↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/47

15.第二王子の教室

 すでに朝の日課となっているのだが、教室に入るとすぐさま貴族令嬢たちが私を取り囲んで、お追従を捲し立て始める。


「まあ、今日の髪飾りも本当にお似合いですわ、フィアナ様」

「さすがはフィアナ様。おリボンも最上級の物をお使いなのですね」


 悪役令嬢フィアナならオーホッホッホッとでも笑うのだろうが、私は軽く微笑むだけだ。けれど、相手がさらにうわてだと、私が少し微笑んだだけでも「まあ!」と感激してしまうので困っていた。入学してからずっとこんな調子で、私は正直うんざりしていた。


「朝からよく飽きないものだな」


 その日は教室のどこからか、皮肉を含んだ声が聞こえてきた。振り向けば、ロッシュ伯爵家の子息アンリ・ロッシュが机に肘をつき、こちらを見ていた。近衛騎士団長の息子で、身体能力は高いが魔法は苦手なので、クラスは私と同じだった。ユーリスとは幼馴染という設定だ。


「ロッシュ様、公爵令嬢様に失礼ですわよ」

 令嬢たちが一斉にかみつくが、アンリは一向に気にする様子もなく肩をすくめた。

「別に、感想を言っただけだ。よく褒め言葉ばかりそんなに思いつくな」


 あまり家柄にこだわりがなさそうで、私に対しても不躾だ。しかし、その意見には私も同意したい。


「本当にその通りですわ。おだてられてばかりでは、わたくしも少し気後れしてしまいますもの」

「おだてるだなんて……そんなことありませんわ!」

 取り巻きの令嬢たちは慌てていたが、アンリも少し驚いているようだった。

「あなた方だって、お世辞のような、心にもないことを言うのはお疲れになるでしょう」

「そ、そんな……お世辞なんて」

「わたくしは同じ学園の、同じの生徒なのですから。どうか普通にしてくださいませ」

「フィアナ様……」


 アンリはしばらくその様子を眺めていたが、途中で飽きたようだった。

「面倒くせ~」

 そうぼやきながら他の男子生徒たちのところへ行ってしまった。


 ――おい! ちょっと待てやボケ!

 と、ケトの口調で呼び止めたかったが、なんとか思いとどまった。


 けれど、そのあと令嬢たちのごますりも少し収まり、私も彼女たちと多少は気軽に話せるようになったので、ちょっとくらいは感謝してもいいかなと思うことにした。



 授業の合間の休み時間に、また面倒なことが起こった。私のクラスに第二王子のユーリスが姿を見せたのだ。


 教室に入ってきたユーリスに、アンリがさっそく声をかけていた。

「よう、ユーリス殿下、最下位クラスに何の用だ?」


 その声に、教室中の視線が一斉にユーリスへ向かった。私もつられてそちらを見てしまい、思わず「ゲッ」と声が出そうになって、慌てて目を逸らした。


「やあ、アンリ。今日はフィアナ嬢に用があってね」

 そう言って、ユーリスが真っ直ぐこちらへ歩いてくる。


 その声に、私も仕方なく立ち上がり、他の令嬢たちと同じように淑女の礼を取った。

「これはユーリス殿下、ご機嫌麗しゅう。わたくしに何か御用でしょうか?」

「この間は……誤解があったようだ。君に謝罪したい」

「誤解って何の話だ?」

 アンリが興味深そうに、私とユーリスを見比べた。

「ここでは話しづらい。放課後、少し時間を貰えるだろうか?」

「いえ、こちらで結構ですわ。めんどく、……いえ、殿下にお手間をかけさせてしまっては申し訳ありませんもの」

「しかし、……」

「謝りたいって、なんのことだよ?」


 一瞬言葉を失っていたユーリスだったが、空気を読まないアンリの言葉に観念したように話し始めた。


「その……アーシャ嬢のことで、君に失礼なことを言ってしまって。申し訳なかった。彼女から詳しく話を聞いたよ」

「アーシャちゃんが?」

「ちゃん……? ああ、そうだ。アーシャ嬢が君には親切にしてもらったと言っていた」

「アーシャって誰だ?」

「アンリ、君は少し黙っててくれないか」

 アンリの言葉にユーリスがうんざりした顔で応えていた。


「まあ、そうでしたのね。わざわざありがとうございます」

「確認もせず、噂を信じてしまったのは軽率だった」

「とんでもございませんわ。わたくしはまったく気にしておりませんもの」

 というのは嘘で、何ならこの野郎と内心では思っている。

「ところで殿下はその噂をどなたからお聞きになったのでしょう?」

「さあ、覚えてないな」

「覚えて……ない?」


 覚えていないことに、彼は戸惑いをまったく見せずに答えていた。

 ――これは闇の魔法?

 闇の魔導師が関わっているような気がした。


 教室内を目の端でざっと眺めると、ミレイアがこちらの会話に聞き耳を立てている様子が目に入った。


「授業を始めますよ」

 教師が教室に入ってきて、ユーリスは自分のクラスへ戻っていった。


 ユーリスの誤解は解けたけれど、私の日常に忍び寄る影を思うと少し気が滅入った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。