創生キャンプパラダイス その2
絵に描いたようにポップな雲と夏空が私たちを見ている。500人分以上のフードとドリンクを用意するなんてことは17年間の人生の中で無かったよ。時が存在するのなら私は今年で18になる予定だったんだけど……なんて忙しいのに余計なことを考えてるのはなぜなんだ、脳に糖分が足りないからか。ドリンクをもらいに行った。
カゴいっぱいのぶどうはすべて大きなジューサーに投げ込まれ、その果汁に炭酸と砂糖を加えたものが何台ものドリンクサーバーに収められた。子だぬきは流れ作業で容器に入れてはストローをさして葉子達がいる売り場へと持っていく。
気がつけばステージ前はお客さんでぎっしりと埋め尽くされている。みんな立ちながらライブの開始を待っているようだ。子だぬきにジュースを一つもらってタノキチのところへ向かい『準備できたよ〜、そろそろライブ始まるの?』とか尋ねると〈それが……まだ主役が来てないんダヌ。遅くなってるのか分からないんだけど連絡取ろうにもスマホを持っていない人で……とりあえず、時間稼ぎとしてフードの方にお客さんを回すからよろしくダヌ!ボクも手伝うから!〉と、白い円形のガーデンテーブルを大量に創生した。
そのうち〈開始時間はちょっと遅れるダヌ!ゆっくりしててダヌ!〉というタノキチの適当な島内放送が流れ、ゾロゾロとこちらへやってくるではないか。急いでカレー売り場に戻り、みんなで創生した紙のカレー皿に子だぬきがご飯をセットしたから、その上にどんどん秋葉と私がカレールーをかけて完成させていく。大量に列を成す動物人間さん達は一体、何者なんだろうね?なんて作業しつつ秋葉に聞いてみたら「……ある程度の自意識はあるようだから、半分目覚めてきた人……なのかも。」と言われてもさっぱり分からず。
「寝ぼけたまま学校に行ったりしているような状態かな?高校の時の朝の丹海みたいに。」なんてニヤっとしてきて。『み、見てたなっ?私が虚ろな目であくびしていたのをっ!』ってうろたえると「……朝に弱いんだな……とは思っていたけど。丹海は……気を抜きすぎる。いつも誰かしら見てたのに全然気にしてない……羨ましいとすら思った……まぁ私は、そんなに丹海のこと見てないけどね……」とか平然と嘘をつくので『エッチ。』と告げるとあはは!って笑った。……その笑い方プリンスと同じだからやめて?
途中で子だぬきに作業を変わってもらい、私たちは売り場を手伝った。レジを覗くと、彼らは見慣れないお札と小銭でやりとりしている……いわゆる、異世界のものなのか。色んな現実が存在していることに驚くし、同時にワクワクする。秋葉も「なんだあれ……」と気になってたら〈ちょっと!早くカレー3つこっちに持ってきてダヌ!〉とタノキチに怒られた。アルバイトをしている気分だ……いや、したことないけど。
『……うちの高校はバイト禁止だったし、そういうのやりたかったって思ってたから今楽しいよ。』って話すと「そうなんだ。やれるなら……他にどんなのをやってみたい?」と聞くからしばらく考えて『着ぐるみかな。』とか答えた。「…………丹海は……お金をもらったら何に使うの?」とまた聞いてきたから『う〜ん……何だろうね、チョコレートでも買うかな、箱の。』なんて言ってたら秋葉が指を眉間に押さえて「丹海………ここに来てよかったね……」ってそれっ、葉子にも言われたぞっ。
「意外と変わり者………物欲とか全般ない……」
それは秋葉もそうでしょっ、部屋に物がないじゃん!と指摘をすると「そうだね……自分はミニマリストに寄っているかもしれない……」とか…………なにそれ?
「……大切なものだけを持つ生き方。要らないものを切り捨てているのではなく……自分の愛の責任の範囲で持てるものを選んだ結果そうなるもの…………人間は、2本の腕しかない………千手観音ではない………」
秋葉の名言タイムと共にタノキチの怒声が飛んでくる。そんなこんなでお客さんにすべて提供することができたようだ、私たち4人もガーデンテーブルにて立ったままカレーを頂くと「美味しいよここちゃんっ!あっさりしてるけど旨味があって!」「おかわりしたくなっちゃいますっ!美味しいですねっ!」2人から高評価をもらって「うん……」と、ここちゃんは喜んでいる。
私もプラスチックスプーンで口に運び『秋葉、美味しいね!』って手作り魔法カレーの感動を味わった。あれから味が落ち着いてコクが出てきたのか甘口だしどんどん食べたくなる。〈作ってくれてありがとダヌっ!このジュースもボクの好みダヌっ!〉タノキチはカレー2杯目に入ったらしい。するとステージから小粋なジャズ演奏が始まってみんな盛り上がる。〈まだ、アーティストさん来てくれないので知り合いを前座として呼んだダヌっ!〉って言うけどあの方々は…………なに?
