悪魔
逃げる時、一目散に逃げる時、人間は我を忘れ、景色など見えない。
そんな経験がある。
兄貴のヤツ、殺られたか。
見るからに格闘戦に秀でた軽戦。速度と馬力を活かした一撃離脱戦法なら何とかなるかと思えば、あんな技まで使いやがるのか。
迂闊に近寄れんな。
逃げるか降参するかが得策なんだろうが、たかだか賞金稼ぎ相手にンな事しちゃあ、ワイルドキャット・ブラザーズの名に糞が付いちまう。
だがどうする?
相手は話に聞いた以上の空戦の達人、バケモンだ。チャチな戦法じゃあ返り討ちに遭うのがオチだ。
畜生、こんなことなら、あと四人ほど一緒に連れて来くりゃ良かった。
しかし、ホントにどうする?
あんなバケモン、オレ一人で殺れるのか?
畜生畜生畜生、どうしろってんだ、畜生。
自殺しろってのか。
ジョナサンの駆るF4Fは、知らず識らずの内に、先程までいた空域から離れつつあった。否、ジョナサンの生存本能が無意識の内に働き、生き残るために逃げていたのだ。
そして、その生存本能が、本気の殺し合いの場である戦場でも働かなかったほど活発化し、ジョナサンの有意識にハッキリと現れるのに、間などなかった。
「〜〜〜〜ッッッッッ!!!??!?」
突如、生まれて初めて味わう謎の意識に駆られたジョナサンは、目玉が飛び出るほど眼を開け、6時方向を振り向いた。
間も無く、ジョナサンは呼吸の仕方を忘れた。
視線の先には、雲に手を掛け、まるで、自分を殺すことを至上の快楽としているような笑みを浮かべ、ただ一点、自分のみを見つめている、比類なき巨大な恐怖の権現、賊を死に誘う悪魔がいたのだ。
ジョナサンは、とてつもない恐怖のあまり、絶叫し、一寸でも遠くに逃げようと、全速力で愛機を飛ばした。
しかし、逃げても逃げても、悪魔はついて来る。
畜生、来るな、もう来るな‼︎
十分だろ? もう十分弄んだだろ?
さっきからついて来るだけで、墜とす気がねェなら、もういいだろ?
そうか、謝って欲しいんだな? オレが謝らなかったのが悪かったんだな?
いかんせん、直接伝える手段はねェもんでな、心の中で謝罪させてもらうぜ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ………
ジョナサンの心の中謝罪の声が届いたのか、悪魔はついて来るのを止めた。
「へ、へへ、へへへへへへ、へへへへへへへへ、やったぜ……悪魔を追い払ったぜ………」
身体中の穴という穴から汁が垂れ出ていて、顔面蒼白、寿命が縮み、おまけに失禁までしていた。
緊張が一気にほぐれ、ふぅ、と一息つく。
そして、前を見つめ直す。
「……うをッ!!?!?」
ジョナサンの視界に広がったのは、雲の海ではなく、どういう訳か、蒼い、水の海だった。
逃げている最中、速度を稼ぐため降下し続け、無意識の内、いつの間にか、海面スレスレまで高度を下げていたのだ。しかも、エンジンが停止していて、失速状態、不時着寸前の状態だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァッ‼︎」
断末魔と共に、ジョナサンのF4Fは海面に不時着した。
原因は、降下し過ぎたことと、燃料を顧みず、全速力で飛び回り過ぎたこと、翼内タンクへの被弾による燃料漏れだった。
「莫迦なヤツだったな。降伏の合図が判らねェなら、発光信号という手もあったってのに」
そう呟きながら、ファルコは本拠地への帰路についていた。ボヤボヤしていると、自分もああなりかねない。
夕焼けで真っ赤に染まるアレッサンドロの空と海。
その狭間を、漆黒の戦闘機が飛んで行った。
また駄文
色々と考えた末、自滅させました
白熱した空戦で、カッコいい技で撃墜したかったところだけど、それは後にとっておくことにしたので
まぁ、現実、こんなこと絶対にあり得ないんだろうけど
まだまだ知識が足りないね




