科学的に存在し得ない物、そして神話の兵器達
シューヴァンシュタイン家の面々はラヴェンダー達が飲み物を出してもらい、一息ついた頃城に到着した。
アーデルハイド女大公は公務があるらしく今日は来られないらしく、現れたのはエリーゼとフェリスのみだった。
あの運転を経験しているはずなのにけろりとしている二人にラヴェンダーは驚かされたが、それにはアレクがそっと答えを教えてくれる。
曰く、シューヴァンシュタイン家の頂点の女性達にすっかり調教されたグロウという駄馬は、あの三人が乗るときは非常に安全運転をするらしい。
それを聞いてエリーゼ達と帰ってくるんだったと心から後悔したラヴェンダーである。
ちなみに何故グロウが馬の代わりに馬車を引いているかというと、例の山中で実弾訓練したことへの罰則らしい。
そんなに力有り余ってるなら馬の代わりに馬車でも引いておけ。ついでに制服でも着て少しは落ち着いた所作を身につけろ——とのアーデルハイド女大公からの厳しい罰のはずだったらしいのだが、そこは相手があの、グロウである。
体力が落ちないために、いかに早く運転するか、いかに華麗にカーブを曲がるかという訓練をし始めてしまったらしい。
そんなことも知らず馬車に乗ってしまったアーデルハイド女大公とエリーゼが、あの運転の最初の犠牲者だった。
当然激怒した女傑にがちで鞭で打たれ、その後本物の御者にもむち打たれながら上品な運転を身につけさせられたのだそうだ。
この三週間の間にそんな馬鹿馬鹿しい事件を起こしていたのかと思うと、本当に恥ずかしい身内である。
しかも全く反省をしていないのだから始末が悪い。
「この度は皆様のご協力、本当にありがとうございました」
侍女がシューヴァンシュタイン家組の紅茶と茶菓子を用意し、下がって行ったのを確認してからエリーゼが話を切り出した。
「特にアレク様のご協力のおかげで、医療改革に関する法案をかなり具体的に進めることができました。もともと必要だと思っていたことでしたので,これを機にメスを入れられて良かったと思っていますわ」
「いえ。僕はそんなにたいしたことはしていませんので。その分野に合いそうな医師や関係者を紹介しただけです」
「人脈とは何にも代えがたい財産ですわ、アレク様。それにいくら紹介があったとしてもその紹介元がかなりの信用を持ってないと、紹介状には何の意味もありませんから。これだけ短期間に人員確保できたのは、間違いなくアレク様のこれまでの実績のおかげです」
おっとりと言って、エリーゼは微笑む。
それに、謙遜が美徳の国の血を引くアレクはどうも居心地悪そうにしている。本人からすればただ単にやりたい研究やっていただけなのに、そんなに褒められても困る、という感じなのだろう。
「ジェイ様も、システムの再構築の際にはより強固なセキュリティプログラムを組んでくださったとか。さすが我が国のセキュリティーをハッキングできるだけの技術の持ち主ですわ」
「……そう感謝していただけて光栄ですよ。ついでに、もう少し納期が現実的だったら俺たちの精神的肉体的負担も少なくてすんだんですがね」
「ですがこちらのシステムの方は我が国の最重要機密に関わるものでしたから、そんなに悠長な日程は組めなかったんですわ。その代わりホテルは最上級の物を用意させていただいておりますし」
「そのホテルに三日にいっぺん帰れればいい方って状態じゃあ、あまり意味がないと思いますがね」
「あら、問う言うことは三日中二日は我が城に滞在されたと言うことですね。直接我が家の物がおもてなしさせていただけたなんて光栄ですわ」
さ、寒い……
再び誕生日席に座ってしまったラヴェンダーは、そのやりとりを見守りながら自分の身体をぎゅっと抱きしめた。
長方形型のローテーブルをコの字に囲うように長椅子と一人がけの椅子が配置されている。
ラヴェンダーから向かって左側にエリーゼ、その後ろに立つ形でフェリス。右側には奥からアレクとジェイの順で座っている。
ちなみにグロウは姿すら現さない。自由すぎさに頭が痛くなるがとりあえずこの際置いておく。
席の配置自体は前回話した時と同じだが、違うのは雰囲気だった。
あくまでおっとり笑顔で会話するエリーゼと、珍しくにこやかに笑顔を浮かべているジェイだが、両方とも目が全く笑ってない。テーブルを挟んで火花が散っている上、会話の温度がひたすら低い。
その間に座ってるラヴェンダー的には冷戦の最前線に立たされている気分だった。陽気な夏が来ているはずなのにひたすら寒い。
(い、一体いつからこの二人はこんなに険悪になってしまったわけ!?)