「すごい、あれは…………麒麟……?幻の、聖なる存在と言われている………」
黒いスーツを着たトナカイのような龍のしっぽをもってるような人たちがニコニコ楽しそうに演奏しているから、葉子も興味津々で………って、行っちゃったよステージに。そして何やら彼らと話したのち、グランドピアノを創生して一緒におしゃれなジャズを弾き始めた。なにこれ……かっこよ……………秋葉に聞くと、ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』のアレンジらしい。のどかで……でも、この空の雲のように定まらずに流れていく優しい感じが素敵………♡あおいと見惚れていると……ん?頭上に、箱をぶら下げた赤い風船が浮いていて。パンッ!と割れてタノキチの所に落ち、彼が中に入っていた手紙を読んだ途端に顔が青ざめる。
〈たっ、大変ダヌっ!!スーパーアーティストの『けたけけ』さんが来れなくなったダヌっ!!〉
聞くと……ひどい風邪らしい。〈彼、いつも服を着ない健康療法にハマってて……どんな天候でもそれでライブしようとするから止めたほうがいいって前から言ってあげてたんダヌに……ここはサソリもいるし危ないダヌよ………〉秋葉とあおいと私は死ぬほど笑いをこらえた。
すると客席が〈え?あの人……HISUIじゃない?〉みたいな感じでザワザワしだして。絶望していたタノキチは何かを察知し、私たちを見て〈あの人は……ひょっとしてアーティストなのダヌ?〉と聞くから3人でうんうんとうなづいて。彼はすぐさまステージへと走っていき、葉子と短い話をしてまた戻ってきて〈良かったダヌ!助かったダヌ!〉と涙目で私たちの両手を取った。つまりやるのか?スーパーアーティストライブを。
葉子が黒のcocoちゃんカレー♡Tシャツを着たまま客席に手を振ると、まだかー?と待っていたお客さんは理解した途端に〈ウォォー!!〉や〈キャアー!!〉と、テンションがブチアガった。すぐに葉子はシブい麒麟さん達と握手をして、打ち合わせや音のチェックをする。そして少しの間があったのち、ペットボトルの水を創生してスピーカーのそばに置くとバッと、照明がステージ上の人物達をライトアップして。
『みなさんっ、こんにちは〜♪新HISUIですっ♡そして〜素晴らしいメンバーも一緒です♪』
マイクを持ってにこやかに笑うと客席もあおいも叫んだ。私たちはタノキチと同じ、客席中央の特殊なクレーンによって吊られたテーブル付きの特別席に座ってライブを見ている。なにこれすごい景色……ステージも後ろの大画面液晶パネルも全部見れちゃう贅沢……♡
『えー……今回は、急遽こちらのステージでライブを行うということになり、皆さんたくさん聴いて頂けたらと思いますっ!よろしくお願いしま〜すっ!!』
〈HISUI〜!!〉という声が下からたくさん飛んできて、ああ何年経ってもすごい人気なんだな……と眺めていたら〈クェ〜♪アイスキャンディーいるかい?〉とか麦わら帽子を被った赤と黄色の青のカラフルなインコがいきなり飛んできたからとりあえず一人ずつもらった。私がイチゴ味を食べていると〈いや〜最高だね!ぼくは彼女のファンだったんだよ!今もそうだけどね!〉って目の前のテーブルに腰かけて顔をタオルで拭きはじめた。
こっそりと〈ここで鑑賞してもいいかい?〉と聞かれたので『お菓子を持ってきたらいいよ。』と言ったら、商売用のリュックから見たこともない賑やかなパッケージのものをいくつも取り出してきて、隣のあおいと興奮しながら開けていった。
そのうちにステージはデビュー曲「君を咲かせて」からスタートし、私の知らない楽曲もたくさん歌ってとにかく迫力に感動する。まだアルバム全部は聴いてないな、今度ゆっくり聴きたいな……って紫の丸いラムネをガラガラ出していると秋葉が手を伸ばしてきたから『はいっ』てあげたら手ごとつかんできてあおいがキャ〜♡みたいになってて私はすぐに振りほどいた、何なんだ。
