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第9話 エルフの森へ

1週間後、私はアルデルに背負われてエルフの森へ向かうことになった。

目眩はしなくなったけれど、足に体重を支えるほどの力が入らないのだ。


「食料とか水とか、荷物すくないけど、大丈夫なの?」


街の出口でアルデルは小さいバッグを身体の前に斜めがけしてベルトを装着している。

エルフの森は広大で、森全体に迷いの魔法がかかっているので、居住区を探すのに時間がかかることは明白だ。

こんな荷物で大丈夫だろうか。


「大丈夫だ。アイツがいるからな」


アイツってだれ?とアルデルは指笛をならした。彼の視線の方に私も目をやると、わおーんと大きな鳴き声が聞こえ、遠くから何かがものすごい速さでこちらに向かってくる。


どすんと、地面が揺れ、大きなオオカミが私の前におすわりした。


「ロビゴだ。こいつも俺の眷属になった」


ロビゴ。

アルデルの相棒で、灰褐色の毛並みのウォーウルフって種族の犬だった。ちなみにメス。

今の姿は同じ灰褐色に黄色と青のグラデーションの触手のようなものが、首から二本ゆらゆらと動いている。大きさはオスのライオンくらいに見える。

前の旅ではメンバー唯一の女の子仲間だったから、お話相手によくなってもらってた。(犬なのでほぼ内容はわかってなかったと思う)


「ロビゴ、私のこと覚えてる?久しぶりだね」


「ウォン!!!」


返事をしたかと思えば、私にじゃれついてきた。クゥ~ン、クゥ~ン、と鳴きながら、ちぎれそうな勢いで尻尾は振られている

覚えてくれているんだろう、とても嬉しい。

しかし、私は力が入らないので、そのままひっくり返った。


「ロビゴ!今のコトハは魔力が足りねぇ。元気になってから遊んで貰え!」


ロビゴは耳を下げて、私から一歩下がり、伏せのポーズで心配そうに見上げている。

私は大丈夫だよと伝えるように、ロビゴの頭を撫でてあげると、止まっていた尻尾が再び左右に動き出す。


「ロビゴは魔物になってから、とんでもなく鼻が利くようになってな。エルフの住みかは、こいつが見つけてくれる」


「なるほど、ロビゴ、案内よろしくね。」


ロビゴはもちろん!と言ったかのように、元気に鳴いた。


私達は巨大化能力があるロビゴの背に乗って、アルデルに支えて貰えながら、あっという間に森の入り口まで着いた。

強風の向かい風は魔法で打ち消し、揺れのない快適な走りだった。ロビゴを褒めたらもっと褒めていいよのドヤ顔をしている。


「それじゃあ、いくぞ」


わたしはロビゴの背に乗ったまま、アルデルが先行しようとしたら、見えない壁に弾かれた。


「ちっ、魔族避けの結界か。」


アルデルが何もないところを触ろうとするとバチバチと弾き返されている。


「どうやって入ろう…。」


私が歩けたら一人でも入ったが、そうもいかない。状況は詰んでしまったか。


「ロビゴ、コトハを降ろせ。俺が背負う」


ロビゴはアルデルが私を引き取りやすいように屈んだら、アルデルは私を背負った。


「無理やり押し入る。弾き飛ばされないよう、しっかり捕まっててろ」


そう言って、一歩を踏み出そうとしたアルデルに慌ててしがみついた。


ザク。

地面の雑草が踏まれた音だ。

アルデルは結界の威力に抵抗するための手を伸ばしたまま固まっている。

私達は結界に弾かれることなく、中に入れたのだ。


「……入れた?」


「どうしてだ?」


困惑する私たち。

ロビゴおいで、とよんだが、彼女はキュンキュン鳴くだけでぐるぐるその場を回転している。

ロビゴは意を決して一歩進んだら弾かれてしまった。

キャンと叫んですごく痛そうだ。しっぽが後ろ足の又に垂れ下がっている。

アルデルは私を地面に下し、結界の方に手を伸ばしたら、また同じく弾かれる。


「私がいるから?巫女の力のおかげ?」


試す価値はあると、アルデルに身体を支えてもらって、私はロビゴの鼻先に触れるた。すると、彼女は何かに気付いたように私達の方へ歩いてきた。


「すごいな」


「どうやったかは私にも分からないけどね」


門前払いは回避できてよかった。

何十年もかけて魔力を帯びた果物を食べて身体を治すか、セウェリス曰く、私の身体に合う&100年に一度生まれる魔力保有量希少種の人を探すか、だったから。


さっそくエルフの居住区を探そうとロビゴに乗せてもらおうとした時、アルデルが剣を抜いた。

気付かないうちに、エルフ達に囲まれていたのだ。


「手厚い歓迎だな。そっちから迎えに来てくれて助かるよ。探す手間が省けた」


と悪態をつくアルデル。

危険な状態なのけど、私達!

