第76話 それぞれの思惑と誕生日宴の招待券
モーフェイは一瞬ぽかんとし、それから目の前の、まるで石炭の山から這い出してきたような人物が、以前一緒に街へ戻った不運な錬金術師だと確認した。
アーダイは顔についた黒い煤を拭い、いつもの苦笑を浮かべた。「君か。見ないでくれ。ちょっとした事故だ」
アーダイの襟元から、全身真っ白で尻尾だけ灰色に染まった雲ウサギがもぞもぞと顔を出した。ルビーのような大きな目をくるくる動かしながら、彼の体についた灰をぱたぱた払ってやる。
モーフェイが背負う配達箱もわずかに動いた。プロトタイプ1号が翡翠色のゲル状の頭を半分だけ出し、その雲ウサギを一目見つめると、すぐ「きい」と鳴いて箱の中へ引っ込んだ。
「ライフ、せめてもう少しきれいな着地点を選べないのか?」アーダイは力なくため息をついた。その声に怒りはなく、深い諦めだけがあった。
彼はモーフェイの方を向き、事情を手短に説明した。「加圧ポンプを修理していたんだ。そしたら突然過熱して爆発して、通りまで吹き飛ばされた」
「どこがちょっとした事故なんだ?」モーフェイは地面一面の惨状を見て、少し呆然とした。
「だが、あそこで爆発していなければ」アーダイは焦げ跡を払った。天気の話でもするように平静な口調だった。「さっき加圧ポンプ内部の圧力弁は完全に固着していた。エーテルが臨界点まで蓄積していたら、この程度の爆発では済まない。通り一本を巻き込むだけの薬室破裂になっていた」
モーフェイは聞き終えるなり、瞬時に理解した。やはりおなじみのパターンだ。これは事故ではない。これがアーダイの日常だった。
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アーダイが後始末を終えると、二人は比較的きれいな屋台を見つけて座った。モーフェイはエールを二杯頼み、アーダイも遠慮せず杯を持ち上げて大きく一口あおった。それからようやく長い息を吐く。
「見ての通り、僕の体質はこうなんだ」アーダイは苦笑しながら自分の状況を語った。「今は決まった雇い主も怖がって使ってくれない。ギルドの依頼か単発の仕事で、どうにか食いつないでいる。中途半端な立場だよ」
モーフェイはうなずいた。アーダイの状況は理解できる。白印という立派な証明はあるが、「災難体質」を抱えた錬金術師では、たしかにやっていきにくい。
「この数年、僕はこの体質を取り除こうとして、あらゆる方法を試した。聖女にまで頼ったが、それでも何も得られなかった。ライフの能力だけが、少し抑えてくれる」
主人の感情を感じ取ったように、ライフは幻獣瓶から出てきて、素直に彼の首元へ頬ずりした。アーダイは小さなウサギの頭をなだめるように撫で、無理のある笑みを浮かべた。
「ただ、最近ひとつ噂を聞いた」アーダイは声を低くし、目つきにわずかな真剣さを帯びた。「明後日の城主の誕生日宴に、ビズネス商会の会長が出席するらしい。聞いた話では、会長は『幸運をもたらす奇物』を祝いの品として用意したそうだ」
モーフェイは眉を少し上げた。さっき食堂で聞いた噂を思い出す。どうやらこの話は、もう下城区に広まっているらしい。
「できることなら、宴で商会会長にその奇物の入手経路を聞いてみたい。あれなら、今の僕の困境を解決できるかもしれない」
「そういうものは、かなり珍しいのか?」モーフェイが確認する。
「かなり珍しい。それに、商会会長が王都から来る機会もめったにない」アーダイはうなずき、それから自嘲気味に笑った。「だが僕は宴の端に近づくことすらできない。ああいう場に、錬金術師を適当に入れるはずがないからね」
モーフェイはポケットの中にある、城主から直接もらった招待状に触れた。
彼はもともと、そんな賑やかな場へ首を突っ込むつもりはなかった。だが、真剣さの中に少しの諦めを滲ませるアーダイの目を見て、心の中で計算が始まった。アーダイは不運だが、技術の土台は本物の白印だ。彼を使えば、高位のギルド依頼をいくつか受けられるかもしれない。
