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第8話 私の力

ステラどうしてこんなところに。

アルデルはあの時はぐらかしたけれど、これをどうして?

恐ろしくなって私は逃げるように宝物庫から出た。

警備の兵士が心配そうに声をかけてきたが、お礼を反射的に言ってその場から離れた。

息が続かなくなり、廊下の端でうずくまった。


「コトハどうしましたか!?」


セウェリスが、心配して急ぎ足で駆け寄ってきた。


「セウェリス…ステラが、地下に…凍って」


混乱した頭ではうまく言葉が紡げない。

しかしそれでセウェリスは分かったようで、私を執務室へ連れていった。

グラスに水を入れてくれて、私は飲もうとしたけれど、手が震えて持ち上げるのを断念した。


「黙っていてすみません。」


「セウェリスも知っていたの?あれはステラにそっくりな人形じゃないよね?ステラはなんであそこにいるの?」


「ステラ様の話をする前に、三つ目の分霊箱のお話をしましょう。三つ目の分霊箱の持ち主は、我らの国の第一王子殿下のマクトー様でした。」


レニタスのお兄さんが?!

セウェリスは私が去った後のルトゥース国内の分断について話してくれた。


-魔王を倒したことによって国民の第二王子の支持が急激に増えたことによる、当事者たちが望まない、貴族たちによる次期国王の派閥争いが生まれたこと。

復興中により、貴族たちの支援を無下にできなかったことにより修復できず、さらにはアルデルの魔族化と遷都計画により、国民からの王家が逃げたとの非難の嵐により深まった兄弟の亀裂。


レニタスのお兄さんマクトーさんとはあまり交流はなかったけれど、レニタスがとても信頼している人だとは知っている。

レニタスはとても優しく、誰に対しても分け隔てない関わり方をする。しかし、行き過ぎる正義感と、世間知らずのせいでよくアルデルと喧嘩していたのだ。

レニタスは自身の無知を恥じて、次期国王になるのは兄であると、旅が終わったら支える立場になるのだと語ってくれたこともある。


「そこを狙ったオーキデンスの者が衰弱したマクトー様に分霊箱を渡したのです。分霊箱は彼の理性を奪い、欲望を肥大させた。マクトー様は分霊箱の力で国民を洗脳し、第二王子が魔物を使ってルトゥース国を襲わせた、支持のための自作自演をしたのだと嘘を広め始めました。」


セウェリスは何度か口を閉じたり開けたり、言うか言うまいかの行動をした後、覚悟を決めたように私に言った。


「その結果レニタス様は処刑されました。」


胸がサーっと冷える。

レニタスは人として死んだと思ってた。アルデルとは別の道を選ぶ人だったから。それは合っていた。でも。でも。

愛する国民に、実の兄に裏切られて処刑なんて。

セウェリスは心の乱れからじっとしてられなくなったのか、立ち上がり、窓側まで移動した。


「それでステラ様の話ですが、マクトー様はステラのことを幼少期から妃にしたいと密かに思っていたそうなのです。しかし弟に婚約者を奪われた。それがずっと引っかかっていたのでしょう。旧王都にいるステラ様を己の妃にしようと、魔王にとらわれた姫の奪還と掲げて兵を挙げました。」


「王様は反対しなかったの!?」


「反対しました。だから殺されました。マクトー様は魔物を使い、実の父を襲わせたのです。これらを魔王アルデルとレニタス様のせいにして。」


王様も失ってしまったのか。

全部オーキデンスが悪いのに、魔王が悪いのに、苦しくてやるせない気持ちがわいて、唇を噛みしめてしまい、血の味がした。


「アルデルによって分霊箱のことに気付いた私たちはマクトー様に接触し、最後まで説得を試みましたが、彼女が手に入らないとわかったあの方は癇癪を起し、ステラ様に呪いをかけました。私は苦しみ皮膚がただれていく姫を見て我を忘れ、マクトー様を分霊箱ともども魔法で破壊しました。」


セウェリスの背中にある大きな翼が大きな音を立て羽を散らす。

落ちていった羽が彼の流す涙の代わりのようだと思った。


「私はこのとおり魔族に変わり、ステラ様の呪いがこれ以上進行しないように肉体の時を止めたのです。この話が、彼女が宝物庫で眠る理由です。」


地獄のような内容をセウェリスは説明し終えると、また同じ席に座った。

涙が止まらない。

どうにかしてこの世界に留まり続けるべきだった。

元の世界に戻って勉強できて、好きなものが買えて、自分で選んだ仕事ができて、恋愛もしようと思ったらできて平和な世界でアルデルとの失恋ごときで悲しんで、私だけ生きていた。