私達は拘束され、エルフの居住区に連れていかれた。






「久しぶりだな。巫女さんよぉ。ついでに盗人も」


連れてこられた建物の豪華な椅子に座っているのはエルフの森の長。

スマラ・グドス。

100年経っても姿は変わっていない様子で、美しいエルフだった。


「元気そうだな、バカ息子野郎」


私たちは手首を拘束され、スマラの前に座らされている。

アルデルはまあ、今魔王様だから状況打破できるだろうな余裕さで、スマラに皮肉を返している。

昔にエルフの森を尋ねた時、彼は放蕩息子で親の後を継ぎたくないって言ってた女癖の悪い男だった。


「で、何しに来たんだ?」


「…魔力を分けてもらいたくて、です」


スマラは懐かしそうにに目を細め、肘をついてこちらを見下ろしている。


「なぁコトハ。昔も言ったよなぁ。エルフ族は魔力を分け与えるのは夫婦か婚約者同士しかやらない愛情行為だ。そうでない場合は相手に結婚を申し込むのと一緒だって。」


以前、魔族との戦いで仲間の守護騎士たちの魔力も限界状態の中で私が魔力枯渇してしまい、危険な状況の時にスマラに助けを求めた。しかし魔力の対価に結婚しろと当時のエルフの長に言われたのだ。

子供を作らなくても巫女が森にいることが、エルフの森を魔王から守る力になると、エルフの長は私を求めたのだった。

エルフ達がそこにいる盗人といるよりも幸せだぞと、アルデルをバカにしたため、すぐさま勢いで嫌です!と拒否した記憶。

エルフの森に軟禁されそうになったけれど、その後すぐにセウェリスと出会ったことにより難を逃れたのだ。

そのあといろいろあって、スマラが旅に加入した。彼は守護騎士候補だったけれど、旅の途中で途中退場したのだった。

彼が守護騎士候補だったのは、私の魔力と相性がかなり良かったからだ。

守護騎士になる必須条件が魔力の適合。

砂漠で金を別で探すより、今すぐ彼と交渉が出来たら助かるのだけれど。


「巫女がエルフのものになるのはとても嬉しいことだが、結婚の意思がないならご退場いただこうか」


スマラが手を挙げるとエルフの兵たちが私たちを外に連れ出そうとした時、ゴッという音が広間に響いた。


「旦那様。おちょくるのも大概にしなんし」



さっきの音はスマラの頭に、美しい手によるチョップが炸裂したことによるものだった。


「ラーズリー!なにをっ!」


ラーズリーと呼ばれた女性は、青く美しい髪を結い、睫毛がとても長くタレ目のとてつもない美女だった。


「女神ヴィアに選ばれし巫女よ、私はラーズリー・ラピス。そこにいる男の妻ですわ。」


ラーズリーさんが私に近づいて、縄をほどき、手を差しのべてきた。

いい匂いがする〜!!!!近くで見ると美しさで目がやられそう!!!

爆乳!!何カップ?!ステラも可愛かったけれど、この人は次元が違う!!と感動してしまった。


「もし?」


「あああすいません。美しさに見とれてしまって…」


慌ててラーズリーさんの手を取る。真っ赤になり汗が止まらない。

目の前の女性は、気を悪くしたわけではなさそうで、ふふっと微笑んだ。


「異世界でも私が美しい部類だと知れて嬉しいわぁ。」


自分が美しいと自覚している発言でも、鼻につかないのはすごい。


「夫が失礼して代わって謝罪しますわ。妻の前で堂々と過去に気に入った女を脅すなど風上にも置けません」


ラーズリーさんはドレスの裾を摘んで広げ、頭を下げた。

そしてこちらに向き直し言った。


「ただ、夫が言う通り魔力譲渡はエルフ族にとって性別関係なく最大級の愛情表現です。しかし、もうひとつ条件がありまして、主となるものに対して魔力譲渡をすることがあります。それは主従関係の誓いとしてです。」


「主従関係を結べばいいのか?だが、人間を上に立てた関係をエルフ族は嫌うだろう」


「ええ、ですが私とであれば問題ありません。」


「ラーズリー!」


スマラが止めように入るも、ラーズリーさんは言葉を止めなかった。


わたくしはハーフエルフなのです。どちらが上下など気にしてはおりません」


ハーフエルフ?


