第7話 私にできること
デートが終わって翌日に、私はセウェリスに元の世界の知識を教える作業に入った。膨大な量だから彼の部下数人と一緒に書き出す作業をした。
今日はドワーフ族の人達と講習会だった。
セウェリスが道具の優先度リストを作ってくれたので、優先度が高いものを話した。
私の蓄えた知識がアルデル達の協力者に使われ、金儲けができれば防衛費に回せたり、兵士達に使ってもらいたいし、ルトゥース国民達が潤って欲しいと思う。
それと同時に魔法のことも一から調べ始めた。
何かの方法で私の力が取り戻せたら皆の助けになると、連日城の図書室へ入り浸っていた。
そんな生活をしていたから、あまり構ってくれないのに拗ねたアルデルが向こうからやってきた。
「働き過ぎだろ」
「労働年数100年以上の恋人が、もっと良い環境で安心に働けて、もっと生活が便利になって、美味しいもの食べれるようになって欲しくてね」
後ろから髪をいじるアルデルの方を見ずに、くすぐったさでクスクスと笑いながらインクのついたペンをペン立てに戻した。
たぶんこれ以上作業に向かっていたら、しばらく口を聞いてくれなくなるかもと、経験上からこちらからも甘えるように頭をアルデルのお腹に押し付けてぐりぐりした。
「お前って、あんまり魔族になった皆の姿にビビらないよな。昔はあんなに魔族を怖がっていたのに。」
たぶん、今日魔族に変わった人たちと楽しそうに話していたのを見ていたのだろう。
私が帰ってきたことをプグナさんが言い回ったようで、私を知っている人たちが向こうから会いに来てくれたのだ。
亡くなった人達のあいつは結婚して女の子が生まれて、孫がいたとか、職を変えてあれをしていたとか、たくさんお話をしてもらった。
私がお酒が飲める年齢にになっていると話したら、今度うまい酒とつまみを用意してくる!とウキウキで帰っていった。
「昔は魔族=殺される恐怖があったから…。突然目の前に現れると確実にビックリするけど、ただ話すくらいでは怖いとか思わないね」
「肝が据わっているな」
「うーん私の育った国では、小さい頃から異形の姿の人物には振れる機会が多くて、見た目が怖くても優しい人なら差別しちゃだめだよって、いろんな作品で学ぶからかなぁ。あ、もちろん魔族は存在しないよ?」
アニメゲーム漫画映画、さまざまなメディアのおかげで、そーゆーもんみたいな感覚になっちゃってるとこはある。国民性かな。
「かなり見た目に寛容なんだな」
感心したように話を聞いてくれる。
「現実の男女差別や外見至上主義はまだまだあるけどねー」
この世界は、元の世界で言うと1800年代の西洋って感じだが、性別年齢関係なく才能があればいい仕事につける実力主義社会だ。しかし低所得の階級や貴族社会は女は家を守り、男は外で働く男尊女卑がある。
こう説明すると、科学が発展してないだけの元の世界の価値観と近いかも。
図書室の大きなドアからノックの音が聞こえてそちらの方を向いた。
セウェリスの呼び出しがあると、メイドさんが呼びにきて私たちはすぐに移動した。
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「オーキデンスの調査をしている者からの報告です。巫女が滞在しているであろう城には強力な対魔結界が張られているとのことです。弱い魔族では振れただけで溶けて消えるものだろうと」
セウェリスは執務室で報告書を確認しながら私たちに説明してくれた。
溶けて消えるっていうのは物騒だ。
「俺がまっすぐ会いに行ってたら、結界をはがすのに力を消耗させられてすぐ撤退を余儀なくされていたな」
「あちら側も私たちが巫女を欲しがっていることは明らかに分かっているでしょうし、予想の範囲内ですね。」
セウェリスは両肘を机に立て両手に顎をのせる姿勢をして続けた。
「逆に結界の情報によって城には分霊箱や魔物がないと判断できます。広い敷地と建物一つ一つのを探さなくて良くなったのはありがたいことですね。」
「まあ、分霊箱をメインに管理しているのは教会だろうな。…巫女のことはどうする」
結界が張られているなら魔族は通れない。現状人間のみであれば…
「私が戻って説得できないかな」
「お前は命を狙われたんだから無理だ。」
「わかってるけど、なんとか会えさえすれば…」
早くしないと、桃ちゃんは私達の敵になる。
和解できなければ最悪どちらかが命を落とす戦いになる。
「そうですね、狙うなら遠征を。そのためには戦の準備をしましょう。」
「戦争するの…?」
「いいえ、オーキデンスの田舎で魔族の襲撃演出をします。巫女は民へのパフォーマンスとレベルアップを兼ねていろんな所に行きますから。昔の私たちのようにね」
たしかに守護騎士達と共に王様の命令があればどこへでも向かったし、指示がなくても魔族や魔物に教われている人がいれば当然助けた。
「それでですがコトハ、同郷のよしみとして巫女に説明と説得役をお願いできますか?」
大事な任務をセウェリスに託された。断る理由はない。
「もちろん!」
「護衛はアルデルで。」
「ああ」
当然の顔をして楽に私の横で立っている。
アルデルがいや、魔王様がいてくれるならすごく安心だ。