「100年間彼女の呪いを解く方法を探しましたが、方法は見つかりませんでした。

巫女であるなら彼女を救えるのでしょうが」


セウェリスの無理やり作った歪んだ笑顔に、私は慰めの言葉一つ出せなかった。







日がとっくに大地に隠れ、夜が始まった時間に、自室で琴葉は思い出せる限りの詠唱を唱えていた。

手からは何も出ないし、何も起こらない。

私はこの国を救った巫女なのにまるで世界から嫌われて、すべてを奪われたような感覚になる。

悔しくて悔しくて床にへたり込んで、床をドンドン!と拳で何度も打ち付ける。

痛みと同時にまた涙が滲み出る。

今すぐにでもステラを助けたいのに私には以前の力がない。


「コトハ!!」


後ろから腕を掴まれた。

分霊箱の捜索から帰ってきたアルデルが、私を困惑した顔で見下ろしている。


「アルデルっ…魔法ってどうやって使うの?」


嗚咽をうまく隠せずぐしゃぐしゃの顔でアルデルに尋ねた。

アルデルは私の顔を見て一瞬目を丸くすると吹き出した。


「なんで笑うのよ!!」

こっちは真剣に苦しんで悩んでるっていうのに!!


「いや、すまん。以前も同じやり取りをしたなと思い出して。」


アルデルは愛おしそうに私の手の赤くなったところに唇を落とした。

私を見下ろしている綺麗な目は細められて優しい色をしていた。


「あの時も何もできない自分を責めていた。お前は巫女って役職を無理やり押し付けられた被害者だっていうのに、他人のためにいつも一生懸命だった。いや、今も変わらずだな」


「もう私は巫女じゃないの!!!」


私は癇癪をおこし、アルデルの手を振り払った。


「今日はどうしたんだ。」


「…………ステラのこと隠してた。」


「!っ見たのか。…………すまなかった」


こんなのは八つ当たりだ。

皆があんなショッキングな彼女の姿をを見せないようにしたのは、私のためだ。

あえてレニタスのことを話題にしなかったことも。

私が責任を感じるってわかっていたから。


「コトハ。俺はお前を傷つけたくない、苦しみはなるべくないところにいて欲しいと思っている。」


アルデルのちっ!と舌打ちにビクついてしまったが、彼は私の髪に鱗がひっかからぬよう後ろから両手を回し、優しく後頭部に口づけをしてきた。

この世界に戻ってから泣いてばかりで、どんどん我儘な子供になっていっている。

最初はアルデルに会うだけでいいからって思っていたのに、会えば離れたくなくて、次は巫女の力を取り戻したいと言っている。10年前から現実を受け入れられない人間のままで恥ずかしい。


「ごめんなさい、ごめんなさいっ…!」


嫌いにならないでと、私の前に回された腕の服を握った。


「ならねぇよ」


この前のデートの言葉を覚えていたのか、私が考えていることが読めるのか。

私はわんわん泣いた。

子供のように大声を出して、その間、アルデルは動かなかった。


泣く体力が次第になくなってきて、嗚咽だけになってきた。

目をこすった手によって、睫毛にたまった大粒の涙がアルデルがはめている腕輪の宝石に落ちた。

するとそれは突如輝き出した。


「何だ!?」


私たちの前に宙に留まる虹色の光の球体。

そのの光は私の胸の中にすうっと入り光の雫が弾けた。



砂漠に水を落としたように、身体中にすごい勢いで染みわたっているような感じがする。

温かい…ぽかぽかするこの感じは!!


「慈しみの陽光よ、穢れを溶かせ」


とっさにアルデルに向き直り、頭に浮かんだ詠唱を放つと、アルデルの両腕の鱗が強風で飛び舞う桜のように飛び上がり、8割りほど消え去った。

驚きで固まってしまう私とアルデル。


「使えた…?」


「どうしていきなり…?」


「光の玉が浮かぶ前に、アルデルの腕輪が光るのが見えたの。アルデル何かした?」


「俺はなにも…。」


腕輪を確かめたアルデルは何かに気付いた。


「この腕輪はコトハが昔俺を守るためにと強い魔力を注いでくれただろ?残っていた魔力がお前の中に戻ったから、だろうか。この腕輪にあった魔力がすべて消えている」


アルデルは腕輪を外し私に見せてくれる。

宝石の輝きがなくなっているような気がした。


「戻った!また使えたよ!アルデル!!」


嬉しさでぴょんぴょん跳ねる私を、アルデルは強く抱きしめた。

腰や背中に当たる、硬質じゃない、男性の筋肉の硬さと熱を感じる。


「…やっと抱き締められた」


顔は見えないけれど、アルデルもきっとすごく喜んでくれているのだろう。

もう少しこのまま抱き締められたかったのに、部屋が回り始め、そのまま意識を失った。



目が覚めるとベッドの上で、太陽はかなり高い位置にあった。

えっあれって夢だったの!?と慌ててベッドを降りようとしたけれど力が入らない。

その時部屋に入ってきたのはアルデルとミニスさんと、その後ろにセウェリスがいた。


「コトハ!」


アルデルが慌てて私が寝るベッドに駆け寄った。

残りの二人も安心したようにベッドの隣に立った。

私は丸1日寝ていたらしい。


「アルデルから聞きました。コトハは、魔力欠乏に陥っています。覚えていますか?私と出会った時、それになって私が助けた事件があったことを。それです。」


「今まで元気に動けてたのに、いきなり魔力不足で動けなくなるものなの?」


「おそらくですが、今までのコトハは、ただ生きるためにすべてのエネルギーを身体に回していたのが、魔力を溜める部屋が開いたために、一部を無意識にそこへ回してしまい、動かすエネルギーが足りなくなった、と推測します。」


説明してくれてありがたいのだけど、わからない。

サイフォンの原理?