「お前、エルフから嫌われもののハーフエルフを嫁にしたのか?」


アルデルの問いかけに、スマラはバツが悪そうに視線をそらした。


「ラーズリーが優秀だから嫁にした。彼女の力なしではオーキデンスに抵抗できなかったからな」


「旦那様は、わたくしがオーキデンスの兵に襲われそうになったところを救っていただいたのです。ですから私はエルフに恩をお返ししようと、この身を捧げましたので、ご心配はいりません。」


ふーん、美女だからってわけじゃないんだ。

昔のこの世界の知識だと人間側ではハーフエルフは優秀な魔法使いってポジションなだけだったから知らなかった。


「それで、貴方と主従関係を結ぶにあたって条件がありますわ。」


「なんでしょうか」


「オーキデンス帝国を滅ぼしてくださいまし」


アルデルと私は息を飲んだ。

ラーズリーさんの瞳を見ると、恨みが籠った色をともしていた。


「私の故郷はルトゥース国の北の小さな村でハーフエルフにも寛大な土地でした。オーキデンスが攻め込むまでは。」


ラーズリーさんの声はさっきの優しい声と打って変わって怒りがこもっている。


「オーキデンスは魔物を引き連れて村を襲撃しました。私たちはなす術もなくルトゥースの女は他国の男の慰み物に、子供は売られました」


アルデルやスマラを見ると眉をひそめていて、表情から真実だと物語っていた。


「今でもこの森は驚異に晒されています。オーキデンスを倒せるのは、現状巫女とその守護騎士のみ。貴女方の力が私は欲しい。」


ラーズリーさんは真剣な顔で私を見ている。

この人も私がこの世界を去った後過酷な人生を歩んできたのがわかる。


「ひとつ注意を。分霊箱を壊すことだけがオーキデンス帝国を滅ぼすことではありません。そこに住む兵も民も一人残らず消し去ってくださいませ。」


待って、一人残らず殺せってこと…!?

アルデルが批難の声を出そうとするも、ビリッと空気が一瞬で張り付いた。ラーズリーさんの強い殺気のこもった視線にアルデルは気圧され、言葉を飲み込んだ。


「…手を汚す覚悟がきまりましたら、すぐにでも魔力をお渡ししましょう。今すぐにとは言いません。暫くはこの村に滞在して結論を出してください。」


いいですね?とスマラに尋ねる

スマラは深いため息を吐き、滞在を了承した。



私達は誰も住んでいないの家を貸してもらった。

許可された場所は自由に行き来していいとのことだったが、森の外に出るのは許可されなかった。

答えを出すまで、エルフの森から出られなくなったのだ。


私は椅子に座ってアルデルとエルフ町を眺めていた。


「…ラーズリーって女の故郷は、オーキデンスにかなり近い。コトハが帰った後、守護騎士の力が弱まったせいもあって各地で苦戦し、直ぐに助けに行けなかったのは申し訳ないと思っている。」


彼女の憎しみは最もだ。私もオーキデンスが憎い。

でも、私は人間を殺せるのだろうか。

魔族や魔物も元は人間や動物だけども、10年前はゲームの世界だとどこか思っていて、数えきれないほど浄化した。現実だと実感が十分に感じられていなかった気がする。

私達を狙った盗賊や狂信者はアルデル達が守ってくれていたから、人を手にかけたことはない。


本当に皆殺しにしていいの?人間は代替わりして、100年前の罪をを知らない人たちが大勢いる。彼らにも罪を償えと言っていいのか。


「コトハ、お前は人殺しなんてしなくていい。お前が正しいと思う道を選べ」


「それじゃあ、皆を助けられないよ。ラーズリーさんだって私は救いたい。裏切って魔力を貰うわけにはいかない」


「レニタスが言ったんだ。守護騎士は巫女の望みを叶え、巫女には人の正しき道を導けと。どうしても外れないといけない時は、守護騎士が巫女の全ての罪を被って地獄へ落ちる。守護騎士について書かれた本にそうあるそうだ」


「アルデルに人殺しを頼むわけないじゃん!!それこそ人の道をはずれてるよ!……………待って、私がそういうの考える前に、アルデルたちは」


アルデルはなにも言わない。それが答えだった。

私が知らないところで、守護騎士達は私が望んだ未来のため暗躍していたのか。

今も昔もお花畑でいられたのは皆が私の代わりに苦しんでくれているからなのか。


「俺は守護騎士になる前から、手は洗っても落ちないほど汚れきってるさ」


アルデルはこれからも大切な人の為に、汚れることは躊躇ないんだろう。


「私はアルデルの手が大好きだよ」


私はアルデルの両手をとり、言った。

私よりずっと硬く角ばった手。

何度も助けてくれた強い手。

悲しいとき、涙を拭いたり、抱き締めて温めてくれる。

この手を失いたくない。


……なら覚悟は決まったようなものだ。

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