大きなハート型のキャラメルと一緒におもちゃの箱がくっついていて、開けるとトランプが入っていた。それから『あつ森』のウエハースもあって、その中のシールを取り出すと『けたけけ』だったから元に戻した。お菓子の中で特に派手なパッケージを見つけると『なるなるなるね』という練り菓子だとインコが説明してくれ、裏HISUIのロックな音楽が鳴り響く中、空中で私とあおいはそれを楽しんでいく。ライブを見ながらこんなことできるなんてすごい贅沢だよこれ。
上から見ると麒麟さん達もよく見える。新HISUIはステージの左右に走り、時々水を飲み、芯のある美しい歌声をマイクに込めて届けた。10曲程度歌ったところで『皆さん、楽しんでますか〜っ!』と呼びかけて『あっついね!みんな飲み物飲んでねっ?飲んでるっ?』なんて気楽なトークが始まる。これまでのHISUIだったらあり得なかっただろうからすごく新鮮だ。気がつくと空に大量の箱付き風船が浮いていて『みんなー!私からのプレゼントタイムだよっ!好きなのを選んでねーっ!』っていきなり箱が全部落ちて来たから客席は〈ワァーッ!!〉と叫ぶ。
私の頭に落ちてきた箱を開けると、金色の鉱石のようなものが入っていて。やった!金だ!と思ったら触ると表面が溶ける。甘い匂い……鉱石に似せたチョコレートだった。あおいは『HISUI』と小さく書かれたおしゃれな黄緑色のタオルを広げて「これっ!当時こんなグッズ売ってなかったですよ!新オリジナルですっ!!」って目を最高に輝かせて喜んでいる。秋葉は何もらったの〜?と問うとサイン入りの写真カードを見せてきて「いらない……」とか言うからあおいがすぐにもらった。
いつどうやって撮ったのかは知らないけど、新HISUIは椅子に座り、少年のような笑顔で膝の上に頬杖をついてこちらを見ている…………か、飾りたい…………今度『葉子部屋』っていう専用の場所を作ろうかな……なんて想像してたら秋葉がジロっと睨んでいてエッチだな。見ないでよっと言うとプイって隣のタノキチを撫で始めて〈ちょっとやめてダヌっ!ボクはペットじゃないダヌよっ!〉とか嫌がられている。はぁ……モフモフいいなぁ〜って見てたらあおいも私の頭を撫でてきて…………ん?
「ふふっ♪丹海さんって、どうしてそんな可愛いんですか?私も何だか撫でたくなっちゃいます♪」
やだ…………新♡あおいに、ときめいちゃう……♡とか見つめ合ってホワホワしてたら秋葉が「あ、あおいさんっ、私もお願いしますっ。」などと言い出し「ええっ?!」ってリアクションになったけど、進化をした彼女は秋葉の頭も恥ずかしがりながらナデナデしてあげている。これ見られたら葉子に怒られるぞ。
そのうち、空が曇ってきてタノキチが〈あ、まずいダヌ…………でもまあ、みんな服着てるから…………〉なんて不穏なことを言っている。葉子はステージに落ちていたプレゼントボックスをすべて客席に投げ込み終わると麒麟バンドさん達と笑って目を合わせ。そしてステージ中央に立ち、静かな口調で『……ライブ、楽しんで頂けていますか?突然でしたけれど、このような素敵な場所で歌えること……とても嬉しいです、有難うございます。』って喋り出し、あおいがHISUIタオルを握りしめて「姫………いつも素敵……♡」瞳をウルウルさせ見つめる。
ポツ、ポツ、と雨が降る中、ギターの音色と共に、私も知っている名曲が流れ出す。客席はいっそう盛り上がり、懐かしさを感じるメロディとオレンジのライトがステージを優しく包んでいく。わぁ……生で聴くの初めてだ。
心のそばで 作詞 ・ 作曲 HISUI
『君は世界を 閉じたまま祈ってる
いつか何もかも 満たされるって
夜と朝の陽を繰り返す 浸されて
久しぶりの雨にも 気づけなくて』
HISUIはスタンドマイクに片手を置き歌い出す。YouTubeで2億回以上再生されている曲だ。この歌特有の、まるで小さな女の子みたいにまっすぐな響きが私に届いて、ぐっと世界観に引き込まれて。〈……作品によっては、声のトーンが微妙に変わるというのがHISUIの奥深さというか魅力だよ。〉とインコも食い入るように聴いている。
『誰にも分かり得ない 鎖、胸に抱えてた
笑えない気持ちなら 知ってるから