全てはラヴェンダーの怪我が原因なのだが、隔離されていた間の詳細を知らないラヴェンダーはそれに気づいてはいなかった。
代わりに、冷戦の最前線の境界を見守る位置に座ってしまったことをひたすら後悔するのみだった。
「前置きはこのくらいにして、そろそろ本題に入りませんかね? 我々としても、あの異世界としか言えない物がなんだったのか、気になって仕方なかったんですよ」
嫌みの応酬をしていても一向に本題が進まないため、そう言ってジェイが切り出した。エリーゼは顔に「いじめたりない」と書いてあったが、ひとまずそれは置いておくことにしたらしい。
軽く咳払いをすると、本題について話をし始めた。
「まず、皆様が手に入れてくださった≪テュケーの渾天儀≫ですが、おそらくこれが本物ではないかと思っております」
そうコメントするエリーゼの傍らで、フェリスが≪テュケーの渾天儀≫を茶器をよけながらテーブルに置く。
一体何が動力になっているのか、土台に当たる部分から覗くガラス窓の内部では歯車が周り、その上の本物の渾天儀ならば天体の動きを現すはずの部分も細い金属の輪っかや、その中のいくつかの球体もゆっくりと回転していた。
あの神殿で見たときには細かいところまで観察する余裕はなかったが、土台部分は下半分に切れ目が二つあり、スライドして出せるようになっていた。
フェリスがそっと指で押し、その土台部分を展開すると、渾天儀部分に連なる柱の一つを中心に、円形のパネルが二枚現れた。
その上側のパネルにはいくつかの窪みがあり、そこに何かを填めることで稼動するのだろうことが想像できた。現にフェリスがその窪みのうちの一つに二つのメダリオンを組み合わせた≪陰陽のメダリオン≫の状態ではめ込むとぴったりとはまる。
対して下側のパネルはずいぶんシンプルで、中心に少し張り出した背の低い円柱状の台座が有り、そこに四つの球体をはめ込む窪みがあるほかは、それを囲うように、一段低くなった場所に二重の円が彫られているのみだ。
どういった形で稼動するのか分からないが、メダリオンを填めたパネルをフェリスが元の位置に納めても、渾天儀が稼動することがなかった。音もなく回転運動を続けるのみである。
「ただ、ご覧の通りこのメダリオンだけでは稼動しないようなのです。もっと鍵となるアーキファクトを集めなければならないのか、別の何かが必要なのかは、これからより検証しなければなりません」
エリーゼは頬に指先を当て、軽く首をかしげるようにし、溜息交じりに述べた。彼女も手元にあるメダリオンで≪守護者のマリア≫が稼動したので、≪テュケーの渾天儀≫も動くのではと期待していたのだろう。
同様に、フェリスの作業を見守っていたジェイとアレク、そしてラヴェンダーも落胆の溜息を禁じ得なかった。例え本物でも動かせないなら次のヒントになるものすら繋がらない。
そう簡単に≪エデンの園≫なんて物にたどり着けても困るのだが、それでも、どうしても期待していた部分はあったので、期待外れだったことに対して落胆してしまうのは人として道理だろう。
そんな、少し暗くなりかけた雰囲気を紛らわせるためか、エリーゼは努めて明るさを保った声で続けた。
「一方で≪月印≫と≪陽印≫のメダリオンと、そして≪守護者のマリア≫がそろったことで、歴代当主が残した手記の解析は大分進みました」
そう言って、エリーゼは背後に立っていたフェリスから受け取ったファイルから、一枚の写真を撮りだして、テーブルに置く。
それは古い本を上から撮影した物らしい。本には別の位置から紫の光が当てられていて、その光のおかげなのか、黒いインクで書かれた本の内容とは別に、紙面には淡い紫色の文字が浮かび上がっていた。
「一体どういうインクを使っているのか全く分かりませんが、通常の光を同じ色域に調整した物では反応せず、メダリオンを装置したアテナ像からの光にのみ反応する仕組みになっていました。そのため、≪血の月曜日≫で資料や≪守護者のマリア≫散逸した後も、当家に≪陽印のメダリオン≫が残っていたことで大分当家の秘密が漏れることは防げたようです」
「同じ色域では反応しない、ねえ……」
ジェイは写真を拾い上げると、まじまじとその中身を見た。それからそれを、アレクに渡す。医学が専門分野とは言え、義肢や医療器具へも造詣が深いアレクなら、自分よりももう少し詳しいことが分かるのではないか、と思ったようだった。
ただ、アレクは難しい顔をしている。
