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39.早すぎた陰謀

 街に広まっている悪い噂のことを聞き、寮に戻った翌日の事だった。放課後、アーシャたちと話し合おうと思っていた矢先、よくない知らせが飛び込んできた。それは午前の授業が終わってすぐのことだった。


 剣術の授業を終え、外廊下をアンリと並んで歩いていると、息を切らしたユーリスとエミールがこちらに駆け寄ってきた。


「アーシャを見なかったか?」

 ユーリスが焦りを滲ませた声で尋ねた。

「何があった?」

 ただ事ではない様子に、アンリがすぐに問い返す。

「アーシャが教室に来なかったから、寮母に問い合わせたんだが、寮には居ないと言われた」

「ですが、今朝から姿が見えないんです。学園中を探しているんですが……」

 エミールも不安げな表情で続けた。


 二人の荒い息と乱れた髪を見れば、アーシャを探して学園中を駆け回っていたことは一目でわかった。


 危惧していたイベントが、想定よりも早く動き出しているとは感じていた。だが、いくらなんでもここまで早く起こってしまうとは思っていなかった。


 ――まだ野外演習も武術大会も終わってないのに……。


 本来、この事件は武術大会が終わった直後に発生するはずだったのだ。


 私は少し悠長に構えすぎていたようだ。学園祭で、ゲームにはなかった事件が起きたことを、もっと深刻に受け止めるべきだった。


 ただ、ゲームでは私がこの事件を引き起こした張本人だった。だから、この事件の顛末は知っている。

「私、……心当たりがあるかもしれない」

 私はためらいがちに口を開いた。


「どういうことですか?」

「心当たりって、なんだよ?」

「居場所を知っているのか?」

 三人が一斉に私へ詰め寄り、矢継ぎ早に質問をぶつけた。


「えっと、だから……。そう、そういえばアーシャちゃんが、明日……え~っとお兄さんの手伝いで……配達に……」


「なんだよ、早く言えよ!」

 アンリがもどかしげに声を荒げた。


「急かさないでよ。今思い出してるんだから!」


 ゲームでの知識をそのまま口にすれば、私が疑われてしまうかもしれない。アンリに急かされながら、私は慎重に言葉を選んだ。


「そういえば、お兄様が――」

「フィアナに、兄君が?」


 エミールが怪訝そうに尋ねた。恋愛ごとには鈍いくせに、肝心なところで妙に勘が鋭い。今はその性格が恨めしい。


「だから、お兄様と慕っている冒険者の方がいて」


  とにかく私は話を続けた。いざとなれば兄に口裏を合わせてもらうしかない。そもそも兄のアーシャに対する好感度が十分に高ければ、監禁場所の情報は兄からユーリスたちへ伝わるはずだった。


「そのレオン兄様が王都の外れのスラム街で見かけたって言っていたの。もしかしたら、そこで何かあったのかもしれないわ」

「スラム街に? 確かなんですか?」


 エミールが私に疑わしげな視線を向ける。確かに兄から聞いたというのは嘘だが、スラム街にいるのは確かだ。


「私の記憶違いじゃなければ」

「よし、行ってみようぜ」


 アンリがそう言うと、三人は走り出した。私は走っていく彼らの背中に慌てて声をかけた。


「あの辺りの治安は悪くて、敵とかいっぱい出てくるから、それこそ帝国兵がでてきても戦えるように、武器はちゃんと持って行って!」


 三人は顔を見合わせると、すぐに学園の武器庫へ引き返していった。


 その背中を見送ったあと、私は影に向かって呼びかけた。

「ケト、クラトス!」

「なんや?」

「なんだ?」

 すぐにケトとクラトスの声が返ってきた。

「ワイ、今、昼めし食っとるとこやねん」

「アーシャちゃんが誘拐されたかもしれない」

「そら大変やな」

「場所は王都の外れのスラム街にある三番って書かれた廃倉庫よ」

「場所、分かってるんか。ほなら、これ食ってからでええか?」

「今すぐお願いよ、ケト。今の話をお兄様に伝えて。クラトスはそこからアーシャちゃんを助け出して」

「うむ」

 クラトスが短く答えた。

「それで、ケトはお兄様とスラム街でユーリスたちと合流して。あ、お兄様がアーシャちゃんを見かけたってことにしてもらってね。ユーリスたちと合流したらやってもらいたいことがあるから。また連絡して」

「どんだけ人使い荒いねん!」

「あとで美味しいもの食べさせてあげるから」


 断罪の時は近かった。本来なら、これはフィアナの運命を大きく左右する事件だった。今回はフィアナの代わりがいるのだとしても、私が冤罪を着せられる可能性がないとは言い切れない。だとしたらなおさら、その子まで同じ目に遭わせるわけにはいかなかった。私は急いで、もう一人の私を探しに走り出した。



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