辿り着きたい君の
心のそばで 痛み抱えて
光もすべて消えかけても
照らし続けていくの 暗闇が眠らす希望を
君に呼びかけるよ
終わらない日々を越えて…………』
強くなる雨と共にサビを熱唱し、矢のような強いメッセージと儚さを感じる繊細な声に心打たれる。この歌を16歳とか17歳で書けるのは本当に才能だよ、アーティストだね………全身が濡れても構わず歌い続ける気迫の姿に感動した。涙が出てきたので既に泣いているあおいと音楽に合わせて手を振る。
〈すごいダヌっ!ボクは彼女のこと知らなかったけどファンになったダヌっ!〉ってタノキチは壁紙のフォトを撮りたいらしく〈クールな表情お願いダヌ!〉と秋葉に頼んで、偽HISUIを激写しているからあおいと笑った。本人いるのにそっちかいっ!まったく、変な商売しないといいけど。
そして間を待たずに次の明るい曲が流れ出すと、私もみんなも〈ワァァッ!!〉と歓喜で溢れた。たぶんHISUIといえばこの歌が一番有名なんだと思う。〈やっぱりこの曲は外せない。私が死にたいほどクソな時はいつもこれを聴くんだ。〉とインコは鼻息荒くして語った。HISUIはニコっとして手拍子のサインを送り、客席中央に道を創生して歩きながら歌い出す。
踏み出せるから 作詞 ・ 作曲 HISUI
『泣いてた顔にそっと 優しいハグして
勇気をくれたね 忘れないから
恐れることばかり慣れすぎていた
もう一度 思い出したい あなたの笑顔
今ここで、踏み出せるから
飛んで行くの 風感じて
いつかの夢 叶えたい 想いごと見つけ出せる
抱きしめて 強い瞳で……』
はぁ……雨がすごいけどシンプルな音楽が熱くて美しいよ。客席もずっとジャンプして手を振っている。間奏の間にステージに戻り、HISUIの優しくイケメェンな微笑みが後ろの液晶パネルに映る。うわ……惚れるわこれは。そして最後のサビにもう一度入ったら、パァン!とキラキラの紙吹雪が舞ってきて、テンションは最高潮までアガった。
『今ここで、踏み出せるから
私はあきらめない
いつかの夢 叶えたい 想いごと見つけ出せる
信じてる 願いを胸に……』
「神ぃ…………」と、あおいは崇めている。まぁ、その神にキスをねだられてるんだからそりゃあ困るよね………うわっ……葉子が惚れるだけあってこの人ほんと綺麗……髪も綺麗……まつ毛長っ………みたいなことを色々想いつつあおいの横顔を眺めてたら「なんですかっ?」ってふいに笑顔でこっちを向かれてひゃいっ!ってなったら秋葉がまた睨んでいた。君はいつも見るけど何なの?ファンなの?とか言ったら「私のファンクラブメンバー、募集中。」なんて意味不明のアガり具合だから無視をしたけどあおいは何か興味を持っている感じで詳しく聞きたそうにしていた。
そんなことをやっているとゴォォ!!とインコの麦わら帽子が吹っ飛ぶほどの雨が刺さるように落ちてきて、私もみんなも叫んだ。〈たまにこういうゲリラじゃなくてゴリラみたいな豪雨が来るんダヌっ!〉ってタノキチが嘆いていると麒麟バンドの皆さんが空中へ飛び、軽やかに空を通過して風を起こし、夕陽の空に変えたから拍手が沸き起こる。「す、すごい………これが幻のプケモンの力……」じゃないから秋葉っ、でも……そんなような人たちなのか。そしていつの間に髪も全身も乾いていたから驚く。
『みんな〜♪面白かった〜?それじゃ、ありがとね〜♪』
って、葉子があっさり終わろうとしているからすぐにアンコール!の拍手が鳴り始めて「あははっ!」なんていつものイタズラ好きな表情で笑って。はぁ……美少年すぎ♡とか見惚れていると麒麟バンドにニコっとしてから『じゃ〜楽しいから、カラオケタイムだよ〜♪列車が出発しま〜す♪』と言って発車メロディのようなサウンドと共に軽快な演奏と歌が始まった。
3年ちょっと 作詞 ・ 作曲 一夜 マナ
『3年ちょっとで いつでも 恋をしてるよ
どこかへ行ってしまっても 愛を贈るよ
さんざん悩んでる 彼女の 声聞いてるよ
きっと伝わらないけど 愛の歌を
虹色雲に 伝書鳩を飛ばして
いつだって構わないけど 忘れちゃったの?