「魔力とエネルギーのバランスが取れれば元気になると思いますので、これをどうぞ」


ミニスさんが出してくれたのは、魔力が少し帯びた果物を使ったジュースだった。

何とも言えない味だったけれど、飲んでみたら確かにほんのちょっとだけ調子が良くなった気がする。


「この果実だけでは魔力回復には全然足りませんので、だれかから分けてもらう必要があります。」


魔力を増やす方法……以前ならこうやって触れたところから魔力を分けてもらったんだっけ。先ほどからアルデルに握られている手を見た。


「アルデルからもらえれば…」


アルデルは渋っているようだ。


「どうしたの?」


「今の俺は魔王の力が混ざっている。お前にどう影響するかわからない。」


アルデルの手が震えていることに気付いた。


「どうなるの?」


彼は暫くして口を開いた。


「…生き残るために皆を魔族化をした時、皆苦痛を味わいながら変化したって話をしただろ?眷族化魔法も俺の魔力を相手に流す方法だ。苦しかっただけなら軽傷、最悪お前は魔王にとって憎き存在だからそのまま魔力に殺されるかもしれない。」


アルデルの魔力に私の身体が適応しなければ死――――

魔物や魔族の魔力を身体に浴びると普通の人間は魔力酔いを起こし、吐き気幻覚、精神錯乱など引き起こす。

そもそも他人から魔力を渡すときは相性があるとセウェリスに教えられた。

相性が合わないと魔物と同じく、吐き気や、悪すぎると激痛が起こると。

守護騎士たちは私と魔力相性が高いから契約できたっていう話もあった。


「私もよした方がいいと思います。アルデルの魔力を無事に貰えたとしても、魔王の力によって貴方が魔族化しないとは言い切れないですし、巫女の力が消えてしまえば我々にとっても大打撃。相性の良い豊富な魔力持ちを探しましょう。」


セウェリスの発言も合わせて、確かに危険な道を選ぶ必要はないと考え直した。

他の生き残っている守護騎士でパッセルはドワーフ族の血のためか魔力がとても少ないので、もらったら彼が倒れてしまうだろう。

アルデルの暖かい感じがした魔力供給はもうできないんだ。

少し残念に思った。


「ええ、もしできるなら新しい守護騎士を迎えるといいでしょう」


新しい守護騎士…。

そういえば私が昔魔力不足で死にそうになった時、魔力の相性がいい男性がいた。


「スマラ…」


スマラ・グドス

美しい宝石のようなエメラルド色の瞳と、美しい若葉色の髪のエルフだ。


「なるほど。彼は確かに適任ですね」


「あいつに頼むのか!?」


アルデルは嫌そうだ。

確かに私もあの人は苦手かも。







彼がいるだろう、エルフの森に行くことが決まり、アルデル達は準備のため出ていった。

私はまためまいに襲われ、ミノスさんが持ってきてくれた薬を飲んで休んでいた。

ギシと小さくベッドのスプリングのきしむ音に目を覚ました。

目を開くと、周りは真っ暗だ。

もう夜になっちゃったのか。


ぼんやりする頭で寝返りをすると、するりと腰に手がまわり後ろから抱き締められた。


「ひっ、誰!?」


回された腕を剝がそうと力を入れると、硬いとげみたいに触れる。


「……アルデル、ノックぐらいしてよ!心臓が飛び出るかと思った!」


「声はかけた」


アルデルは勝手に私のベッドにもぐりこみ、私を離そうとしない。

背中に頭をうずめるように甘えてくる。


再開してからアルデルは甘えん坊になっている。

昔はほっぺにキスすら真っ赤になってたし、いちゃしよう!って言ってもバッカじゃねえの?!ってごまかすツンデレだったのに。


「アルデル変わったね」


「…恥ずかしさで、やりたかったことを逃すくらいなら、素直になる」


自分の行動について、よくわかっているのだろう。


「……日が経つにつれ、この腕輪にあるお前の魔力が薄くなっていくのがつらかった。コトハがまだ側にいると思えたから」


寂しい日々を思い出しているのだろうか。

私は鱗がほとんど消えた腕を触ったりして感触を確かめた。


「また、たくさん入れてあげるからね」


「別にすぐじゃなくていい。今は本物が目の前にいるから。だから、死ぬな」


少しだけ声が掠れている。

ああ、アルデルは私の意識が突然なくなるのを、間近で見ていたから、怖かったんだ。

うん、と返事をして、アルデルの気が落ち着けるのならと、朝まで一緒に眠った。

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