第6話 デート
目が覚めると朝だった。
服がネグリジェに変えられてて、お風呂に入っていないのにすっきりしているのは、たぶんミニスさんがお世話してくれたのだろう。
コンコンとドアが鳴る。
返事をするとミニスさんが入ってきた。
「あの、着替えありがとうございます。後身体も…」
「いえいえ、腕や足を軽く拭いただけでございます。お風呂を沸かしておりますので今すぐ入られますか?」
はいと返事してお風呂場へついていった。
髪はミニスさんが洗ってくれて、とても気持ち良かった。
昔も疲れた身体をステラと共に癒してくれた。
ステラに会えないのが少し寂しい。
だけど生きてくれてるのだからむしろいつか会える機会があることに感謝しないと。
ミニスさんが用意してくれた動きやすい、ルトゥースの一般的なデザインだが可愛い服(それでも素材は上質)を着て、身支度(何故かついでにメイクもされた。隈でもできてたかな)をし朝食を済ませた。
その後、セウェリスの部屋に向かった。
セウェリスの執務室をノックすると中から返事があったので中に入った。
「おはようございます。良く眠れましたか?」
「家のベッドよりも格段良かったから、朝まで一度も起きなかったよ」
「そうですか、それはよかった」
「…セウェリスは寝てる?」
「寝ていますよ。徹夜をしようものならアルデルの拳骨が飛んできます。」
おどけるように話すセウェリス。
セウェリスとアルデルは出会ったあたりは先生と問題児な関係で、アルデルが叱られることの方が多かった。
実際アルデルより7歳年上で、私とは9歳離れていた。
当時アルデルは彼のことを胡散臭い奴だと苦手意識があった。後々信頼関係が強くなって普通に会話するようになっていたけれど、度々アルデルは何かを指摘されていやそーな顔をしてた。
それが逆転してて、少し面白い。
「それで、今日は何をするの?あのね私、また戻ってこれたらのためにたくさん勉強してきたの。工芸とか農業とか医療とかも。知識だけのものが多いけれど、きっと役に立つと思うの。だからその知識を全部書き出す作業をしようかなって」
「それはとてもありがたい話です。が、今日はいいです」
「え?」
セウェリスは引き出しから小袋を取り出し私の手にそれを置いた。
中にはこの世界のお金が入っている。
「お使い?」
「いいえ、アルデルとのデート代です。城下町で好きなものを買いなさい」
なんでデート?こんな時に???
「こんな時だからこそです。忘れているようですが、魔王を倒して女神にお会いしたとき、貴方は星にとって異物であると言われていました。異物を外に出さぬよう女神は力を使って巫女を留めていた、と。」
あ、と声が出た。
とたんに背中に嫌な汗が一筋流れて気持ち悪い。
「女神の力でこの世界に留めるのは巫女だけでいい。無駄な力を使う必要でない貴方はいつこの星から排除されるかわからない」
セウェリスは私が突き返さぬようお金が入った袋と手を上から握ってきた。
「今日が最後かもしれません。アルデルと大事な時間を過ごしなさい」
セウェリスは真剣な顔で私を見つめている。
自分の手が震えてしまっている。セウェリスも気付いているだろう。
以前は一度だけ会えればそれでいいって思ってたのに、絶対に離れたくないと思っている。帰るのが怖い。
「…言い換えましょう。100年間ずっと彼は私たちの何倍も傷つきながら戦ってくれているので、今だけでも労りたいのですよ。だから今日のお仕事はアルデルとイチャイチャして癒してあげることです。」
セウェリスは魔王の問題を置いて、私とアルデルを優先してくれたのか。
今日が最後かもしれないと考えて。
「…わかった」
素直にお金を頂いてポケットに入れた。
「アルデルの部屋ってどこですか?さっそく誘ってきます。」
「アルデルはもう城の入り口で待っていますよ。女性を待たせるのは行けませんので。」
すでに待たせてる?!え、彼が待ち初めてどれくらい経過してるのだろう。
私よりも早くアルデルにも同じことを言って待機させたのか。
いつもは穏やかで優しいのに、時たま意地悪なところがあるのが玉に瑕ってやつ。
慌ててドアを開けようとしたとき、セウェリスが言い忘れがあったと口を開いた。
「昨日貴女が寝た後、珍しくアルデルの方から休みをくれと言ってきたんですよ。あ、これは内緒ですけど」
私はセウェリスにあいさつもせず城の出入口へ走った。
デートはセウェリスが考えたものじゃなくて、アルデルの方がお願いしたものなの?
