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第15話 メアちゃんのトラウマ

 交易都市の制圧。


 東部に位置するこの街をアンデッドの巣窟にして、王国への侵攻拠点として王国のみならず、人類圏の各国に大打撃を与える。

 それがメア・リオネスの任務だ。


 この東部とガルドフやレヴィアが現在も陣を構えている北部の戦線からも二方向から揺さぶりをかければ、上手くいけば王国の領地を半分ほど奪える計算である。


 手始めにこの都市の住民を捕虜にして、近くの都市や王都へと正式に宣戦布告する手筈だ。


「まあ、全員アンデッドにした方が簡単なんだけどね」


 メアは苦笑しつながら呟くも、結局はその案を自ら却下した。


  この案は一番楽ではあると同時に、全てアンデッドにすると上位種に進化できるほどの強靭な魂を持つ個体を除けば、理性も知恵を失った傀儡となってしまうというデメリットがあった。

 いたずらに混乱を呼び込む攪乱目的ならまだしも、この場所を恒久的な拠点として運用するならば、有用な人間は捕虜としてだけでなく、できうるなら子飼いにして徴用したいとメアは考えていた。


(とはいえ反抗的な連中は見せしめにしっかりゾンビになってもらうけどね。でも、見た限りでは今の所は大人しい感じかな)


 最初こそ街中がパニックに陥っていたが、現在はほとんどの人間が集まって身を寄せるか、家や店に引き籠って籠城している。


 こちらとしては助かるが、いやに物分かりが良いというか、いささか上手くいき過ぎている感がある。


(……やはり聖女かな)


 今この街には聖女シスカが滞在しているらしい。

 先の戦争で魔王を討伐した実質的なメンバーの一人である彼女はアンデッド召喚を起こした直後、彼女が風魔法による伝令で都市中に励ましと共に、決して早まった行動をせぬようにと釘を刺していた。


 なんで彼女がここにいるのか。

 どうやら王都での権力闘争で負けて、故郷であるここに戻ってきたらしいが、こちらとしてはタイミングが悪いとしか言いようがない。


(いや、逆にこれは好機かもしれない)


 自分のような闇の魔力を操る死霊術師にとっては聖なる力を有する聖人や聖女は天敵の類だ。

 ならば、今ここで始末、もしくは無力化しておいて損はない。


(とはいえ、肝心の聖女の居場所がわからないわけだけど……)


