表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/51

第18話、ジャンクヤード


 慧太けいたたちは抜け道を使ってアジトから脱出、森を進んだ。東より日が昇り、明るくなっていく。ライガネン王国のある東へ。緑の森はやがて途切れ、代わりに金属の森へと差し掛かる。


 さび付いた鉄や、逆に錆びることのない特殊合で作られたそれらが無造作に積み上げられたゴミ(ジャンク)の森山だ。


 先導をリアナに譲り、慧太は最後尾にまわってアルフォンソの傍らにつく。

 あいだを行くのはユウラとセラフィナ。そのセラフィナは戦闘がないので軽装――アルゲナム女性騎士のバトルドレス姿だ。銀の刺繍の入った青い服、膝丈の白いスカートが軽やかに舞う。その銀色の髪と相まって可憐かつ美しい妖精のようにも見えた。


『何を見てました?』


 唐突に、アルフォンソが言った。表情のないシェイプシフターだが、その視線はじっと慧太を見つめている。


「別に」

『セラフィナ姫を見ていました』

「それが何だ?』

『いいえ』


 そっとアルフォンソは視線を動かし、銀髪のお姫様の後ろ姿を見やる。


『綺麗な方です』

「ああ」

『……さっきは何を見ていたんですか?』

「しつこいぞ」


 虫を払うような仕草で、アルフォンソの追及をかわした。そのアルフォンソは話を変えた。


『それにしても、ここは相変わらずのゴミの山ですね』

「そうだな。大昔に機械技術を発展させた文明があったって話――このガラクタの山を見れば信じたくもなるな」

『SFチックなお話ですね』


 アルフォンソは頷いた。

 この世界には、かつて機械を発達させて反映した文明があったらしい。らしい、というのは伝説や伝承で伝わる程度で、誰もそれについて本当のことを知らないからだ。


「十六、七ミータ(メートル)先」


 先導するリアナが右手方向を見ながら、その尖った耳をピクリと動かす。視線の先は盛り上がったガラクタの山で見えない。


「気配がある。ガラクタ拾いがいる」

「ガラクタ拾い?」


 セラフィナは腰の剣に手をかける。慧太は言った。


「近づかなきゃ何もされないよ。自衛はできるが盗賊をするような連中じゃない」


 そうですか――と、セラフィナは剣の柄から手を離した。

 この金属の森からお金になりそうなものを回収していくのがガラクタ拾いだ。

 ふと、そのリアナが『止まれ』と合図して立ち止まったのが見えた。

 彼女は素早く背負っていた弓をとると、矢筒から矢を抜き――集中する。その緊迫した気配を察し、セラフィナも慧太も武器に手をかけた。


「リアナ……?」


 何かわかるか、と意味を込めて呼べば、狐人の少女は表情を変えない。


「奇妙な音……足音がする。聞いたことがない」


 丘の向こう――ガラクタの山の向こうにそれが歩いているという。


「嫌な予感がする……」


 慧太は耳をすます。やがて、地面を抉るような足音が聞こえだし、リアナの言う奇妙な唸りにも似た音が耳朶に響いた。ユウラが呟く。


「ここ最近、噂になってる鋼鉄の獣だったりして……」


 そしてそれがガラクタの丘を越えて現れた。

 四足の鋼鉄の機械が地面を踏みしめながら。

 高さは二・五ミータ(メートル)ほど。幅はその倍近い。カニ、にしては足が少ない四脚。しかし全体のシルエットはハサミのないカニ型の機械だ。やや調子の外れた駆動音を響かせ、センサーやカメラを仕込んだ小さな頭部が周囲を探るように小刻みに動く。


 ――作業ロボット、かな?


 慧太けいたの第一印象はそれだった。ただ長年の汚れが蓄積したせいで、表面はまだら模様。ところどころ塗装も剥げている。


「あれは生き物……?」


 セラフィナが呆然といえば、ユウラが眉間にしわを寄せた。


「どちらかと言えば、人形とか迎撃用の魔法生物に近い感じかと」


 カニモドキはガラクタ拾いに迫る。集めたジャンクパーツを入れた篭を背負う薄汚れた回収人は、悲鳴を上げて逃げる。


「助けます!」


 セラフィナがガラクタの山を駆け下りた。次の瞬間、光が弾け、戦闘形態とも言える銀の戦乙女姿へと変身する。


「……マジかよ、お姫様。……アルフォンソ、来い!」


 慧太はすぐに後を追う。ライガネンまで送り届けると言った手前、彼女の身に何かあったら困る。


「リアナ、援護!」


 慧太が言った時には、すでにフェネックの女戦士は弓を構え、矢を放っていた。

 その矢は的確にカニモドキの頭部に命中した。しかし小刻みに動かすその頭部は、角度が合わなかったのか突き刺さらず、跳ね返った。


「光よ。光の弾、敵を貫け……!」


 セラフィナが駆けながら魔法を唱えた。すぐそばで白い輝きを放つ弾を二つ形成すると、それをカニモドキへと放った。だが、それらも機械の表面金属を焦がした程度で、ほぼ無傷だった。

 カニモドキのカメラアイが、接近するセラフィナを捉えて向きを変えた。その一足一足が地面を突き、仮に挟まれるようなことにでもあれば人体など容易く貫通する威力があった。カニモドキはセラフィナに迫り、右前足を持ち上げ、潰しにかかる。