走っていることによる身体の熱とは別の熱が顔を熱くしている。
城下町に出る城の入り口にたどり着くと、城壁のアーチの下で頭の中に浮かんでいる人と同じ男が立っている。
「アルデルっ!」
私の声に彼は振り向いて、壁によりかかった身体を起こした。
「髪、乱れてるじゃぇか。おめかししてこなかったのか?」
手袋をはめた手で髪をもとに戻そうとしてくれる。
「いや、さっき聞いたばっかりで。待たせてごめんなさい」
「待つのは好きじゃないが今日は許す。」
アルデルは嬉しそうに歩き始めた。
私も慌ててその後ろをついていく。
「私がすっぽかしたらどうするつもりだったのよ」
「寝坊してたらミニスにたたき起こしてくれと事前に伝えていたからな。アイツはしっかりやってくれる。」
ん…?待てよおめかしって言ったな?ミニスさんにメイクされたのもデートだって知ってて…!
赤くなりながら、さっと身だしなみを整える。
階段をゆっくり降りていく途中の城下町はきれいだった。
よく迷子になって守護騎士のメンバーに呆れながら探してもらったことがある。
もう道はあんまり覚えてない。てか100年経ったらお店とか変わってわからないだろうな。
迷子になりたくないのと、デートなんだから手をつないでいいよね?と、アルデルの手をよくみると彼がはめている手袋は先日買ったもののようだがなにか違う。
刺繍と皮を焼いてつける模様?こんな豪華だったっけ。
「この手袋…」
「ああ、手を繋ぐにはこれがちょうど良かったから持っていこうとしたら、ミニスに服に合わないから少し手をいれるってぶん取られて、返ってきたらこれになってた。」
私にいろんな角度で見せるように手を回した後、自然な流れで手を握られた。
アルデルの服装をじっくり観察すると、いつものアルデルなら選ばなさそうなとても似合っていて格好いい姿だ。
髪もデートだからって整えられたのだろう。ゆるい三つ編みが背中で揺蕩っている。
確かに、格好いい服装でダサい手袋は許せなかったのか、急遽似合うようになんとか仕立ててくれたんだね。
ありがとうございます、ミニスさん。
アルデルは100年で変わった城下町を説明しながら案内してくれた。
お洒落のための服屋や装飾品の店はなくなって、城砦都市みたいな男のための雄々しい品物が多いらしい。
実際城塞都市と同じものになったのだから、活気がなくなってしまったのは仕方がない。
それでも娯楽や食の楽しみは戦争下ではとても重要な要素と考えられ、カフェや食堂な感じの店はそこそこあるらしくて、一番おいしいところへ連れて行ってくれた。
ついでに見かけた人で昔に私も会ったことがある人を指差して教えてくれた。
あと、ヘアスタイルで気分変えする兵士の方が多いから床屋も人気らしい。
あまり人が来ないけれど様々な動物を飼育しているところへ連れてい来られて、ここが一番の癒しスポットだった。
馬とか獣魔とか小動物もいて、飼育管理している人から餌やりとおさわりを許可してもらって幸せだった。
明らかに戦争用じゃない小動物は多分食べるようなんだろうなぁとちょっぴり悲しくなった。
癒しスポットはそこだったけれど、一番うれしかったのは行く先々でいろんな人がアルデルに話しかけて気さくな挨拶だったり、たわいのない話だったり、皆とアルデルが仲が良さそうな光景だ。
アルデルは昔、ルトゥースの人たちを恐れさせた大盗賊のお頭だったから、守護騎士に選ばれたことが間違いだとか言われたし、(私にも契約関係を解消しろとまで言われた)、私の旅で功績を挙げていってもみんなの態度はやって当然だみたいで、誰もほめたりしてくれなかった。
