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第4話 依り代

ルトゥースの王都に向かうため、起きてすぐ荷物をまとめ宿を後にした。


「買いたいものがある。商店へ寄るぞ」


そういわれついていく。

アルデルは防具など売っている店の商品を見ながら何か探している。

町の人はごろつきの奴らが見かけない、横暴な奴らだったからこのままいなくなってありがたいなどと話している。

アルデルが人を殺したことはびっくりしたが、過去にも旅で人が死ぬ場面を経験したからだろうか、トラウマになるような感じでないのは助かった。

怖かったけれどアルデルに会えた喜びが勝って恐怖が薄れたのだろう。

しかし、男たちがいなくなったことで不信がった人間が調べ始めるかもしれない。

それで私が殺し損ねたと王都に伝われば厄介だから、早くこの町を離れないといけない。


「何かお探しですか?」


店主が話しかけてきて、アルデルは丈夫な手袋が欲しいと言った。


「鍛冶屋が仕事で使うような厚手の、できれば肘まであるものがいい」


「お前さん冒険者だろう?なんでそんな動かしづらいものがいるんだい?」


「必要だから」


店主は変な人だと思いながら何種類か手袋を持ってきてくれた。

アルデルは一番厚く刃の通りにくい素材のものを買ったようだった。

そのあとは食糧など移動に必要なものを素早く購入し、人目を避けて町を出た。


30分ほど壁沿いを歩いて、町壁と比べて低くなった壁についた。

アルデルは先ほど買った手袋をはめて、私を抱き上げた。


「えっ!?」


「壁を飛び越えてルトゥースに入る。カバンを腹に移動させて掴まれ。」


「あ、ちょっと待」


静止の言葉を聞かず、アルデルは私を抱えて飛び上がった。

無事に着地したアルデルは、私の驚いて硬直している姿に訝しげな眼で見ている。


「昔数えきれないほどこうしたことあっただろうが。なんでビビってんだよ」


「だっだって10年ぶりだよ!?せめて覚悟ができたら飛んでほしい…」


「……魔物から逃げるときに城壁から飛び降りた時に、お前がキレながら泣いていたのを思い出すな…。」


「だってジェットコースターみたいな浮遊感がにがてだったんだもん…」


高いところから飛び降りるとか本当に怖かったけれど、何度も体験させられたら次第に慣れていったなぁ。

アルデルはくくっと喉を鳴らして私を丁寧におろした。

そして買った手袋はすぐ外して腰のベルトにひっかけようとする。

まさかその手袋、私を抱き上げるためだけに買ったの?

