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第19話、険しき道


 ジャンクの森を抜け、再び木々の生い茂る森を抜ける。先導するリアナは愛用の二本の短刀の一振りで道を切り開きつつ、器用に果物を見つけると素早く枝ごと切り落とした。黄色いチェリーのようなそれを一つ口に放ると、残りを後ろのユウラへ放り投げる。


 しばらく歩き、森を出ると丘の上に出た。緩やかな傾斜の丘を五十ミータ(メートル)ほど下った先に、草の生えていない細長い道が一本、東西に走っている。柔らかな風が吹きぬけ、空は綺麗な青空をのぞかせている。


「少し休憩にしませんか?」


 ユウラが言えば、セラフィナも首肯した。慧太けいたは危険がないか確認。……追っ手はまだいない。

 ユウラは、セラフィナに平らな石を椅子代わりに勧め、アルフォンソを手招きした。大柄のシェイプシフターが背負っているバッグを前へとずらす。ユウラはそのバッグから袋を取り出し、中身を差し出した。

 携帯用の食料――ビスケットに近い堅焼きパン。ユウラからパンを三枚受け取り、セラフィナは椅子代わりの石に腰掛けた。青髪の魔術師は水筒を取って水分を一口含むと、先ほど手に入れた果物を、皆に配分した。

 リアナが慧太のそばに来ると肩を叩いた。


「後ろ、見張ってる」

「頼む」


 人間より鋭敏な聴覚を持つ狐人だ。森の木々に視界が阻まれても、その耳は頼りになる。

 慧太は引継ぎを済ませると、申し訳程度にもらった果実をかじる。瑞々しい果汁が口の中に広がる。甘い、かなと思った。

 ユウラは、丘の中ほどにある道を顎で指し示した。


「あの道を東へ行けば、リーベル……町へ通じています。比較的平坦で、緩やかな下りが続くので歩くのは楽です。ただし、少々遠回りのルートになります」


 それと――ユウラは果実を頬張り、それを飲み込みながら指差した。


「道は見えないですが、まっすぐいった森を抜けると、グルント台地へ出ます。台地から先は平原ですが、降りるのは急な斜面」

「困難な道ということですね」


 セラフィナが堅焼きパンをきちんと咀嚼した後で言った。


「ちなみに遠回りのルートをいく場合、どれほど遅れが?」

「二、三日といったところでしょうか」


 三日――セラフィナは軽く俯いた。ライガネン王国を目指すお姫様のこと、できれば早くに目的地に着きたいと思っていることだろう。考えにふけるセラフィナの、その美しい銀髪が風になびいた。彼女のその仕草に、見守っていた慧太は心臓をつかまれたようにドキリとしてしまった。


「……できれば早いほうがいい」


 ようやく、セラフィナは口を開いた。その口調は固く、真剣な響きを持っていた。


「台地へ抜けるルートを選択します。遠回りルートは町があるようですが、私たちが向かいことで、魔人とのいざこざに巻き込んでしまうかもしれません」


 これ以上、無関係な者を巻き込みたくない――セラフィナのルート選択の基準がそこにあったのではないか。


 ――親爺……。


 慧太は視線を、傭兵団のアジトのある方向へと向けた。適当なところで逃げると言っていたが、はたして無事なのか。家族とも言えるハイマト傭兵団の仲間たち……。


『無事だといいですね』


 アルフォンソがそんなことを言った。慧太は無言で頷く。

 ぴくり、とフェネックの少女の狐耳が動いた。身構えるのが見え、慧太も反射的に備える。


「――複数……追ってきてる……」


 リアナが呟くように言えば、セラフィナとユウラも腰を上げた。


「姫殿下、先を急ぎましょう」


 丘を降って五十ミータほどで道。さらにその先、三百ミータほどで黒々とした大森林が広がっている。

 慧太は叫んだ。


「走れ!」


 五人は一斉に走り出した。ユウラとセラフィナが前。慧太とリアナは後方を気にしながらの走行だ。


「アルフォンソ!」


 呼びかける。彼にセラフィナの後ろにつくよう告げる。彼の大きな身体が、お姫様の姿を視認しづらくするのを期待してだ。もし弓などを放たれたとしても、アルフォンソの巨体がセラフィナを守るだろう。