アルデルはただ、格差によって食べるものがない子供たちや、魔王によって親を失って厄介者として親族に捨てられた子供たちを守るために盗賊をやっていた。
育ての親でもあり、大好きな前の頭領の盗賊業を継いで、誰も助けてくれない世界で子供たちのヒーローになったのだ。
だからアルデルの知り合いは同業者が多かったけれど、皆アルデルを慕って、アルデルがピンチな時は助けてくれる人ばかりだった。
彼が同業者以外で認められているのがとても嬉しかった。
「アルデルなんだぁそのへんな手袋は!なのに服はいつもと違ってしっかりきめてよぉ!」
後ろ側から男性の大きな声が聞こえてきた。
振り向くと私とアルデルを軽く3回りくらいを超す大きな魔族の男性が立っていた。
私はびっくりして固まってしまった。
こうするためのものだよ。とアルデルに手を引かれ、繋いでいる手を相手に見せつける。
「おまっ、ついにコトハちゃんを諦めたのか?!」
「勘違いすんなおっさん。ほら、本人だ。」
アルデルに背中を押され前に出る。
男性は私のことをじーーっと頭のてっぺんから爪先までじっくり見た。
「コトハ…ちゃん?コトハちゃん!?!?」
目玉が飛び出しそうなほど目を開きあんぐりと口を開けて私を見ている。
「コトハちゃん帰ってきたのか!!!」
「はい!えと、すみません。お名前また聞いていいですか?」
固まった私をアルデルが肘で小突いてくれて慌てて返事をした。
「俺はプグナ。レニタス殿下の直属護衛騎士だった奴さ!ははっほとんど姿形が変わっちまったからな、わからねぇのは無理もねぇ!」
はははと大きな声で笑う魔族の男性。
鎧から見える肌は炎のような黒蛇の入れ墨のような模様が身体中にあって、顔は真っ黒で人の面影は一切感じられない。
でもその名前はよく誰かが叫んでいるとこを聞いていたーーーー
「インベルさんのお尻をずっと追いかけまわしてた人!」
ぐっとアルデルが横で噴出した。
プグナさんはがっくりと肩を落とした。
「いやあってるけどね」
「そのインベルと夫婦になったぞ」
えっインベルさんが!?
インベルさんは下町の食堂の給仕で、その人に惚れ込んでプグナさんはその食堂に通い詰めるということをしていたのだ。
ストーカーじみた行為にぶち切れたインベルさんのフライパンを使った華麗なホームランスイングでプグナさんを吹っ飛ばしていたのを何度も見ていた。
そんな結ばれなさそうな関係だったのに…人って変わるものだなと思った。
昔を思い出しているその間、私がここにいることをアルデルは経緯を簡単に説明してくれている。
「コトハちゃん綺麗になったなぁ!出るとこもちゃんと育ってよ…ぐはっ!!」
アルデルはその発言にプグナさんを思いっきり殴り、私はすぐさま胸を隠した。
この人、王族の護衛騎士に選ばれるほどめちゃくちゃ強い人と言われていたのに、女性の前では性格がだらしなかった。
「インベルさんに言いつけてやりますからね!」
ぷんぷんしながら放った私の言葉にプグナさんだけでなくアルデルも一瞬固まった。
あ、もしかしてインベルさんは人として亡くなっている?ならおかしい発言をしてしまった。
プグナさんはすぐわははと大笑いした。
「あいつの怒った顔も大好きなんだな俺は。告げ口して呼んできてくれていいぞ!」
気にされてないようだったので安心した。
プグナさんはすれ違いざまにアルデルの肩を叩き、「絶対に守るんだぞ。俺のようになるな」と真剣な声で言っていた。
ああ、とアルデルが返事をするとニカッと笑い、手を振って去っていった。
俺のようになるな?