「基本的には不可視インクの類いは特定の色域の光や加熱、化学処理なんかで可視化するはずですけど、同じ色域の光を当てても反応しないとなると、どんな技術を使ってるのか全く想像がつきませんね。そもそも、アテナ像から発せられる光の解析自体は済んでるんですか?」
「科学的にはただの可視光線の類い、という結論は出ていますわ」
アレクの問いに、エリーゼが答える。だが、三人はエリーゼのつけた枕詞に反応した。
「『科学的には』ということは、それ以外の要素があるということですか?」
ラヴェンダーが思わず問うと、エリーゼは困ったように肩をすくめた。
「にわかに信じがたいとは思いますが、なにか魔術的な、そういった要素なら考えられるのかもしれません」
「……いきなりオカルトに振ってきましたね」
エリーゼの答えに、ジェイがどこか呆れたように言う。現実主義の彼には魔法なんて非科学的なものはあまり口にしたくないのかもしれない。
ただ、それでも全く否定はしないのは、彼自身があの扉の先で見たものがあるからだろう。何もない空間にぽつんとあった扉、突然見えるようになった街の人々、影から生まれた化け物——どれも、科学では説明がつかない物ばかりだった。
「おそらくですが、歴代当主が様々なアーティファクトを隠し、それを表に出そうとしなかったのは、ある意味自らを守る意味もあったのだと思いますわ。魔女狩りや異端裁判が猛威を振るった時代も生き延びるためには、その能力を隠すしかなかったのですから」
「……歴代当主は魔術が使えた、とでもいうんですか?」
「その残滓が、わたくしたちシューヴァンシュタイン家の女性に発現する占いの能力だと思っております」
ジェイの問いに、エリーゼがきっぱりと答える。それに、実際に占いの結果を見たことがないジェイは、なんとコメントしていいか分からないらしくこめかみをかいていた。
「専門外なので、的外れな質問かもしれませんが、いいですか?」
代わりにアレクが、学校で先生に質問するように手を上げながら、問う。それに、エリーゼは先を促すように手の平を見せた。
「占いとか、先読みというのは、どちらかというとシャーマニズムに近い物な気がします。託宣とか、神託といった方の。それと、黒魔術なんかの『魔術』というのはまた別の物なのではないんですか?」
「おっしゃりたいことはわかりますわ。ですが、それについての答えは、残念ながら今のわたくしたちはもう、持ち得ません。すでに失われた技術ですから。それに、オーパーツを集めていたシューヴァンシュタイン家の秘宝の中に、現代科学では解明できない物もあったようですし、そういった類いの物かもしれません」
そう告げながら、エリーゼは≪守護者のマリア≫を取り出し、ローテーブルに置く。それから、あの不思議な世界からラヴェンダー達が持ち帰った≪テュケーの渾天儀≫とおぼしきもの、そしてあのラヴェンダーのことを守った革の装丁の本も。
「ただそのインクも、そしてこれらのアーキファクトも、現代科学では解明できないというのが結論でした。解析を依頼した科学者は『存在し得ない物』だとさえ言っていたそうです」
「『存在し得ない物』?」
「詳細は非常に難解な物理学に関係してしまうため、わたくしも説明はできませんが。結論から言いますと、これらの物質には時の概念が存在しない、と」
ジェイの問いに、エリーゼもどこか戸惑いを隠せない表情を浮かべたまま答えた。
「放射性同位体の計測では今まさに作られたのと同じ数値を示し、様々な計器の計測にも反応せず、内部の原子の運動が見られない。ですが確かにそこにあり、動作し、外部から、あるいは外部へ干渉する——あまりの非常識さに、依頼した科学者達が寝込んでしまいましたわ」
「だからこそ、魔術といった超常現象の類いではないかと考えたと言うことですか?」
「そうとも言えますし、当主の手記の中に、それを匂わせる記述が多々あったから、とも言えます」
そう告げてから、エリーゼは視線をテーブルの上の写真に落とす。
「話を手記の内容に戻しましょう。まだ全ての解析ができていない上ものによっては古代語などで書かれているため全容がわかるにはまだまだ時間を要しますが、この数週間でわかった部分だけでもお話しします」
そう言って、エリーゼは手元のファイルからまた書類を取り出した。それをジェイたちの方に渡す。
「トライデント、ヴァ……ヴァジュラ? ……これは一体なんなんです?」
そこに印刷されていたのは、切り取られた画像と、それの翻訳を表にした一覧だった。読み慣れない英単語とは思えないものも多く、読みあげるのだけでも苦労する。
意図を問うようにジェイがエリーゼを見ると、彼女は深いため息をついた。