「もし……俺に、お前を連れて入る方法があるとしたら?」モーフェイは探るように尋ねた。
アーダイは一瞬固まり、すぐに目を輝かせた。何かを察したらしい。だが彼は余計なことを聞かず、すぐ条件を出した。
「無償の錬金協力を三回。もしくは、君のギルド依頼を一件手伝う」アーダイは値切り交渉の無駄口を一切挟まなかった。「君が僕を連れて入れるなら」
モーフェイは少し計算した。錬金協力……提灯の機能解析を手伝わせるか? いや、なんとなく問題が起きそうだ。ギルド依頼の協力ならありかもしれない。なんだかんだ言っても白印の錬金術師だ。
「俺を白印依頼に連れていけるか? 今の俺は黒印までしか受けられない」
「できる。では白印依頼を一件だ」アーダイはうなずいた。
モーフェイは笑った。こういう時間を無駄にしない取引は好きだった。
「成立だ」モーフェイはエールの杯を掲げた。「それぞれ必要なものを取る」
二人の杯が軽く触れ合い、澄んだ音を立てた。
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深夜、モーフェイは一人で工房への道を歩いていた。
夜風にはかすかな冷たさがあり、体に残った酒気を散らしていく。昨日は地下城で命がけになり、出てきたあと霧災に遭い、今日は城主の城へ入り、大小姐に会い、さらに王立錬金術学院まで走った。この二日間、彼はほとんどずっと外を駆け回っていた。
ようやく工房へ足を踏み入れた時、胸の奥に妙な感慨が湧いた。
今日一日だけで、入りたいのに入れない状況が三度も続いた。今ようやく中へ入れたことで、言葉にしにくい安堵が胸に広がる。
落ち着ける場所があるというのは、本当にいい。
彼は無意識に地下室の方へ目をやった。いつもならこの時間、ヴィクトルの方から何か妙な作業音が聞こえてくる。だが今、地下室の扉は固く閉ざされ、物音ひとつしなかった。
「ヴィクトルのやつ、戻ってくるかどうかも分からないな」
モーフェイはその場に立ったまま、胸の中に言いようのない空白感が湧くのを感じた。
彼は首を振り、その感情を頭の外へ追い出した。「まあいい。耳が静かで助かる」
配達箱を下ろし、外套を椅子の背に適当に投げると、二階へ上がった。
……
その夜、モーフェイはまた元の世界へ戻る夢を見た。ただし今回はスマホを眺める夢ではなく、彼が最も息苦しかった時期へ沈み込む夢だった。
図面、終わりのない図面。それは彼にとって、息が詰まるような時間だった。毎日、学習、製図、試験だけが続く。
彼はまるで糸で操られる木偶のように従うことしかできず、来る日も来る日も、ただその繰り返しだった。やがて──
一筋の陽光がモーフェイを目覚めさせた。
彼は勢いよく身を起こし、全身が冷や汗に濡れていることに気づいた。
……
身支度を終えると、モーフェイは冷静さを取り戻した。
彼は作業台の前へ行き、研究室から持ち帰った「簡易移動装置」の手稿を取り出して、長いこと静かに眺めた。
「……これも何かの宿命かもしれないな。けど、少なくとも今の日々は俺自身のものだ」
モーフェイは椅子を引き寄せて座り、木炭筆を手に取って一枚写し始めた。粗悪素材版へ改造する研究をするつもりだった。
ドンドンドン!
突然、乱暴なノックの音が響いた。工房の扉枠ごと震えるほどだった。
モーフェイの手の中の木炭筆が跳ね、危うく図面を破りかけた。
彼は力なく筆を置き、扉を開けに行った。
扉の外に立っていたのはマグダだった。この自営運送の女主人は、相変わらず粗布の作業服を着ている。大声が開くなり、モーフェイの耳がびりびり震えた。
「モーフェイ坊主! 仕事があるんだが受けるか?」マグダは遠慮なく本題へ入った。「教会の方で彫像を一式運ぶ必要がある。とんでもなく重い上に、欠けひとつ許されない。お前のジップとかいう小さいやつがいれば、こっちの手間が半分以上省ける」
モーフェイは期待に満ちたマグダの顔を見て、口元に笑みを浮かべた。
「受ける。もちろん受ける」