「相変わらずエロおじさんだね」
「……いや、笑った顔は久しぶりに見た」
え?とアルデルの言葉を詳しく聞こうとしたが、アルデルは移動するかと私の手を再び引いて、行先は王都の一番広い公園だった。
その間アルデルは一言も話さなかった。
ベンチに一緒に腰掛け、王都の街並みを眺めながらアルデルはようやく口を開いた。
「……アイツはオーキデンスの兵に妻とその腹の中の子供もろとも串刺しにされた。そのせいで、復讐に燃えて次第におかしくなっていって、力が欲しいと俺に眷属契約を求めてきた。」
はっとした。
昨日の話の人はプグナさんのことだったんだ。
「断ったら、一人で命令違反して突っ走るか、自害しかねないと思って、周りにも相談した上でアイツを魔族にした。」
アルデルは当時の事をプグナさんを思い出しているのだろう。眉間の皺が深くなっている。
私は魔族化を軽く見てたのを恥じた。
魔王を倒す戦力のためじゃなく、アルデルは残された人の心を救おうとしたんだ。
「私失礼な物言いを…」
「大丈夫だ。たぶん今頃コトハが帰ってきたって墓に嬉しそうに報告してるはずだ。俺と同じように、長生きしてこんな嬉しいことはなかったって、今のおっさんなら言ってくれる。」
100年前に大切な人やものをたくさん失って、復讐もまだ果たせず、生き続けなければならないのはどれだけの苦しみを味わっているのだろうか。
私はアルデルの腕に手を回し、彼の方に頭を乗せ目を伏せた。
彼の熱を肩から感じられる。
「長生きしてくれてありがとうアルデル。貴方のおかげで、知ってる人が残っていて、私この今の世界で全然寂しくないよ」
私の言葉でアルデルの過去の選択が間違いでなかったと少しだけ心を軽くしてあげたい。
「俺一人で十分だと言ってくれるほど、俺を愛していないのか?」
意地悪そうに顔を覗き込んでくる。
「言ってあげていいけど、もし皆いなくなっていたら、あの時帰ってごめんなさいってずっと貴方にすがって泣いてると思う。アルデルはそういう女は好きじゃないでしよ?」
アルデルは少し間を空けて、やけ素直だなと目を丸くし、私の肩を引き寄せより密着するように引っ付いてきた。
「…私ね、この世界に居続けられる限り、アルデルの側にいる。貴方の力になる。貴方を愛し続けるわ」
私は向き合う体勢にかえ、アルデルの頬にキスを送った。そしたら彼は私を強く抱き締めてきた。
「離れたくない」
アルデルは声を震わせていた。
だめだな、今日はデートだから泣かないでいようって決めてたのに眼が熱くなって涙がアルデルの肩にどんどんこぼれ落ちていき、染みが広がっていく。
「私もだよぉ…っ!」
まるで余命1年のヒロインと恋人が悲しくも愛おしい日々を大事に過ごす時間制限恋愛小説の主人公になったような気分だ。
お別れしないといけないのはつらすぎる。
アルデルはこの運命にイラついたような顔で、噛みつくように私に深いキスをしてきた。
私は自分の腕を彼の首に回し指に目一杯指に力を入れ、彼から離れられないよう抱きついた。
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-同日夜 オーキデンス帝国アーテル城-
「守護騎士って何人でもつくっていいんだぁ♥攻略人数バグってなぁい?」
巨大な天蓋つきベッドで複数人の守護騎士と裸で寝ている少女はこの国の巫女である桃。
まわりにいる守護騎士たちはまるで精気をすわれたようにぐったりとした体勢で気絶している。
「守護騎士の魔力をたくさん貰えば、つよーい魔法で怖い魔物でもイ•チ•コ•ロ。チートじゃん私www」
琴葉が出会った当初のしっかりした一面はどこへいったのか。
きゃはは笑ってお姫様気分のようだ。
「魔力を貰うのに、いちいちエッチしないといけないのは最初戸惑ったけれど、気持ちいーし、ヤる男性は皆私好みのイケメンだし、パッピー!この世界ってエロゲーだったんだ」
裸のままベッドからゆっくりと降り疲れ切った身体を伸ばしながら、大きなガラス扉まで歩く。
「一緒に召還されたおばさん、魔王に殺されたって教えてもらったけど、この世界が恐ろしいものだってプレイヤーにショックをあたえるための演出で、死ぬ運命だったのかな?」
窓ガラス越しに見える満月は赤黒く見え、少女の笑顔はガラスに歪んで反射している。
「まあ、主人公二人もいらないし、私のイケメン横取りされるかもって邪魔に思っていたから死んでよし!やっぱり私が主人公なのよ!!」
今夜は強い月の光が降り注いでいて、オーキデンスの巫女を妖しく照らしあげていた。