 その一撃をバックステップでかわすセラフィナ。彼女がわずか前にいた場所に、機械の足が突き刺さる。セラフィナは素早く銀剣を機械の足に叩き込むが、鋼鉄製の表面は剣を弾き返した。


「硬い!」

「関節を狙え……ってのは難しいか!」


 慧太はセラフィナのもとへ駆ける。カニモドキの脚部の関節は人の背丈にはやや高い。しかも動き回るそれを両断するのは、ちょっと難度が高かった。


「お姫様! そいつから離れろ!」


 リアナの放った矢が飛来する。今度はカニモドキの頭に突き刺さるが、刺さっただけで停止する様子もない。


「アルフォンソ!」


 慧太は、一端アルフォンソのもとへ。彼の膝を踏み、さらに肩を踏み台とすると飛び上がる。セラフィナを注目しているカニモドキ、その右の前脚の関節に、渾身の斧の一撃を叩き込む。


 硬い手ごたえ。切断は無理だった。だが関節表面の一部を割り、内部の機器にダメージが入る。右前脚の動きがぎこちなくなる。だがカニモドキはまだ歩き回っている。

 物理での攻撃では威力不足か。そうであるなら――


「ユウラ! 魔法を使え!」


 慧太はセラフィナを連れ、カニモドキから距離をとる。

 グンッと、目に見えない大気の壁がカニモドキを襲った。一瞬、風に持ち上げられるかに見えた機械だが、その重量でひっくり返すには風力が足りなかったようだ。


 風よ――ユウラが再度、大気の衝撃波を叩きつけたが、今度はカニモドキは四本の足をめり込ませて先ほどよりも耐えて見せた。思ったより器用だ。周囲の小さな瓦礫だけが風に吹き飛ぶ。


「光弾も風も効かない。爆発系はまわりを巻き込むので駄目と……」


 苦笑するユウラ。慧太は叫んだ。


「雷! 機械には電撃っ!」


 青髪の青年魔術師は右手を標的に向け、紫電の塊を連続して撃ち込んだ。それはカニモドキの表面に着弾し、かすかに痙攣したような震動を起こさせた。


「お、効きましたかね?」


 ユウラは、さらに強力な雷の束を放った。カニモドキの全身を雷が走り、ビリビリと痺れたように動きが鈍くなる。


「いい、ですね! 効いてるようだ……!」


 さらに雷の束を浴びせるユウラだが、慧太は苦笑い。


 ――もっと、効くと思ったんだけどな……!


 電流対策が施されているのかもしれない。回線がショートして動かなくなることを期待したのだが……。

 ただ劇的ではないが、微妙に効いているところを見ると、どこかシールドされていない部分があるのかもしれない。


「こいつの制御系を潰すか、脚を落として動けなくするしかないか……」

「せいぎょけい……?」


 慧太の呟きを聞いたセラが声を発した。銀髪の戦乙女は、じっと慧太を見つめている。


「つまり、脚か頭を落とすってことだ」


 セラフィナが前に出た。


「なるほど、意図はわかりました。――光よ、我が剣に宿り、鋼を断つ刃となれ!」


 戦乙女は唱えると、彼女の魔法剣が白く輝きを放つ。それはまるで、白いビームソードように慧太には映った。


 ――まさかそれ……!?


 慧太が見守る中、セラフィナは跳躍し、カニモドキの右前足の関節部分に光剣を叩き込んだ。先ほどは跳ね返されたが、今回はほとんど抵抗もなく、すっぱりと切断された。剣表面の高エネルギーが金属を溶断したのだ。

 バランスを失い、右前方方向へ倒れかかるカニモドキ。切断と同時に敵の横へ抜けたセラフィナは、今度は倒れるその背中に飛び乗って、一撃を浴びせる。


「お姫様! 奴の頭を狙え!」


 慧太が言えば、セラフィナは今だ動きを止めないカニモドキの背中を駆け上がり、頭――いや首を光剣で切り裂いた。

 頭部が落ちた数秒後、機械はようやく動きを止める。セラフィナは溜めていた息をゆっくりと吐き出すと、その鋼鉄の背中に膝をついた。


 ――あっという間だったな。


 大して働けなかったと思いつつ、軽快な動きを見せて敵機械を沈黙させたセラフィナに感心する。


「すごいな、お姫様。……大丈夫か?」


 彼女のもとに歩み寄れば、セラフィナは剣の光を解除し、こわばった笑みで応えた。


「ええ、大丈夫。……大丈夫」


 何だろう――慧太は首を捻る。自分を安心させようとしている? それとも緊張が解けて、今になって震えが来たとか?


「あなたが指示を出してくれたから」


 ようやくそう言うと、セラフィナはすっと手を出しだした。握手――いや違うか。立たせろということか、そう思った慧太は彼女の手をとり、立ち上がらせた。


「あんたは勇敢だったよ。でも、無茶はしないでくれよ」


 ひやひやするから――慧太が言えば「ええ」とセラフィナは声を落とすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

リメイク前作品『シェイプシフター転生記 変幻自在のオレがお姫様を助ける話』
シェイプシフター転生記
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