「それはさまざまな神話に出てくる神々の武器の一部でありーー現時点までで読み解けたシューヴァンシュタイン家がかつて保持していたと思われる、秘宝の一覧出す」
エリーゼの言葉に、ジェイ、アレク、そしてラヴェンダーが固まった。目を見開いたまま、言葉の通り絶句している。
「……ご冗談でしょう?」
「わたくしたちもそう思いたかったですが、それらを入手し、保管していたとの記述があるのです。もちろん手記そのものの信用性を疑われては元も子もないのですが」
ジェイの問いにエリーゼもどこか苦笑混じりに述べる。彼女自身、どこか信じきれていないのが見てとれた。
ただ事実は事実として努めて冷静に話をしようとしているようだった。
「ただ、これが真実なら何故シューヴァンシュタイン家が私財を投じてまで集めようとしたのかは説明がつきます。これらの武器は一振りで世界を焼き尽くすほどの威力があると神話に記載されるものばかりなのです」
「……神話の内容が誇張の可能性は?」
「それももちろんございます。ですが今手にしていないわたくしたちに威力の程を論じる材料はございません。ただ、もしも誇張ではないにせよかなりの威力のある武器……いえ、兵器であるのには変わりがありません」
「……なるほど。その兵器が世に出ては世に混乱がもたらされる。あるいは世界が滅ぶかも知れないーーだから、シューヴァンシュタイン家はそれを秘匿していたと」
「推測ですが、おそらくは」
エリーゼの頷きを眺めて、ラヴェンダー達三人は脱力したように背もたれに体を埋めた。あまりに途方とない話すぎて頭がついていっていなかった。
(オカルトにしてもぶっ飛びすぎでしょう……神話の、兵器なんて……)
確かに、神話の中に核戦争があったとしか思えない記載があるとか、遺跡発掘家が核に溶けたと思われるガラスの街を見つけたとかそういう話はある。だが、にわかに信じがたい話ばかりである。
とは言え、シューヴァンシュタイン家がその活動を始めた時代、銃も大砲もなかったはずだ。核なんて想像もつかない代物だろう。
そんな時代の人間からしたら剣や槍以外の現代兵器も神話武器のように見えるに違いない。
(いやいや、そもそもオーパーツありきの頭になってきてるわ……いつからこんなオカルト脳になったのかしら)
ラヴェンダーは自分の思考があまりにオカルトに馴染んできていることに気づき、軽く頭を振った。
今彼女が考えた仮説なら、何かがタイムスリップして現代武器を古代に持ってきていることになる。それこそ眉唾物だ。
「でも、ですね。現代ではそれらの遺物はほとんど意味をなさないんじゃないですか? 下手に打って核と間違えられれば世界大戦の再来です。しかも今度起これば文字通り国が地上から消滅する。そんなリスクを負う国がありますかね?」
額を抑えながら、アレクが問う。彼の言う通り核は使ってはならない系の抑止力だ。一度使えば自国もすぐに打ち返され焦土と化す。
例えここに書かれた兵器達がそれと同等の威力があったとしても、世界のどこかで起こったニュースが瞬時に世界を駆け巡る時代では、使用へのリスクがあまりに高すぎるのだ。
「ナチスが我が国を狙った時代は、おそらくこれらの超破壊兵器を取得することが目的だったのではないかと思います。ならば現代でもそれを欲しがる人間がいないのかといえば……それは否、と言うしかないと思います。為政者は常に敵に勝てる強い力を欲するものですから」
「為政者、と言うことは、例の≪悪魔≫のタロットカードの相手と繋がりのある国家があるってことですかね?」
アレクと同じく、頭痛がしてるかのようにこめかみに指先を当ててるジェイが問う。それに、エリーゼは愚問だ、とばかりに微笑んだ。
「多いでしょうね。おそらく彼らはーー死の商人。コンプライアンスがうるさくなってきている社会で違法な実験を代わりにしてくれてかつそれを兵器として売ってくれるなら、助かると言う国も多いのでは?」
「……私たちがオークションの倉庫で見た怪物達も、兵器だと?」
「確証はありませんが、そうかと。それか、兵器開発の中で生まれた副産物を特殊な嗜好を持つ人間に売り捌いて副収入を得るのが、あのオークションの目的なのかも知れません」
ラヴェンダーの問いに、深く頷いてエリーゼが答える。それに、ラヴェンダーの脳裏にあのオークションに出品されていた人間と動物を掛け合わせた生物達がよぎる。
あんなもの達を好む人間がいるーー世の中にはそういう狂った人間もいるとは聞いたことはあるが、吐き気を禁じ得ない。理解しがたい趣味である。