知らない駅で君の 夢描いたの見たよ
空に聞いたの どこにいるんだろ?』
えっ……急にキュートな声になった…………しかもまた知らない曲だ………あおい知ってる?と聞いたら、何だかちょっと下を向いていて。すると〈キャーッ!!〉って客席が盛り上がるからステージを見ると、葉子がいない。気がつけば、空飛ぶ麒麟さんに乗り込んだ彼女が上からゆっくりと私たちの席に下りてきて………
「あおちゃん、迎えに来たよ。」
って手を伸ばすの反則すぎっ!カッコよすぎて写真を何枚も撮った。あおいは勝手に空中に浮かび、葉子の後ろに乗せられると麒麟さんはさらに上空を飛んでから客席と私たちの周りを回った。葉子はニコニコして歌い、あおいは後ろで彼女につかまりながらとても恥ずかしそうにしている。
『3年ちょっとで 君にもう 恋をしてたの
山手線のメロディ スーツケースに入れて
中央線の回送 何回見てるの?
既読になって欲しいから 願いを込めて
つまらないビルを 数えて歌うよ
人魚が泳いで 竜宮城にしちゃうの
知ってる駅で君と 同じ雲見つけたんだ
空に聞いたよ どこにいるんだろ?』
「……葉子の、割と最近の歌。たまにこういう曲を作ってはいたけど………まさか、何十年も永く想ってる人がいるとは知らなかった…………葉子、秘密主義者…………」
それは君もだよ?て真面目に指摘をしたら、秋葉は頬を夕陽みたいに染めてプイっと横を向き、カレーを食べるタノキチを撫でたから〈ちょっと!〉ってまた怒られている。すると空は暗い藍色へと変わり、ステージに降り立つ新HISUIと新あおいに虹色のライトが当てられ。客席が若干ザワザワしているから、あおいのことを知ってた人は気づいたのかも。
葉子は、少しあおいと会話を交わす。彼女は何か慌てているようだったけど、渡されたマイクを持つとまっすぐに客席を見た。その時、液晶モニターに光が灯って何かのアニメの映像が始まり、新HISUIと新あおいは同時に歌い始める。
キミと横顔 作詞 ・ 作曲 一夜マナ
『想い乗せて キミも来てくれますように
いつでも願ってる
流れる光 星を見に行きたいな ドア開けて』
すごい……息ぴったり。しかもこれ、アニメのオープニングの曲?って「?」になってたら〈いや最高だね!ぼくはいわゆるアニメ系のギーグでもあるんだけど、『カナと飛鳥』は大好きなんだ、もう初期の頃からファンだよ!HISUIがこれを歌ってくれるなんて夢のようだ!〉とかインコが熱くなって長めに語るけどよく分からず。とりあえずアニメの歌なんでしょ?と聞くと〈そうだよっ、百合界隈では教科書と言われるほどの素晴らしい作品だ!〉………百合ってなんだ。……あれ?葉子がこの曲を作ったとして、どうしてあおいとこの歌を?と疑問に思ってるうちに2人は交互に歌い始める。
『いつもの席にいない 気になるよ窓の外見上げ
繰り返すnew days キラメキをノートに写して
見つめてほしいのに 分からないそのまま
ページをめくってよ 空に浮かんで2人で』
え〜ふわふわしててかわいい〜♡……と癒されていたら空中に光のレールが出現し、ペンライトを振るみんなの身体が浮き始め、新HISUIと新あおいも宙に浮かんで小さなレインボーの電車に乗り込みゆっくりと動き出す。2人がその窓から手を伸ばしてハイタッチしてるのもかわいい〜♡
『想い乗せて キミも来てくれますように
いつでも願ってる
木漏れ日に まぶしく笑う横顔に
手を伸ばし繋げたのなら
ここにいる時間が終わっても、きっと
構わないよ 見つけたんだ
特別な場所 向かいたいね』
虹色電車は、最後に私たちのいる特別席に到着し。あおいがテーブルに下車すると、新HISUIが彼女の手の甲にこっそりキスをした……けど、空中カメラマン麒麟さんによって思いっきり背後の液晶モニターに様子が映っていて会場は〈HISUI〜!!〉〈キャー!!〉と盛り上がり、秋葉はやれやれという風に笑い、タノキチは興奮してフォトを連写する。……熱烈なファンになってるね?
