はじまりの言葉
「突然死んで、突然やって来て、突然連れてかれて、突然弟子にされたあのひとは、よほどの運命論者だったわ」
その日の夕飯は、麦を阿利襪油やバターで炒め、野菜の出汁で炒めた粥に似た料理だった。これは、少年の健康状態(本人が喋らないため不明)に配慮してのメニューだった。もし仮に少年が飢餓状態だった場合、いきなり味の濃いものを食べさせてしまっては、かえって体に悪いからだ。
少年ははじめ、警戒して口にしようとしなかったが、モニカが彼の隣で美味そうに飯を食べているのを見て、警戒を解き、少しずつ飯を口に運び始めた。それに伴って、硬かった表情が、心なしか少しずつ柔らかくなって行った。
ある程度少年の警戒が解けたと思われた所で、飛行服を脱いでシャツ一枚になった偉丈夫が彼の機嫌を伺った。
「どうだ、美味いか?」
「うん」少年はこの時初めて言葉を口にした。それを聞いた偉丈夫は満面の笑みを浮かべ、言った。
「そうか! 美味いか! そいつはリゾットっていう、この辺りの粥みたいなもんだ。どうだ、気に入ったか?」
少年は麦を嚙み潰しながらコクリと頷いた。依然と表情に変化は無かったが、口角が少し上がっていたので、本当にそう思っていると判った。偉丈夫は更に嬉しそうな笑顔になり、次いで自己とその他の紹介をはじめた。
「遅くなったが、おじさんは加藤建夫 ……この辺じゃ『アクィラ・ロッソ』で通ってる賞金稼ぎだ。んで、君の隣に座ってる、天使のような超絶美少女はモニカ。おじさんの娘だ。手ェだすなよ? ……そんでそこのおっさんがブンタ・スガワラだ」
「『おっさん』ってなんだ、『おっさん』って!」スガワラが机に手をつき反論した。「てめぇもおっさんじゃねぇか!」
「まぁ、そりゃそうだが、今はこの少年の名前を聞こうとしとるんだ。ちったぁ、理性的になって黙ってろ」
スガワラは唸りながら沈黙した。呆気にとられている少年の横ではモニカがコロコロと笑っていた。どうやらこの二人の口論(?)はいつものことらしい。
加藤は軽く咳払いし、会話を再開した。
「で、君の名前は?」
少年は静かに口を開いた。
「コウドウ」
「コウドウ?」三人の視線が、姓名を期待して少年の口元に集まる。
「篠塚弘道。歳は八歳」
警戒と恥じらいを伴って、歳まで答えた少年に、加藤は何度も軽く頷きながら微笑み、言った。
「そうか、弘道、弘道っていうのか。良い名前だ。撃墜王みたいな名前だな」
無表情なままであったので、判り難かったが、少年は少し嬉しそうだった。
「Molto piacere !! Kodo!」
突如溌剌とした声が弘道に掛けられた。どういう意味かは判らなかったが、彼は声の方向を向いた。声の主はここまで連れて来てくれた少女、モニカ・フェラーリンだった。何と返せば良いのか、知っている言語では無かったため、少年は少し戸惑った。
「『よろしく』だとさ。お嬢は」スガワラの通訳が入った。「それ、返してやんな。握手でも良いから」
弘道は少し頬を赤らめながら、太陽のような笑みを浮かべるモニカに向き直り、口を開けた。
「Molto piacere. Monica」
まさに驚愕とはこのことを言うのだろう。この齢八つの少年は、先ほど聞いたばかりなハズの言語を流暢に(訛りまでも完璧に)喋ったのだ。当然、三人は眼をひん剥いて驚いている。
弘道は改めてスガワラの顔を除き、言った。
「これでいいの?」
スガワラは微笑しながら頷くことしか出来なかった。
最も早く声を上げたのはモニカだった。「コードーすごーい!」とはしゃいでいた。
そして次に加藤が豪快に笑い出し、弘道の頭をわしゃわしゃと撫でながら、直感的に決意した言葉を発した。
「気に入った! 決めた! 弘道、お前、今日から俺の弟子だ!」
それは、この先の篠塚弘道、すなわちファルコ・ネーロの運命を切り開いた言葉であった。
この物語を書くと決めてから、かなり早い段階で、主人公を加藤少将(中佐)の弟子にしようと決めていて、今回やっとその話を書けた。嬉しいね
御都合主義とは素晴らしいモンです。たまたま飛ばされた異世界の言語がイタリア語とか現実世界の言語そのもので(ちょっと成立の経緯が異なるぐらいで)、スガワラというたまたまイタリア語が堪能な男が最初に来て、加藤さんが来て、ファルコが来たなど
ビバ! 御都合主義!