 聖女シスカは先の伝令以降、消息を絶っていた。

 実家である領主の屋敷にも“目玉”を送ったが姿が見えない。


 こちらに悟られぬように認識阻害の魔法でも使っているのかもしれない。

 だが、どうせ居場所は大体予想がつく。

 逃げ遅れたり怪我をした幾人かが、避難場所として集まり始めている施設がいくつかあるので、聖女シスカが聞いた通りのお優しい心の持ち主ならば、居場所はそこら辺だろう。

 なんなら、屋敷の家族連中を人質にしても良い。


 焦る事はない。

 じっくりとあぶり出そう。

 状況はいまだ自分らの方が圧倒的に有利なのだから。


 だというのに、一抹の不安が消えない。無性に嫌な予感がするのだ。


 ふと、誰かから意見が欲しくなる。

 しかし、口うるさいガルドフや真面目過ぎるレヴィアもここにはいない。


 ……ぶっちゃけ寂しい。


「――と、いけない、いけない」


 ――とそこまで考えて自分の頭を小突く。

 上手く事が運び過ぎると逆に不安になっていくのは自分の悪い癖だ。気をつけよう。


「……メア様」


 不意にヌビンスが声をかけられた。

 包帯だらけで表情こそわかりにくいが、声色でどこか焦っているようで、メアは怪訝な顔で応える。


「ん。どしたの? 冒険者の反抗が予想よりも激しいなら遠慮なく潰しちゃって……」

「いえ。そっちじゃなくてぇ……」


 隣にいるミラカナもどこか気まずそうな顔をしている。

 二人してこんな反応は実に珍しかった。


 メアの中の嫌な予感がいよいよ現実味を帯びてきた。


「実は……既に街に配置していたアンデッドの四分の一が壊滅しているのですがぁ」


「……は?」


 ミラカナの言葉にメアは思わず聞き返した。


 ああ、やっぱり聞かなければよかったと思いつつ、メアは手元の水晶へと魔力を走らせる。

 この都市の全景を記憶させた魔力水晶は地形を映し出す。


 そこに一際強い魔力の反応をキャッチして表示。

 表示された反応は彼女らの言う通り、凄まじいスピードで各所のアンデッドの集まりを破壊して回っていた。


「誰だよ。こいつ」


 いや、こんな芸当を仕出かせる奴なんて、自分が思い当たる中でも数えるほどしかいない。


 メアは水晶のその場所を拡大させて、景色そのものを表示させてみる。


「……、……ヴェ、ヴェロニカアアアアー!?」


 絶句。いや、一瞬意識が飛んでしまってた。


 紅髪をたなびかせた竜人族の女。

 間違いない。先の魔王との戦いで行方不明になっていた魔王軍幹部にして最強の女戦士。

 その昔、通行の邪魔だという理由で待機させてた自分のアンデッド部隊を壊滅させた迷惑女。

 ……そのせいで、肝入りだった作戦が失敗して丸一日泣いた。


(なぜこんな場所にこの女が? しかも人間に与している? なぜ? なぜ?)


 メアは頭を抱え、そんな彼女に今度はヌビンスが声をかける。


「言いずらいのですが、……お気付きですか? ……下手人は……その女だけではありませぬ」

「はい?」


 なんか、もう聞きたくなかった。


 おそるおそる水晶のモニターを別の場所に切り替える。


 彼らの言う通り、もう一人、大立ち回りをしている反応があった。


 同じように凄まじい勢いでアンデッドを潰し回っているスピードだけならヴェロニカと比べるもない。

 人間の範疇だ。


 だが、目を見張るのはその動きだ

 ひたすらに暴れ回っているヴェロニカとは対照的で無駄のない動きで移動して、こちらが要所要所に配置させていたアンデッド部隊を確実に潰して回っている。


 かなり戦い慣れている、戦争という意味で。

 おそらくは凄腕の冒険者だろう。


 メアは勇気を出して映像を表示。


「……いやー。何者だろうなー」


 メアは表示された男を見て、目を泳がせながら呟く。


「メア様ぁ。現実逃避はやめてくださいよぉ」

「……魔王ゴラゼオスたちの戦いをちょくちょく盗み見ていたはずでは……?」


 若干呆れたようなミラカナとヌビンス。

 現実逃避しているなんて、失礼な部下共だ。


「いやいや逃避していましたよね。間違いありませんって。ほら、この男は勇者ですよぉ」

「ぎゃふんっ!」


 ミラカナの言葉にメアは本日二度目のフリーズをかます。


 勇者。

 光の代行者たる超戦士。

 取引でゴラゼオスたちに貸し与えたサイボーグゾンビをたった一太刀で真っ二つにした勇者。

 ……わりと最高傑作で自信作だったため、数日間立ち直れなかった。


「はっ!」


 そこで意識を覚醒させる。

 走馬灯のごとく過去を振り返っていた。


 勇者?

 なんで?

 いや、ゴラゼオスを倒した勇者は代変わりして以降、消息を絶ったとは聞いた。

 しかし、なぜここで我々の邪魔をして……いや、こっちの理由はまだわかる。


 相手は腐っても勇者である。人々の平和が侵されている。

 動く理由なんてそれで十分だろう。


 じゃあヴェロニカは?

 なんでこの戦闘狂がこの街を守るために戦っている?


 ……何故、この二人が組んでいる?

 わからない。

 わからない。


「あれ? メア様? メア様ー!?」

「お気を……確かに……」


 混乱のあまり、今度こそ頭がショートして気絶に見舞われる。三度目である


「はぁっ⁉」


 メアは再び意識覚醒。

 そして頭の中で状況を確認する。


 気付けば、もう街の半分のアンデッドが失われている。


 ――なんなのこいつら、チート過ぎるだろ。


 見ると、街の冒険者共も呼応して抗戦を始めた。

 おそらくずっとこの機を窺っていたのだろう。


 もう一刻の猶予もない。


 メアは覚悟を決める。


「ヌビンス、ミラカナ。ここで逃げるわけにはいかない。至急戦闘準備を」

「「はい」」


 主の纏う空気が一変したのを察した二人の下僕も即座に応える。


「私たちはゴラゼオス一派とは違うって見せてやろうじゃないか……!」

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