葉子もステージに下車すると『みんな!!ありがと〜っ!!』ってブンブン手を振り、大きな拍手と共にライブは無事に終わった。まだまだ会場は盛り上がっていてみんなザワザワと帰りそうもない感じだ。『ほんとにあついねっ!ねぇねぇみんなっ♪プールで泳がないっ?』と葉子がマイクで提案すると〈入りた〜いっ!〉みたいな声があちこちから沸き、その瞬間にステージの周りを囲むように円形の大きな流れるプールが創生された。水着に切り替わった動物人間の皆さんは流れながらバシャバシャと暴れて最高のナイトプールを満喫する。
水色とピンクの派手なライトがプールサイドエリアから水面をギラギラに照らし、中央のステージではシブい麒麟さんが『けたけけ』が使用するはずだったDJ機器を起動させる。ヘッドフォンをつけながらエンドレスなアガるリミックスを流し出したから、私たちも水に飛び込まないわけがない。特別席がクレーンで下ろされ、早速水着を……と思ったら「あおちゃんっ!にゅ〜っ!」ってスーパーアーティストの新HISUIさんに後ろから抱きしめられた。
私が『ライブすごかったです、あの……サインください♡』とお願いしたらなぜかあおいと一緒に首にキスされ。……おいっ、完全にアガってんね。あおいは「キャァッ!!」とかまたお腹から叫んでるけどそれほど逃げない。彼女も強くなったのだ……何が?とセルフツッコミをしていると秋葉がマネージャー顔であおいのガードを開始し、葉子は「あおちゃんは私の恋人だもんっ!ね?行こ♡一緒に水着お着替えしよ?」という石化魔法によって一瞬であおいの時を止める。
結局、葉子は彼女から引き剥がされ、プンプンになりながら私たちに新しい水着を渡してさっさとテントへ行ってしまった。近くにいたタノキチも葉っぱ柄のトランクスを彼女からもらったけど〈ボクは泳げないんダヌよ。いい生地だからもらうけども……〉なんてコメントして去って行くから3人共笑いすぎてお腹痛い。
葉子が着替え終わると私とあおいは狂喜した。ルイ・ヴィトン柄の黒い水着とサングラスが似合いすぎる………手に持ってるでっかい水鉄砲すら撮影のための小道具に見える………すぐにあおいが着替えると、小さなレースの付いたホワイトのオフショルダーでもう天使だよこれは……「は〜ん♡あおちゃん♡白いクリオネ〜♡」と葉子がワカメみたいにクネクネして「あ、ありがとうございます……」って指をいじるの何これアニメ?2次元から飛び出して来たの?
私は…………シンプルなパステルピンクの水着を渡されたので普通に着替えた。「わっ!!か、可愛いですっ!丹海さんっ!」「はぁ♡にゅ〜は何着てもみんなを好きにさせちゃう♡」秋葉のところへ行くと顔をそらして「それは……着ちゃダメなやつ………」とか言うから『じゃあ何着ればいいの?』と問うと「黄色いスマイル柄の……小さい子が着てるようなやつ……ブフっ!」などと吹いているので思いっきりぎゅ〜っをしたら勢いよく振り払って「きゃ〜ん♡」なんて言われながらテントへ走って行った。
秋葉のマーメイドグラデーションカラーのビキニが、夜のライトアップにすごく映えてエッチだ。「いや〜っ♡ここちゃんいいよっ♡真珠のお肌♡って……あおちゃん!?」「……か、神ぃ…………」あおいがスマホを撮るのも忘れて放心するほどよく似合っている。『それは……着ちゃダメでしょう。』と私が真似ると「じゃあ何着たらいいの?」と問われたから『麻雀牌の柄で〜イーピンがちょうど胸のところに……』海まで追いかけられた。
タノキチがミックススムージーの売店を創生していたので私はピーチとバナナ、秋葉はキウイとマンゴー、あおいはブルーベリーとパイン、葉子はパッションフルーツとメロンのLサイズをもらって飲みながらプールサイドまで上がり、みんなでクッション付きのビーチベッドにてくつろぐ。いい感じのオトナでダンスな音楽の中、ワー!キャー!とプールからはアガった声が届き、私は隣に寝そべる葉子と同じサングラスをもらってチルタイムごっこをした。はぁ……私かっこよ………とかやってたら隣から秋葉がチラチラ見るからサングラスをとって笑顔で「なんですかっ?」ってあおい風に聞くと、ボソっと「星が………綺麗だね。」なんてロマンチック始まった。
『でも、ここの夜空は……造り物みたいだよね。』とか私が台無しなことを言うと「それは……関係ない。」とこちらを見て真剣に言われ。
「たとえ飾りだとしても……『綺麗だな』っていう気持ちは……嘘じゃないから。それを丹海と共有できるなら…………嬉しい。」
…………手をつないできたから、しばらく見つめ合ってしまう。なにこれ?キュンキュンするんですけど?