そう思うと頬が熱くなってくる。


「ねえアルデル。その手袋片手でいいからつけていてほしい」


「?まぁいいか…」


すぐに左腕にはめなおしてくれたので、私はすぐさま厚く握りにくい手袋越しに手を握った。

アルデルはそんなことをするためと虚を突かれたような顔をしたが、すぐに目を細め私の手を握り返してくれる。


「迷子防止にはいいな」


辺りは荒れた土地で、隠れることができる建物も何もない。迷子になるようなところではないのだけれど。

いつもアルデルはわかりきっているのにはぐらかしたりごまかした物言いをしていた。

素直じゃないのは昔はむかつく態度だったが、今じゃいとおしく思える。


「これから2時間ほど歩いた南東の場所に王都へワープできる魔法装置を隠してある。行くぞ」


手を引かれ歩きにくい地面を踏みしめながら足を進めた。




「体力が落ちたな。」


「そりゃぁっ、ジムに通っていたけど、仕事で?ずっと座りっぱなしだったからっ」


「運んでやろうか?」


「こんな怖いところではいや!」


現在歩いているところは長く急な坂道で滑りやすく、体力が持っていかれる。

こんなところで足を滑らせて転げ落ちるとか怖すぎる。ぜーはーと呼吸し、アルデルに引っ張ってもらいながら必死に登った。


「この坂を登り切ればすぐに目的地が見える。もうすぐだ」


坂を登りきると先ほどまで感じていた乾燥した空気ではなく、呼吸がしやすい風が強く吹き付けてきた。

目を開けると、そこには緑豊かな土地が広がっていた。

後ろを振り向くと世紀末って感じの荒廃した土地があって、コントラストが激しい。

隕石が落ちてできたような、カルデラのような形の丘に囲まれる、秘密基地のような場所だった。


「ここは結界で隠してあるから、知らない人間はたどり着けないようになっている。さあ、降りるぞ」


ルトゥースに緑豊かな場所があってなんだか嬉しい。オーキデンス帝国にも当たり前に芝生やら森やら草原やらはあったけれど、特別に感じる。


崩れた石の建物の隙間の中に入っていくアルデルに続いた。

中は細長くて大きく苔むした石板が奥に立っているだけだったが、天井の隙間から光がそそがれ、光があたる花たちは元気そうで、幻想的な空間に思えた。

アルデルは石板に触れると、その石板から魔法陣が浮かび上がり光始めた。


「手を離すな。」


そういって強く私の手を握りしめられたと思った瞬間、あたりが真っ白になった。


「こっちだ」


気付いたら暗い部屋にいて、アルデルは建物の外を指す。

外に出ると明順応の反応で一瞬わからなかったが、そこはかつてのルトゥースの王都がそのままあった。

王都を歩く人々——いや魔族の人たちは、人と同じ暮らしをしている。普通の人も混じって生活しているのがうかがえる。


「…ルトゥースは魔族に乗っ取られたの?」


「それについても城についたら詳しく説明する。…俺が魔族になった理由も」


そういって再び私の手を引いた。

魔族化したのはずっと気になってた。

だけどどう聞いていいのかわからなかった。

下手に聞いて過去のトラウマとか引き出して悲しませてしまったらとか考えてしまったからだ。

復活した魔王によって、アルデルは無理やり魔族に変えられたのか。

この街にいる人々も同じ目にあったのか。

今はわからないけれど、これから知る真実のために素直にアルデルについていった。



「おかえりなさいませ、魔王様」


城に入って出迎えた様々な異形の形をした魔族のメイドたちが、深々と頭を下げて出迎えた。

……魔王って言った?アルデルに向かって??


「アルデル」


「今すぐに聞きただろうが、まずは会わせたい奴がいる。そいつがいないと説明ができない」


「誰かこいつの部屋を用意しておいてくれ、それとコトハが帰ってきたと皆に伝えろ」


メイド長と思われる魔族の女性がはっとした顔をして私の顔を見た。

泣きそうな笑顔で見つめてきて、うなづきすぐさまとメイドたちに指示していた。

彼女の面影…記憶にある気がするけど思い出せない。後でアルデルに聞こう。


広く豪華な城の廊下を進む。

帰ってきたと実感し、とても安心する風景が残っていた。


「ああ、アルデルおかえりなさい」


アルデルが開いた扉の部屋の中にいたのは黒い翼が背中に生えトカゲのような尻尾があって、光に当たると紫に見えるゆるやかな黒髪の、金色の丸い眼鏡をかけた男性が、片手に本を持って立っていた。

私この顔に見覚えがある。

長くともに旅をした仲間。


「セウェリス!!!!!」


彼も生きていたのだ。魔族になっているけど。


「……その顔はコトハですか……!?」


「そうだよ!三雲琴葉!」


セウェリスは大きく目を見開いてしばらく口を開けていたが、再開を喜ぶために持っていた本を落とし、私と抱擁した。


「帰ってきてくださったんですね…!」


「ただいま、セウェリス」


感動の再開なのにアルデルは私たち二人をべりっと効果音が出そうな勢いで離れさせ、私を自身に引き寄せた。


「すみません、アルデル。つい。」


からかうように笑うセウェリス。

引き離した張本人ははむすっとしている。

これは私が他の男と抱き合ったから嫉妬した?


