全快
新章突入!
どんどんアレなものになってきたぞ!
アレッサンドロ海の上空を、一機の黒い戦闘機が行く。
戦闘機の名はキ43〈隼〉。それを駆る者の名はファルコ・ネーロ。
先日、ぼったくりの凄腕メカニック、アントニオ・ガリレイ(アントンおやじ)の工廠で修理された機体の手慣らしを兼ねた巡回を行なっていた。
主に修理したのはエンジンのみだが、そのエンジンの調子が最高に良い。
このキ43のような、純漂流機の純粋な正規パーツのほとんどはかなり入手困難なので、壊してしまった場合、大幅にチューンせざるを得なってしまう。元通りに直せる技師も居ないことは無いが、ほとんどの場合、改良か改悪かの二択になってしまう。
だが、アントンおやじの腕は良い。この場合、改良となった。
「水メタノール噴射装置か! 良いな、コレ。最高だ!」
水メタノール噴射装置。車好きには説明不要かもしれないが、一応ものすごく大雑把に説明すると、「エンジンの出力を上げる装置」である。これは、アントンおやじの遊び心と探究心によって付け加えられたものである。もちろん、結果は吉と出た。
エンジンの強化はさることながら、ファルコが最も喜んだのは、火力不足の改善であった。
キ43最大の弱点とも言える、十二・七粍機関砲×2という何とも言えない武装。設計の関係上、これはどうしようもないことなのである。しかし、そこは凄腕メカニック・アントンおやじ。「ならば色々と改造すりゃいい」という脳筋理論で見事やってのけた。
出来上がった一式十二・七粍固定機関砲現地模造型改め、安敦式十二・七粍固定機関砲特型 (アントニオ・スペシャル)は画期的なものだった。
通常弾である徹甲弾の威力不足を補うため、まだ一部にしか出回っていない、空気式信管を使用した特殊炸裂弾を使用するこの安敦式は、理論上なら二十粍弾と同等かそれ以上の威力を発揮するという。
しかし、論より証拠と言う。理屈ばかりで実際は糞な出来かもしれない。ならばスコーピオン団の連中あたりで試し撃ちしてみよう。うん。それが良い。さて、サソリ。何処だ。殺してやる。
実射試験のために、手頃な生贄であるスコーピオン団を探すため、辺りを見回しつつ高度四〇〇〇を行く。
しかし、見渡せど見渡せど、スコーピオン団どころか空賊一匹すら見当たらなかった。どうやら今日はハズレの日らしい。仕方ない。今日は諦めて引き上げるか。試し撃ちはまた明日以降だ。
諦めて引き上げようとした刹那、ファルコの眼が何かを捉えた。
一〇〇〇ほど下、旅客機が数機の戦闘機に襲われていた。
「しめた! こりゃ丁度良いや!」
襲っている戦闘機群をスコーピオン団に代わる試し撃ちの対象と決めたファルコは、即座に背面飛行に移り、目標目掛けて急降下した。
ぐんぐんと速度が上がり、距離が詰まる。狙われた戦闘機群は一切気付いていない。絶好の的である。
距離が詰まるにつれ、戦闘機のことも判って来る。
「G・50か!」
G・50。漂流機を元に造られた、アルゲアス王立空軍の先々代の主力戦闘機である。
空気抵抗増し増しな、お世辞にも洗練されているとは絶対言えない機体。他国の同世代型と比べてもパッとしない性能。唯一褒める点を一生懸命探せば、ほぼ全金属製という点だけ。開発当初、競わせていたもう一社の飛行機の方が断然良かったにもかかわらず、何故か採用されたという曰く付き。一体上層部は何を血迷って一千機以上ものクソを造らせたのか、まるで理解出来ない。
だが、流石に上層部もそこまで莫迦だったワケではないらしく、後になってようやく比較的断然優秀な国産次世代型と輸入機の数が揃った時、一斉に第一線から退かせ、ごく一部を練習機として残した他は、スクラップにするか特売品として民間に売り出したという。そのため、新参の貧乏な賊の大半は哀れにもそのクソしか買えず、それに乗らざるを得ないのだった。空賊嫌いのファルコでさえ、哀れな彼らには同情した。
だがしかし容赦はしない。事情はどうあれ、堅気に手を出すような輩には、鉄槌を喰らわすのみである。
照準をエンジンに定める。標的は既に照準からはみ出るほど近距離に迫っていた。
よく、よく、狙いを定め、決して外さぬよう、決して殺さぬよう、引鉄を引いた。
機首の安敦式二門が火を噴く。全金属製だけが売りのG・50が炎上して、バラバラと墜ちて行く。
賊衆がようやく何者かの襲撃に気付いた時、既に遅し。何者かは撃墜後、旅客機の下腹を潜って、新たに右上方の賊2機に飛び付き、あっという間にそれも撃墜した。
突然の出来事に恐慌状態に陥った残りの賊衆は、旅客機の襲撃を取り止め、一目散に逃げ去った。
何でぇ、もう終いか。何とまぁ、張り合いの無いヤツらよ。あの翼に描かれていた、鎌と鶴嘴と槌の合わさった趣味の悪い標章から推測するに、ありゃおそらく、最近流行りの共産主義テログループの一味だろう。戦闘機動が素人同然だった所から見るに、おそらく、農業機の操縦士だった隊員を、あのクソに乗せたのだろう。
殺してはいないハズだが、もしアレに乗ったまま死んでたとすれば、なんとまぁ哀れな。棺桶がほぼ全金属製のクソだなんて。
まぁ良い。終わったことだ。幸い旅客機も無事みたいだ。ちゃんと真っ直ぐ飛んでいる。さて、帰ろう。今日はコイツの全快祝いだ。
颯爽と現れ、賊を追い払い、そして颯爽と去った謎の黒い飛行機。一連の様子を機内より見ていた、やんごとなき風貌の少女は、付人とみられる者に訊ねた。
「あの黒い飛行機は何者なのですか?」
付人は冷静に答えた。
「ハ、この辺り一帯の空の頂点である、ファルコ・ネーロという賞金稼ぎかと思われます」
「ファルコ・ネーロ………」
少女は窓から、小さな黒点と化した飛行機を眺め続けた。
ずっと、ただずっと、何かを想うかのように。
フィアットG・50好きな方、申し訳ございません。アレはファルコ個人の意見です(何という言い逃れ)
でもまぁ、確かにあれはアレですが、案外運動性能はマシだったりする。失速し易いそうだけど。
改造については、ツッコミどころ満載だけど、それはアントンの腕が良いから、何とでもなったのだよ!
以上‼︎ またね‼︎