「はぁ〜ん♡新婚編クライマックス♡そのまま続けて続けて〜♡」
「バカンスっていいですねっ……♡大胆なお2人素敵ですっ!」
やっぱりあおい達に撮られていて秋葉は即、手を離した。私が何事もなかったかのようにスムージーを飲むと葉子が「あおいっ、君と楽しい時間を共有したいっ!好きだっ!」って秋葉の声を真似しだすから思いっきりむせたし、途端に秋葉が葉子を追いかけて2人が流れるプールを逆走してて大音量のDJ音楽と同じ位あおいと爆笑した。
「みんなで行こうっ♪ほらほら〜♪」
戻ってきた葉子は私たちの手をつかみ、ついでに冷たい手で腕をプニプニ触って来てあおいと「ひゃんっ!」ってなってたら「ようこっ!セクハラしないでっ!」なんてマネージャーがプールから叫んで「あははっ!厳しいなぁ♡」とか笑いつつ見えないように私たちの手の甲にダブルでキスをすると「ようこっ!!」ってやっぱりバレてて今度は3人で笑った。
葉子はとても大きなビート板を創生し、私たちは寝そべりながら流れるプールを漂流していく。空にはいくつもの輝く星と、時々キラっと流れ星がやってきて。『ほら秋葉っ、お願いごとしたら?流れ星だよっ!』と言うと「そんなの、ないかな………?」って私の手を握らないで?少女マンガ始まっちゃうじゃん。「ここあさん素敵です……♡」あおいにも聞かれてるし。
「やだ〜!ここちゃんばっかり見てる〜!」なんて、葉子も負けじとあおいの腕に抱きついたらしく「よ、葉子さんっ?!」と若干引かれている。恋人みたいな認識はあんまりないんだろうな………葉子の苦労に少し同情しているとなぜか秋葉もあおいの手を握ったようで「へっ!?こ、ここあさんっ?!」って倍に動揺し始めた。
「あおいさん……葉子から何か苦痛を受けたら私にすぐ言ってくださいね?」
「えっ?そ、そんなこと………」と戸惑う彼女は、秋葉に横からじっと見つめられると意味深に無言になって「はぁ………姫…………♡」と微かにつぶやき。「あおちゃん!?」って葉子も動揺したところで流れ星が見えたので『ほらっ!あれっ!また来たよっ!』とか教えると「…………あおちゃんと、ずっと仲良くいられますように、あおちゃんと、ずっと仲良くいられますように………」本人の隣で言ってるの怖いからそれは。
「あおちゃんと、たくさんエッチなキスができますように………」
『こらっ、葉子?』なんて私がツッコむと「にゅ〜とここちゃんみたいに……たくさんエッチなキs……」とか言い出すから『してないっ!!』って秋葉と反射的に起き上がって、あおいは無言で赤くなっていて、葉子は「あははっ!」なんてほんと……子どもみたい。
でも……繊細で、放っておけない。
この水面みたいに、透き通っている人だから。
葉子を起き上がらせて『葉子のおかげで、いつも楽しいよ。ライブありがとう、ほんとにすごかった。』ってぎゅっとする。『あおいも……しよ?』と誘うと、ゆっくりと近くに寄って来て私ごと葉子をハグした。
「……いつも素晴らしい歌、感動してます。大好きです、葉子さん。」
「うんっ、ありがとう。にゅ〜、あおちゃん♪」
秋葉も呼ぶと、静かに私たちを包んで「人間には、2本の腕しかない………これが限界…………」とかつぶやくから3人でクスクス笑い出す。他に何か言うことないの?と問うと「私はパーティーの後衛………前衛の葉子は勇者にも魔王にもなるから、丹海にしか止められない………」なんてふざける。
あおいが苦笑気味に笑い出して葉子は「なに言ってるのっ?ひどいよここちゃんっ!」って怒るけど、どさくさに紛れて「でも私のこと好きだよねっ♡あおちゃんっ♡」とあおいにスリスリしながら深く抱きついて、秋葉がスタッフみたいに剥がそうとして抵抗してをやってたら私がバランスを崩して水に落ちた。