「アルデル貴方は巫女に会いに行くと言って出て行って、連れて帰ってきたのがコトハとは。この世界に召喚された巫女はまたコトハだったのですか?」


「ええとセウェリス、実は違うの」


「どういうことですか?」


私は二人にオーキデンス帝国であったことを詳しく話した。


「そのモモという少女が新しい巫女…。であればどうしてコトハが一緒に召喚されたのですか?」


「元の世界で事故に巻き込まれそうな桃ちゃんを救おうとしてすぐそばにいたから…?」


ただの偶然なのか、女神さまが世界の崩壊の危機にまた私を呼んだのかは現状謎のままだ。


「理由はなんでもいい。コトハが帰ってきてくれた、それだけで十分だ。」


はっきりと言ってくれたアルデルの言葉に、嬉しくなった。


「それでは私たちの方についてお話ししましょう。この100年何が起こったか。なぜ私たちが魔族と同じになってしまったのかを」


私たちはソファに移動し、私が座り終えると、セウェリスは静かに話し始めた。


「100年前、我々が魔王を倒しコトハが元の世界へ帰った後、ルトゥース国はレニタス殿下を大頭に復興に走り回っていました。私もそれをお助けする役として働いていました。アルデルとパッセルは国から報奨金や土地をもらい各々自由に暮らし始めたそうです。」


パッセル…懐かしい。糸目でくりんくりんの髪で当時私より少し下の可愛い男の子だった。両親が騙されて奪われた土地を奪い返して、兄弟たちがくいっぱぐれないようにしたいって言ってた。土地を国が返して上げたんだろう。喜ばしいことだ。


「本当に魔王を倒して数か月しかたっていない時期に、西側の国々が正体不明の団体により、王族関係者など皆殺しにあい、国を奪われるという事件が立て続きに起き、たった1か月で現在のオーキデンス帝国の土地にあった国や民族がが滅ぼされました。その後正体不明の団体がオーキデンスという国を樹立したのです。我々も抵抗するべく急いで準備を整え、オーキデンスとの戦争に挑みました。」


「しかし戦況はこちらが圧倒的不利でした。相手は魔物の軍団を従えて襲いかかってきたのです。」


「オーキデンスが魔物を?!魔王を倒したはすじゃっ!」


思わず立ち上がってしまった。

オーキデンスでは魔王が復活してルトゥースを滅ぼしたと言っていたが、話が違うじゃないか!!


「落ち着け、話が途中だ」


アルデルに腕を引かれ素直に座り直した。


「驚くのも無理はありません。我々はすぐさまアルデルとパッセルを呼び戻し、オーキデンスを調べあげました。そしてわかったのが、魔王の魂を分けた分霊箱の存在です。」


分霊箱…?


「魔王は殺された時のために復活の道具を各地に隠していたんだ。オーキデンスの奴らはそれをずっと守っていて、魔王が死んだ後にその分霊箱に宿る魔王の力を使って各地を蹂躙したってわけだ。」


「どうして…そんなことを…」


「100年前…いや貴方からして10年前の記憶でオーキデンスを覚えていますか?」


私は首を横にふった。


「オーキデンスは、魔王を信仰する狂信者達が収容される島の名前でした。」


思いだした。召喚された当初は魔族だけ倒せばいいのかと思ってたけど、魔王信仰の狂信者達に命を何度も狙われた経験がある。

犯罪を犯した者は処刑されていたけれど、軽犯罪や迷惑行為ぐらいでは死刑にできないと一部の優しい西側のある国は島流しの刑にしていたのだった。


「ことの始まりはその島で、狂信者たちは恨みを忘れぬようにと島の名前を組織名にし、国を奪うと次は国名にしたのです。」


オーキデンスがそんな国だったなんて…!!

怒りで手が震えだした。


「我々は分霊箱を破壊すべく所持者を探しました。一つ目は戦場に出ていた圧倒的な力を持つ将軍でしたが、アルデルが絶体絶命の中なんとか倒し、これから状況が好転すると思われました。しかし最悪なことが起きたのです。」


セウェリスは一度口を閉じ息を吐いて言った。


「分霊箱は破壊した者の肉体に入り込み魔王復活の依り代に選ばれることがわかったんです。」


それって…じゃあ!

私はアルデルの方を見た。


「そうです。アルデルは魔王の魂を取り込んでしまい、魔王の依り代になってしまいました」

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