代償を支払ってもらわないと帳尻が合わないんだよ」


 シスカから聞いた王国が魔族領へと進軍したという話。

 なるほど、非があるとするならこちらだろう。


 だとしても今目の前で彼女がこの街の人々にやっている事を看過するわけにはいかなかった。


 僕は答えず、代わりに剣の柄をゆっくり握る。


「あっさり覚悟を決められる辺り、やっぱり戦士だねえ。……んじゃ、始めようか」


 どこか諦めたようにメアはパチンと指を鳴らす。


 すると彼女の足元の路地の煉瓦が盛り上がり、そのまま噴水ごと破壊された。


「グォオオオオオオオオ」


 現れたのは家ほどもある巨大なゾンビだった。

 ただのゾンビではない。

 手や足と言った各パーツがオーガのものだったり、鉄製のアームであったりと、数多の屍を繋げられ、造り出された怪物だ。


「潰せ」


「グゥオオオッ!」


 メアは巨大ゾンビの肩に飛び乗りながら命令した。


 直後、僕は即座に立っていた場所から飛びずさった。

 一拍遅れて鋼鉄の張り手がそこに振り下ろされていた。


 舗装された路に大きな手形の跡がつく。


 大きさに見合わず、アンデッドとは思えないスピードだ。


「ッ!」


 僕は詠唱を省略して炎魔法を発動、手に炎を纏わせる。


「ソレ。予想してなかったと思ってたのかい?」


 直後、火はすぐさま弱くなっていき、最後には消えてしまう。


 湿気、いつの間にか周囲に濃い濃霧が漂っていた。


 気付けば足元には水魔法が刻まれた魔法陣が描かれている。


「私は自慢じゃないが喧嘩が弱いんだ。キミみたいな強者を相手にするなら、これぐらいの準備はしてくるよ」


 視界すらままならず、メアがどこから声を発しているのか既にわからなかった。


 やがて声も消え、場を沈黙が支配する。


 ……。

 ……。

 ……!


 そこへ突如悪寒が走り、僕はその場から飛びずさる。


 今度は鉄腕が横薙ぎに振るわれ、僅かにかすった。


 危ない所だった。直撃したらどうなっていたか――⁉


「――って思うだろ?」


「ごはッ――」


 ガシリともう片方のオーガの腕に掴み上げられる。


 見ると、目の前のソンビ鉄腕は肩から下が外れてワイヤーを経由して伸びて、腕ごと僕の後ろに迫っていたのだ。

 遠隔操作。こんな事までできたなんて!


「ははは。引っかかったねえ。つかまえたよぉ!」


 勝ち誇るメア。

 完全に捕えられてしまった。


「一応聞いておくけど降参する気ある? 君の立場は知ってるよ。王国のお偉いさんに捕まったんだろ? 行き場がないなら、相方の竜女とセットで、今なら好待遇で迎え入れてあげるけど、どう?」

「ないね。その申し出は受けられないよ」

「そっ。残念」


 返答なんてわかりきっていたのか、メアは特に執着も見せずパチンと指を鳴らす。

 オーガの手に力が入り、メキメキと嫌な音と共に、僕の身体は肉が圧迫され骨が軋む。


「ぎっ、あぁあああああああっ!」


 まずい。このままでは潰される。


「ラ、ライトニング!」


 僕は電魔法を発動。

 体中に電撃が走らせる。自分にもダメージが入るが知った事ではない。


 すると生身の腕だったからか、僅かに拘束が緩む。


「うぉおおおおお!」


 チャンスとばかり僕はそのまま強引に指を引き剥がす。


 隙間の余裕ができるも、解放にはまだ遠い。

 だが、充分だ。


 その間に懐に入れていたマジックアイテム……火属性の魔法球を取り出して魔力を流し込んで、着火させる。


 ドォンッと爆発が起きる。

 オーガの腕はバラバラになり、僕もそのまま落ちる。


「ゲホッゴホッ!」


 僕はうまく呼吸ができず咳き込みながらも、火傷だらけの身体をおして立ち上がる。


「正気かよ。……爆発の直前、バフで火への耐性を自身につけてたみたいけど、それでもダメージは半端ないだろうに。もう少し自分の身を顧みた方が良いよ?」


 一連の僕の行動を眺めていたメアは呆れる。


「……っていうか、もう戦えないでしょ。そんな身体でまだやる気なの?」

「そうだな。体の傷もそうだけど、もう体力も魔力も半分以上消費している。長期戦は無理だよ。でも――」


 魔力をフル稼働させる。今度は体中に満遍なく行き渡らせる。

 今度はシンプルな強化魔法バフだ。


「君を倒すのには充分だ」


 僕は走る。


 ゾンビは無事な鉄腕を伸ばすも、今度はヒラリと身体を捻らせて紙一重で回避。


 どころか、飛び乗る形でゾンビの腕に乗って、そのまま駆け登っていく。


 目指すは肩に乗ったメア・リオネス。


「特攻かい。理解に苦しむね!」


 メアは背後からいくつもの魔法陣を浮かばせ、そこから青い鬼火を砲台のように発射する。


「今さら、そんなものぉ!」


 僕は剣で全て弾き飛ばす。

 それを見て、メアの方もようやく顔色を変える。


「ちょっ……マジかよ!」


 そこでメアに剣が届くといった距離で――ギィンと刃と刃が打ち合う音が響いた。


「……なんてね。私だって近接戦の心得ぐらいはある」


 メアはどこからか出した大鎌で応戦したのだ。


「やれやれ。こんな可愛い女の子に刃を向けるとか酷い男だね」

「君たちを見た目で判断すると、後でどんな痛い目に遭うか。その身をもって知っている!」


 軽口に付き合うつもりはない。僕は再び斬りかかる。

 目の前の彼女は明らかに遠距離タイプ。近接戦ならこちらに分があるはずだ。


 何度目かの打ち合い。

 やはり限界が来たメアは大鎌があらぬ方向へと飛ばしていく。


「チッ! ――このっ、舐めるなぁ!」


 浮遊魔法で飛翔してさらに距離を取るメアは両手を掲げる。


 すると彼女の掌から禍々しい球体が形成されていく。


 使役するゴーストの怨念や霊体そのものを収束させ高密度のエネルギーに変えているのだ。


 対してこちらも四属性の魔力を全てを剣に集中させていく。


「怨念禍根砲!」

「――ずああああっ!」


 二つの強大なエネルギーがぶつかり合う。

 ……駄目だ。

 純粋な密度なら向こうの方が上だ。このままでは押し負ける。


 いや、まともにぶつかって押し勝とうと考えるな。


 ヴェロニカとの戦いを思い出せ。

 力を研ぎ澄ませ。

 膨大な力の塊の弱い部分を見つけろ。


「はああああああ⁉」


 直後、力の渦……そこを起点にやがて怨霊のエネルギーは真っ二つに分断された。


「馬鹿な。こんなの認め――」


 メアが言い終わらぬうちに、当の彼女の身体も縦に真っ二つに切断される。


「あぁあああああああああああ!」


 そのままメア・リオネスの身体は塵となって崩れ消えていった。

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