そしたらすぐみんなで引き上げてくれて「大変!にゅ〜に、たくさん人工呼吸しなきゃ!ここちゃんよろしくっ!」とか葉子がニヤニヤ言うから秋葉は彼女をビート板から水に落として、逆に引きずり落とされて……が始まって、私とあおいも引っ張られてザブンした。あ……ライトが幻想的…………
水中で、秋葉がわざとキスしようとしてきた。『エッチ。』って口だけ動かして言ったらツボに入ったのか、ボゴっと泡を吹いて水面に上がる。どこへ行ったのか2人を見渡すと、たくさんのお客さんに紛れて葉子はあおいの手首と耳にキスをしていた。はぁ……やってるわと眺めてたら秋葉が「丹海……首にしていい…………?」って……あれか、葉子がしてたの見てたよね…………と思い出しつつ、とりあえず親愛の証?の許可をするとチュッてした上にペロっと舐められて声出ちゃって顔が発火した。
あははっ!って何の悪びれもなく笑うから『私もするよっ!』って怒りの予告するとぎょっとして気弱な少女になり。無表情でプールのヘリに寄って壁ドンをすると「人に見られちゃうよ……」なんて、やってきたのはどっちだ。関係ない、やられたものは返そうと唇を首に触れさせると「んっ……」とエッチな声が聞こえ、首からあごに向かって軽く舐め終えるとますますエッチな顔になって息を荒くしているから、やめてよ……私も変な気持ちになっちゃうじゃん……とか思ったら口の端にキスをされ、そのまま2人でキスしてしまった。まずい。
これじゃナイトエッチプールだよ………熱を帯びた秋葉の声を聞けば聞くほど夢中になって止められず。離れて目を開けると、水に濡れて光をまとう彼女が私を見つめていて……言葉にならない程、美しい。
『秋葉が悪いんだよ……』
マーメイドみたいに人を誘惑して……なんてぶつくさ述べたら「ははっ」と笑い、私の頬に触れて「丹海だって……誘惑してきたくせに。」って知らないよ、いつしてた?そんなの……と聞いたら「はぁ……」とか大きなため息をつかれ。
「丹海は……表情がうまい、けど……自分の魅力を分かってないから恐ろしい……」
「ここに来てよかった……」と言われたから『なんで?私を独り占めできるから?』なんて速攻魔法を繰り出したら「うん、まあ………」とかカウンターされ『でもそれさ、葉子も同じこと言ってたよ。にゅ〜は誰のものにもならないよ〜みたいな?』ってカウンター返しを発動させると「…………言われたの?」すごい顔で迫ってきた、怖っ!
「……そう、丹海は誰のものでもないけど……………私が、丹海のファンクラブ会員番号1番だから。」
とか言って肩を組んできた。別に……1番だからと言って何の特典も待遇もないよ?とふざけるとプクーっと膨れて。「……1番にはマネージャーという意味があって、病める時も健やかなる時も共に……」ってそれ結婚だよっ!などとツッコミを入れてたら「丹海、重いでしょ……」ってちょっと笑いながら胸を触ってきて、マネージャーは即解雇になった。何をやってるの?
反撃して、私も秋葉の胸を水中で持ち上げたら「やめて……」とか真っ赤で、やられるのは嫌なんだよねこの人………というのを「あーっ!!エッチなことしてるっ!!」と葉子達に見つけられたので『はは…………いや、スキンシップかな?』とか開き直ると「いいな〜♡私もあおちゃんと……」が始まってあおいが爆発して、秋葉が指で眉間を押さえて…………って、楽しいパラダイスはずっと続くよ♪…………キャンプしてないが?




