表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IL FALCO NERO 〜黒い隼〜  作者: 新駒直胤
飛行場の記憶
24/28

ゼロカン翔ぶ‼︎

「あの時の空だけは忘れられねぇな。どこまでも空は広がっていて、呑み込まれそうなほど蒼かった」

「コンタクト‼︎」


 加藤の合図と共に、油に塗れたシャツ一丁のスガワラがエナーシャを回す。エナーシャが勢い良く回り始めると、加藤はスガワラを下がらせ、いくつかの動作を行なった後、エンジンのスイッチを入れた。

 一発で始動した。

 エンジンが生命を得、バリバリと轟音を響かせながら徐々に回転数を上げて行く。

 丁度良くなったところで、加藤はスガワラに「ロープ外せ」のサインを送り、それに応じたスガワラによってロープが外されると、いよいよゼロカンは進み出た。

 弘道の心臓は興奮のあまり、おそろしく速い動作で血循環を行っていた。断じてモニカの肌が触れているからではない。

 ゼロカンは徐々に速度を上げて行く。振動が強くなる。身体が背後から引っ張られるような感覚も強くなる。


「飛ぶぞぉッ!」


 伝声管から離水を伝える加藤の声が響く。いよいよだ。僕は飛ぶんだ。あの空へ、あの憧れに憧れた空へ!

 身体が背後から引っ張られるような感覚が最高潮に達する。自然と歯を噛み締める。

 股間が浮くような感覚に襲われる。不快極まりない。玉がすっ飛んだような気がする。

 気がつくと、振動がマシになった。引っ張られる感覚もマシになった。玉は依然と戻って来ない。

 ふと視線を外に向ける。


「わぁぁ……!」


 目前に広がるは蒼く輝く美しきアレッサンドロの海。上に広がるは蒼く果てない大空。ゼロカンはその間を飛んでいる。

 弘道は年相応の興奮と感動を覚えた。

 空というものはこうも爽快で、こうも心地良いものだったのか。

 しかしその至高の時間もつかの間。ゼロカンは徐々に高度と速度を下げて行った。目的地に到着したのだ。

 弘道はひどく残念な気持ちがあったが、また帰りゼロカン(これ)に乗って帰れると思うと、そこまで残念ではなかった。




 港の桟橋にてモニカを送り出し、さていざ加藤の用事を済ませに行かんと、弘道は町へ行くつもりだったが、当の依頼主である加藤はモニカが見えなくなるや否や、再びゼロカンを飛ばす準備をし始めた。

 弘道はワケを訊ねたが、加藤は全く話を聞いていなかった。しかも、逆に質問して来たのだ。


「なぁ弘道よ、もっと飛びたいか?」


 突然の質問に、弘道は戸惑った。なにを急に、話を聞いてやがったのかこのオヤジは。


「おいどうした? 君はもっと空を飛びたいかって訊いてるんだ」


「え、ぇあぁあ、うん。出来れば」


 見事に流された。


「そうか。じゃあ乗れ。もっぺん飛ぶぞ」


 そう言って加藤は顎で後部座席を指して、弘道に早く乗るように促した。言われるがまま、後部座席に上った。


 加藤が諸動作を行なった後、エンジンに再び生命が宿り、ゼロカンは動き出した。

 海面を蹴り上げ、再び空に上る。

 ああ、やっぱり良いな。例え難い快感だな。まさに文字通り天にも昇る心地。このままずっと飛んでいられたのならば、どれほど嬉しいことか。しかし、どんどん高度が上がっていないか。この飛行機。

 気付けば、雲が隣に居り、下にもある。おかしいな。さっきはここまで高く飛んでいなかったはずだ。

 だかしかし、なんと美しい光景だろうか。

 日は天高く昇り、その光は雲と海を美しく輝かせている。海の色は見たこともないほど蒼く、まるで本に読んだ宝石のようだった。

 言葉に出来ない光景の数々。心は完全に奪われた。このままずっと飛んでいたい。否、この見渡す限り広がり続ける大宇を独り占めしたい。

 ああ、惜しいなぁ。鳥の様に翼があれば、この光景を好きに観られるのに。縦横無尽に飛び回れるのに。かつて本で読み、莫迦なやつだと嘲笑したイカロスが、どうしようもなく羨ましく思えた。ああ、畜生。どうして僕には翼がないのだ。

 おおよその雲を下に観るようになった所で、伝声管から加藤の声が響いた。


「おい、弘道。飛びたいか?」


「え?」


 もう飛んでるじゃないか。もし冷静だったならば、的確にそう突っ込んでいただろう。

 再び伝声管から加藤の質問が響く。


「飛びたいかって聞いている。この広い広い大空を、君の意志で、君自身の手で、自由自在に飛び回りたいかってな」


 弘道の目は光り輝いた。

 何ということだろう。こうも容易く、予てよりの願望を叶える機会が巡ってくるとは。願ったり叶ったりだ。どこに否定する理由があろうか。


「うん、飛びたいッ‼︎」


 力一杯、心の底から答えた。

 加藤は少しの間沈黙していたが、ニヤリと白い歯を見せて喜んでいることは何となく雰囲気で判った。だが、次に伝声管から伝わった声は、低く、真剣だった。


「だが弘道。君はこの空を飛び回るための翼を得るまで、過酷な訓練に耐えねばならんし、人間やってるのが嫌になるほど座学もせねばならん。それでも飛びたいか?」


 それは一種の「脅し」であった。お前の進む道は生半可な想いでは十中八九野垂れ死ぬぞ。それでもこの茨の道を行くか。と、相手の覚悟を問うのだ。

 だが弘道の決心は揺るがない。それがどうした。大望を実現するためなら、そのようなこと屁でもない。


「それでも飛びたいッ‼︎」


 迷いなき、一直線な返答。加藤は少し驚く。思った以上にこの小童の芯は強固だったからだ。これならこの先のこの海も安泰だ。

 加藤は豪快に笑った。


「よし、ならば弘道、君は今日この時から、正式に俺の弟子となる。覚悟しとけよ‼︎」


 この世界はよく判らない。

 流されて来る人間は軒並み飛行機絡みの人間で、それぞれがそれぞれに、何らかの〈使命〉を持っている。

 例えばこの俺は、具体的には判らないが、『護ること』を〈使命〉とされている。スガワラの場合、何かを『完成させること』を〈使命〉とされている。

 果たしてこの子の〈使命〉は何なのか。齢わずか八つで流されて来たこの子の〈使命〉は、一体どのようなものなのか。それがこの一月の間の最大の疑問だった。

 だが、今日何となく判った。

 この子は単純に『飛ぶこと』だけを〈使命〉とされているのだろう。

 だとすれば、俺は最大限の協力をしてやらねばならない。本懐を遂げさせてやらねばならない。

 さて、ここから大変だぞ。


「よし、じゃあ帰るか」


 ゼロカンは進路を変え、帰路についた。機体に日光が反射し、赤く、紅く、情熱的な輝きを放っていた。


あけましておめでとうございます


新年初投稿がこんな回だなんて、何も言えねぇよ

想像に文章力が追いつかないのは仕方ないことだけれども、この回ばかりは想像を超えたかった。大事な大事な空なんだから、読んでハッキリと判るようにしたかった

それがあんなチンケなものに………

悔しいけど、限界かね

今年もよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