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IL FALCO NERO 〜黒い隼〜  作者: 新駒直胤
ゴミどもの宴
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名誉なき勝利

彼の墜落地点には、小さなモニュメントが造られた。英雄の墓地にしては、物寂しい所だった。極地の前線という当時の状況を考慮すれば、それはかなり贅沢なものだったのかもしれないが、平和を謳歌している贅沢な後の世の人間からすれば、物寂しく思えるものである。

 控えめに言って最悪な状況とはこのことか。畜生め。今までで2番目ぐらいにタフな野郎だ。あそこから保ち直すか、普通?

 普通なら、あのままドボンだった。それで俺は晴れて勝者に。モニカをどうにかして、空軍の勧誘とは永久にオサラバ。また悠々自適に暮らせる。

 そのはずが、ええい畜生。流石にこれはマズい。あんな無茶苦茶な機動しちまったせいで、エンジンはフラフラ、高速はもう出せん。あっちは何発か喰らいはしたが、エンジンは全然ピンピンしてやがる。

 くそったれめ、野郎、どんどん昇って来やがる。

 どうする、もう激しい動きは出来そうにもない。かと言って、このままなされるがままだったら、木っ端微塵だ。

 カーネのBf109はもうすぐそこまで迫っていた。もうファルコには、ゆっくりどうするかを考える間も無い。ならば為すことはただ一つ。


「ええい、ままよ‼︎」


 カーネとの距離が目と鼻の先となり、カーネのBf109から激しい銃撃が放たれた。ファルコは強引に機体を横転させ、数発かすめながらも、首の皮一枚、奇跡的に撃墜を免れた。平常のカーネだったならば、間違いなく今ので墜とされていただろう。

 今の無茶苦茶な回避運動で喝が入ったのか、エンジンが少し調子を取り戻した。

 しかしもう長くは出来そうにない。というのも、おそらく、先ほど追いつ追われつしていた時に、燃料タンクに被弾したのだろう。かなり漏れ出ている。計器に表示された値から推察するに、戦闘は保ってあと十数分ほどだろう。その中でどうするか……。


 一方のカーネも、被弾による燃料漏れが深刻化し、内心少々焦っていた。残された僅かな時間で、いかにしてあの難敵に勝つか。

 本来ならば、格闘戦に持ち込んだ時点で、見越し射撃で叩き墜としているハズだったが、今日の敵はほとんど全てそれを躱す。

 やり甲斐があるってモンだよ。まったく。

 燃料が足りない? 墜としても飛行場まで戻れない? むしろ我が身か危ない?

 それがどうした?

 例え勝ったとしても、軍人という立場上、「匪賊討伐」ということになるだろう。そこに名誉はない。

『名誉なき勝利』と言えよう。

 だが、この難敵(黒い隼)に勝つことは、勲章や名誉など、そんなチャチなモノではない。もっと偉大な、もっと崇高な、比類なきモノ。

 それこそが真の誉。我が身を危険に晒してでも手に入れたい勝利。

 さぁ、やろう。血湧き肉躍る、本能のままの戦いを。


 優位からカーネはファルコに襲い掛かった。本能剥き出し、まさに野性の解放と言ったような、激しい機動で襲い掛かった。

 誘うような右旋回で逃げていたファルコの旋回半径の内側に滑り込むや否や、即座にファルコの予測進路を割り出し、そこに向かって一連射を放った。第三者視点で観れば、明後日の方向である。しかし、奇妙なことに、銃弾が放たれたその位置に、するするとファルコが吸い込まれて行ったのである。

 しかし、ファルコはかなりの豪運だった。

 全弾外れたのである。

 カーネに落ち度はなかった。タイミングも、予測も完璧であった。ただただ、ファルコが豪運過ぎただけなのであった。無茶苦茶だが、そうとしか言いようがない。

 外れたからといって、カーネが攻撃の手を緩めることはなかった。鋭い旋回とロールでファルコの背後に付くや否や、再び激しい一連射を加える。ファルコは右に左に動き回り、それを躱すも、躱した次の瞬間にはまた牽制射撃が飛んで来るため、防戦一方。時折急旋回などで背後を狙うが、カーネの猛攻からは中々逃れられない。気が付けば、海面から50mほどまで高度が下がっていた。

 戦闘限界は刻一刻と迫る。このまま逃げ続けるワケにもいかない。だが、正攻法では本気を出したと見られるカーネには怪しい。出せる手はほとんど全て出した。ならば後は野となれ山となれ。一か八か、運と天に身を任せよう。試すだけの価値はある。

 カーネの猛攻が止んだ一瞬、その隙を突いて、ファルコは太陽に向かって上昇した。もちろんカーネはそれを追った。

 しめた。

 ファルコは機体を少し滑らせた。それまでキ43で隠れていた眩い日光が一気にカーネに襲い掛かり、一時的にカーネから光を奪った。そのスキにファルコはカーネの背後を取ろうとする。

 流石の野郎とて、お天道様にゃ敵うまい。どうだ、これならば…………


「良い考えだったけど、残念だね」


 ファルコの目論見、失敗である。ファルコは背後を取ろうと、鋭く小さな旋回をしたが、どういうワケか、光を奪われたハズのカーネが回避機動を取っていたのである。それも、まるでファルコがいる位置を完全に把握しているが如く。

 これは、ただただ、カーネの空間把握能力が異常にズバ抜けているだけなのである。(「超能力」と言った方が良いのかも知れないが、超能力ではない) そのため、視界があやふやでも、「視えて」いるのである。

 こなくそ。とファルコが放った一連射もするりと躱し、するりと背後を奪取した。こうなると、ファルコには絶望しかない。万策尽きたか。もはやこれまでか。畜生、空軍入りか。

 しかし、撃ち落とされてはたまったものではない。自分の愛機だけは守らねばならない。この愛機だけは。『師匠』から受け継いだ、このキ43だけは……

 腹を括り、ファルコは降参の意を示す、「翼を上下に大きく振る」行為に移ろうとした。

 だが、ファルコは降参表明出来なかった。

 

 カーネが先に降参表明していたのである。


 何が起こったのかとんと見当がつかなかった。自分は追い込まれ、盤上遊戯(ボードゲーム)で言うところの、いわゆる「詰み」の状況にあったハズなのだが、どういうワケか相手は勝利の権利を手放し、譲ったのだ。

 全てがあやふやで、「兎に角も勝利した」という思考にも中々至れず、はじめのうちはただ呆然と飛んでいた。少しして燃料切れ寸前という現実を思い出して我に帰ったが、それでも勝利したとは思えなかった。

 後々、ファルコはこの日のことを何度、どう思い返しても、勝利したとは思い難かったという。そのため、彼はこの日の勝利のことを「名誉なき勝利」と呼び、自嘲し続けたのだという。




戦闘シーンが苦手な駄文書きが書いた戦闘シーンほど、つまらない、伝わり難い、鼻で笑われるものはない。

ホントは凄い空中戦だったんですよ? シャンデルで頭を抑えに行ったところを、ハイGバレルロールで逆に背後を取ったりとか。

まぁ、これが今の僕の力なんでしょう。後々、後々です。

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