「アレク様、現代科学では、人間に違う生き物をパーツを張り付けるの技術は確立されていないはずですよね?」
「そうですね。違う生き物どころか、同じ人間同士でも免疫が取り付けたパーツを攻撃してしまって、やがて壊死してしまいます。臓器移植の難易度を上げている原因でもありますね」
「ですが、ラヴェンダーが見たものが確かなら、人のものとは思えないパーツを持った人間が出品されていた……一方で神話にはそう言った生き物は多く描かれている。つまり彼らはそう言った異世界としか思えないところから連れてこられたか、あるいはそこにある技術を使って作られたとしか思えない。わたくしたちはそう考えています」
「つまりシューヴァンシュタイン家が封印してきたものが世の中に出て、生物兵器の研究に使われてると?」
「思い出してくださいませ。≪守護者のマリア≫を含むメダリオンなどのアーキファクトは鍵なのです。異界に降りるための。≪血の月曜日≫に散逸した鍵がその情報を突き止められ、≪扉≫が開けられてしまっているのです」
「ははあ、わかりましたよ」
ジェイが言って唇の端を釣り上げる。この、挑戦的でもある作り笑いとともに、彼は続けた。
「敵がどんな組織かはわかりませんが、とりあえず俺たちがやるべきは鍵と≪扉≫の奪い合い、と言うことですか」
「そう言うことになりますね」
深く頷いてから、エリーゼはティーカップを手に取り、そのお茶を一口飲んだ。残念ながら議論の中でそれは少し冷めてしまっている。けれど討論の間に喉を潤すにはそれがちょうどいいのかも知れない。
「他にご質問はございますか?」
「はい」
アレクがやったように、先生に挙手するようにラヴェンダーは右手を上げた。
それに、エリーゼが柔らかくふんわりと笑いかける。
「どうぞ、ラヴィ」
「人間と動物を掛け合わせたものが作られるのは、確かに気味が悪いし、倫理的に受け付けないです。でも、それがこの世の中に与える悪影響というのがいまいち想像がつきません」
アレクが核のような兵器は使いづらいと言っていたが、ラヴェンダーにはそう言う威力がある兵器の方が、わざわざ異世界から持ってくるよりは有効に思える。
そう思っての問いだが、何故かジェイに呆れたようにため息をつかれた。
「もう少し想像を働かせてみろ。グロウのやつに確認したらわかるだろうが現代の戦争ってのは少数部隊を率いての都市制圧戦か、部分空爆が主流なんだ。と言うことはつまり、部隊の練度が大きく関わってくるんだよ」
「それでも、人間である以上、ある程度の制約はあります。グロウのような規格外の人間でも『人間』という枠より大きく超えた能力は出せないんですよ」
アレクがジェイの言葉を引き継ぎ、医師としての見解を述べる。少し逡巡しつつも、続けた。
「人間の持つ限界記録よりはるかに速いチーター並みのスピードで動ける人間、グリスリー並みの剛腕を持つ人間……そんなのが戦場に部隊で投入されたら、勢力図は簡単に覆るのではないでしょうか」
「さらにもし現代科学では作り得ない技術まで手に入れて航空機、軍艦、潜水艦の類を作り出せたら、その国は世界を制圧できるだろうな」
アレクの言を継いでジェイが続ける。彼がこの途方もない話を完全に信じたのかはわからないが、それでも仮定として考えられる程度には受け入れているようだった。
そんな男性二人に、ラヴェンダーは両手を上げた。降参、のポーズだ。
「何が問題なのかよく理解できたわ。確かに、そんな技術途方もないわね」
「残る疑問は、何故そんな技術が今まで出てこなかったかということだが……」
ジェイの呟きに、沈黙が降りる。誰もその答えを持ち得なかったからだ。
「……なんにせよ、鍵の奪い合いをしてるうちに、俺たちの家族や仲間を殺した奴が誰なのかわかるってことには変わりない。粛々とやるのみだな」
「その通りですわ。前にもお伝えしました通り、わたくしたちもそのための助力は惜しみません」
そのエリーゼの言葉が、この会議の終幕の言葉だった。資料を片付け、茶菓子を平らげた後それぞれ席を立つ。
「ラヴィ」
ジェイ達とともに城を出ようとしたラヴェンダーをエリーゼが呼び止める。
振り向くと、どこか不安げな顔をしたエリーゼと、心配げにするフェリスがいた。
時が止まっていると判断した要因などについては、ふわっとなら説明できますが、100%正しい説明をする自信がないので、ふわっとした記述にとどめています。
深く突っ込まないでいていただけると幸いです。
次回更新は2月2日16時の予定です。