 草の生えた丘を駆け、途中の幅一ミータほどしかない道を横断すると、そのままの勢いで斜面を下る。

 慧太はちらと振り返る。まだ、魔人の追手の姿は見えない。どれほどの距離が離れているかわからないが、できれば森に入るまでその姿を見られないことを祈った。


 もし、目視距離に入れば……魔人どもは間違いなく全速力で走り出すからだ。そうなれば、一戦を避けるのは難しい。


 だが慧太の期待は淡く消えた。丘の上に、狼型の獣が数頭姿を見せたのだ。


 その森には、高い樹が乱立し、昼間にも関わらず薄暗かった。森に入ったが、慧太たちの姿は敵の視界に入ってしまった。

 その魔獣は全長二ミータ(メートル)ほど。青い毛皮を持つ狼に似た姿をしていた。追手としては厄介なタイプだ。おそらく嗅覚などに優れ、姿を隠しても臭いで追ってくる。


 ――なら、ある程度、始末しないとな……。


 邪魔な草を踏み、あるいは飛び越え、木々を交わしながら森の奥へ。


「リアナ」


 慧太が最後尾を行く狐人の少女に、上を指差すジェスチャーを送る。それを確認したリアナは身も軽く斜めに倒れた大木の上に飛び乗り、素早く木を駆け登っていく。 

 後方からは唸り声。狼頭の魔獣――ウェルセプタがその距離を詰めてくる。さすがに速い。先頭を行く獣が、慧太らの姿を目視で捉え――


 ズドン、とその眉間を矢で打ち抜かれた。


 太いヴァラの木、その枝の上でリアナは弓に矢を番え、次の標的を射た。

 二匹目。耳から頭蓋を貫かれ、魔獣は態勢を崩して転倒。地面の突起に引っかかり、派手にスピンして果てた。


 金髪の狐人フェネックは枝を蹴って木から降りると、駆けながら次の射撃ポイントへと身体を向ける。左翼側に三頭が見えた。――まず、こいつらから仕留める……。

 リアナの碧眼は深い森の中を併走しつつある魔獣を捉える。草を掻き分け、地を踏みしめる足音と相まって、ともすれば影に隠れがちな敵の位置を正確に掴む。

 射撃位置に着地。その時には矢を弓へと番え終え、ふっと息が止まる。


 先頭の一頭が前足を打ち抜かれ、傾いた身体がヴァラの木に正面から激突する羽目になった。加速していた分、その衝突はハンマーにも勝る一撃を顔面にぶつけることになり、その魔獣は衝突死する。


 近い位置にいた一頭がリアナへと針路を変える。邪魔者を排除しようと言うのだろう。馬鹿なやつ――淡々と次の矢を引き、魔獣の脳天を射抜く。――四頭目……。


 慧太らにあまり離されないように移動。前傾を深めて走る、狐人独特の加速走法。が、その背後に魔獣が迫り飛び掛る。

 奇襲のつもりだったのだろうが、リアナは微塵も驚かなかった。フェネックの聴覚は、十数ミータ離れたところに落ちた落ち葉の音さえ拾う。右手で腰の短刀『光牙』を抜く。飛び掛る魔獣の下を抜けるように避け、すれ違いざまにその喉を刀で、すっと切り裂いた。


「……次」


 悶える青狼。リアナはそれをすでに見ていない。どうせ、数秒で息絶えることがわかっているからだ。

 だが直後、リアナは背筋が凍るような『それ』を感じ取った。それは震え。しかしリアナが震えているわけではない。この圧し掛かるような重圧、地面そのものが軋るような、絶対的な不快感、不安!


 ――地面が……揺れる!



  ・  ・  ・



『それ』は突然にやってきた。

 リアナが殿軍で追手を狩っている間、囮役として逃げていた慧太たち。敵との距離を測りつつ走っていた慧太は何の警告もなく、唐突に足元に違和感を覚えた。


 足が地面に対して変なつき方でもしたのか。最初はそう思った。しかしすぐに、違和感の正体が地面の揺れ――地震によるものだと悟った。


 激しい震動。森の木々が揺れ、大地が悲鳴を上げるような音と衝撃がやってきた。とても走るどころではなく、態勢が崩れる。セラフィナも倒れるが手をついて転倒は免れる。しかしそこから立つこともままならず、震動が収まるのを、驚愕と恐怖の混じった視線を走らせて待つことしかできなかった。


 が、長い。地震、いやそれは大地震と呼ぶに相応しい。後から振り返れば、きっと一分にも満たないそれだが、地震に見舞われている慧太たちにとって、それは永遠にも等しい長さに感じられた。


 ――くそ!


 慧太は、震動のなか這うようにセラフィナのもとへ。近くにはアルフォンソがいるが、何かあってもすぐに対処できるようにしなくては。揺れが収まった途端に四足の狼魔獣が突っ込んできてもたまらない。

 慧太が駆けつけると、セラフィナの不安でいっぱいの青い瞳と目があった。大きすぎる地震に、さすがのお姫様も恐怖を感じているようだった。……手を握ってやるべきだろうか。何故か慧太の脳裏にそれがよぎった。


 そして突然――地面が割れた。


 陥没。慧太とセラフィナがいた一帯が割れる。その岩盤の下は空洞になっていた。

 故に、二人の身体は地面と共に落下した。視界があっという間に流れ、闇の中へと落下していく……。

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