「そういえば聞くのを忘れていたけれど、分霊箱って一つじゃない言い方をしていたよね?全部で何個あるの?」
桃ちゃんの説得も大事だが、分霊箱の捜索も重要だ。
「正確な数はわからないのです。しかし私達が倒した魔王の配下や魔法は4の倍数で構成されたものが多かった。数字に習うなら最低でも4つでしょうか。復活の儀式が魔術や魔法なら、それらは数字が大きく関わってくるので…。」
バランスの良い数字…四天王とか十二神とか、ソロモンの72柱とかな感じか。後はセフィロトとか…。いやでも私の国とかだと三大とか五人衆とか奇数もあるや。
絶対ではなさそう。
「既にこちらは3つ破壊した。しかし、オーキデンス側が焦っているように見えないからもっとあるんだろう」
たしかに全部で四つなら敵は戦力差に大慌てだ。
でも5万人の兵士に匹敵する分霊箱が大量にあるとか考えたくない。
「多くあればもうとっくににルトゥースどころから大陸が滅んでいます。あれは禍禍しい魔力を放ち、近くのありとあらゆる生命を吸い取り、振れる者の魂を奪い魔物に変えるものです。我々に気付かれず保管するにも相当労力がいるでしょう。これらを考えると、少なすぎず多すぎずの数だと、私は信じたいですね。」
セウェリスはため息をついている。
分霊箱と闘うには大きな戦力が必要だ。
アルデルだって次も勝てるかわからないのだから。
「作戦の準備が終わり次第、貴方方にはオーキデンスへ向かってもらいます。それまで十分休息を取ってください。」
そこで解散となり、私とアルデルは休憩するためお茶にすることにした。
お茶を用意してくれているミニスさんを待っている間、セウェリスさんがまとめた分霊箱の記録書を呼んだ。
分霊箱は同じ場所に集まろうとする性質がある、とある。
「アルデルは分霊箱の場所って、感覚的にわかるの?」
「近くにあれば、胸がざわざわしだして、分霊箱のある方へ行きたくなる経験はある。だから身を隠して各地を回って探すというのが今までの任務だ。」
アルデルは心臓のあたりを撫でて説明してくれた。
「一人が分霊箱を壊し続けることは魂が一つに集まり魔王復活の助けになる可能性がある。俺はもう分霊箱を破壊することをセウェリスに止められている。」
「アルデルはいくつ破壊したの?」
「二つだ。三つ目の分霊箱はセウェリスが壊した。だからあいつもあの姿だ。」
セウェリスはアルデルの眷属じゃなかったんだ。
「残りの分霊箱は誰が壊すの?」
「今考え中だ。守護騎士くらいの力がある奴がそもそもいない。回収するにも難しい。できれば誰かが壊すことなく巫女の力で浄化できればと思っている。」
話を聞いてアルデル達を救えるのは巫女である桃ちゃんだけとわかった。
これ以上アルデル達に犠牲を強いたくないから、桃ちゃんを絶対に味方に引き入れなければ!
ちょうど話が終わった後ミニスさんが部屋に入ってきた。
久々に入荷したらしい現在の王都では貴重な果物を使ったスイーツを頂いた。
私が昔大好きだって言っていた果物を覚えていて、取り寄せてくれたのだった。
そんな高価なものをわざわざと謝罪をすると、ミニスさんは今までの感謝を返すよいタイミングなのですからと納得させられてしまった。
その果物はとても懐かしく甘酸っぱい味がした。
数日後、禁書庫で読んだ本に魔法適正を上げる魔道具があると知り、それが城にもあるとリストに載っていたため、急いで探しに宝物庫に足を運んだ。
宝物庫の前には兵士が立っており、何用ですか。ここは魔王様とセウェリス様の許可がなければ立ち入りは禁止されていますと言われた。
私は慌ててセウェリスに許可取ってきます!と頭を下げ戻ろうとしたところ、ちょうど交代の兵士が私に気づいた。
「これはコトハ様、どうなさいましたか」
「宝物庫の許可を貰ってくるのを忘れたんです。ちゃんと証明書貰ってきますね。」
と横を通り抜けようとしたところ、兵士がどうぞ、お通りくださいと宝物庫の扉をすぐに開けてくれた。
「えっ!だめです。こう言うのは正しい手順を踏んで…」
「セウェリス様から、コトハ様の願いは魔王様と同じく聞いて欲しいと言われております。それに貴方は昔に我々の国を救ったことがある英雄です。」
それならと素直に宝物庫へ入らせてもらった。
宝物庫の中はたくさんの美しい装飾品や武器が美術館のように展示されている。
私は描き移した絵を元に目当てのものを探し始めた。
するとどこからか足元に冷たい冷気が流れてくる。
辺りを見渡すと、冷蔵保管しているものや、魔道具はない。
しばらく中を歩いてみると何もない壁から出ているのが分かった。
何これ、と壁に振れたとたん魔方陣が現れ、自動ドアのように入り口が現れた。
冷凍庫かと思うくらいの冷気が中から一気に流れ出た。
中を覗いてみると、至るところに大きな氷の柱ができている。
魔法の明かりに照らされて幻想的な美しい風景―——と思ったら違った。
部屋の中央に蓋のない棺が立てかけられている。
氷漬けになった棺の中には美しい少女が眠っているような顔で入っていた。
―――――ステラ
話では療養しているのではなかったのか。
私のかつての親友が、そこにいた。




