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第75話 勝てないなら触らない

モーフェイが反応するより早く、黒い箱から赤い光束が放たれ、正確にミラの胸元へ照射された。


「嘘だろ? この既視感、あとはピピピって効果音があれば完璧じゃないか」


「避けろ!」


モーフェイは床を蹴り、ミラへ飛びかかった。だが黒い箱の動きは予想をはるかに上回っていた。高密度のエネルギー光線がすでに射出され、焼けつく熱風をまとってミラへ迫る。


モーフェイの指先がミラの服の端に触れた瞬間、光線はもう目前だった。押しのける時間などない。


間一髪のその時、モーフェイの背後から翠緑色のゲルの塊が弾け飛んだ。プロトタイプ1号は空中で大きな口を開き、緑の網となって二人と黒い箱の間に割り込む。


ジュッ──


爆発も轟音も起きなかった。その光線はまっすぐプロトタイプ1号の口へ飛び込み、泥が海に沈むように翠緑のゲルへ完全に呑み込まれた。


プロトタイプ1号の体がわずかに膨らんだ。満腹のげっぷに似たくぐもった音を漏らし、丸い体を激しく震わせる。表面には不安定な赤い光が数筋ちらついた。

それはぺたんと床に落ち、モーフェイの足元まで転がってきた。


ミラは床に座り込み、青ざめた顔で荒く息をしていた。ようやく自分が死線をくぐったのだと理解したらしい。


「ご、ごめんなさい……」ミラの目が赤くなり、泣き出しそうな声で言った。「わざとじゃないんです。あの回路が欠陥に見えたので、少しエーテルを注いで試してみようと……」


モーフェイは首の後ろをさすった。手には冷たい汗がにじんでいる。さっきの光線の威力は、明らかに口封じを狙ったものだった。もし少しでもかすっていれば、その場で灰も残らなかっただろう。


「君のせいじゃない」モーフェイは埃を払った。「さっき君は、回路を駆動して法陣の防護機構を解除しようとしたんだろ?」


ミラは呆然とうなずいた。


「なら合ってる」モーフェイは箱へ目を向け、冷たく笑った。「これは罠の起動節点を回路の欠陥に偽装してある。君みたいに理解できる錬金術師が解析しようとするのを、狙い撃ちにするための仕掛けだ」


こういう嫌らしい設計は、いかにもニコラスのやり口だった。もはや課題ではない。扱いを誤れば爆発する錬金爆弾だ。


モーフェイが責めるどころか自分の判断を肯定したことで、ミラの自責は少し和らぎ、胸の奥に温かいものが湧いた。


「封印、封印だ。今後この箱には触らない」

モーフェイは箱の中身をいったん放置することにした。好奇心のために命を賭けるつもりはない。


この生死の一瞬を経て、モーフェイの掘り出し物探しへの興味はきれいに消えた。

彼は手稿をしまい、プロトタイプ1号をすくい上げた。「今日はここまでにしよう。俺は道に詳しくないから、悪いけど学院の外まで案内してくれ」


---


ミラはおとなしく前を歩いて案内した。

途中、モーフェイは何人かの学生が妙な畏敬のこもった目でこちらを見ていることに気づいた。


「あれが例の『清掃コンサルタント』か?」

「前にレノスたちを『清掃』したっていう?」

「さっきも特殊な錬金手法で嵐を呼んで、落とし前をつけに来た有力家の学生たちを一掃したらしいぞ」


あまりひそひそしていないひそひそ話を聞きながら、モーフェイは力なく笑った。

ただ、それでレノスのことを思い出す。あいつ、前は明らかに俺を狙ってたのに、スリックハンドを雇って金を盗ませるのに失敗してから動きがないな。何か大きいことでも企んでるのか?


そこで彼は何気なくミラに尋ねた。「そういえば、レノスって人を知ってるか?」


「レノス先輩? あの議員の息子さんですか?」ミラは少し驚いた様子だった。「有力家の学生の間ではとても有名です。ただ……」

「ただ?」

「最近、休暇を取っています。家で何かあったらしいと聞きました」


モーフェイは考え込んだ。本当にそんな偶然があるのか。灰霧事件が起きた時期に休暇?

とはいえ、それが錬金術師である自分に何の関係があるのか。相手が面倒を持ち込んでこないなら、むしろ気楽でいい。


気づけば、二人は学院の正門の外まで来ていた。


「ここまででいい。ありがとう」モーフェイは笑って手を振った。


ミラはノートをぎゅっと抱え、彼の背中が人混みに溶けていくのを見送った。


---


学院から工房までは、それなりに距離がある。今回は誰も送ってくれないので、モーフェイは一人でゆっくり歩いていた。


やっぱり移動手段があるかないかで全然違うな。特にあの飛行魔導具、一度乗るとちょっと戻れない。あとで何とかして、あの簡易移動装置を作りたいところだ。ただ工房には高級素材があまりないし、「粗悪素材版」を作れるかどうか。

そう考えているうちに、彼は空がだいぶ暗くなっていることに気づき、ついでに夕食も外で済ませることにした。


ポケットの中でずっしり重い金貨に触れ、モーフェイの口元が上がる。

今日はお嬢様のチップが太っ腹だった。懐に余裕がある今なら、自分をちゃんと労ってもいい。


彼は通り沿いで内装がよく、値段も中の上といった店を選んで入った。店内には焼き肉の香ばしさと麦酒の芳醇な匂いが漂い、木製のテーブルと椅子はきれいに拭かれている。

彼は隅の席に座り、看板料理のローストステーキと冷えた麦酒を注文して、思い切り食べ始めた。外は香ばしく中は柔らかい肉を噛むと肉汁があふれ、驚かされた心を大いに慰めてくれる。


食事の途中、隣の席の雑談が耳に入った。


「聞いたか? 明後日の城主の誕生日宴、王立錬金術学院のアルバート院長まで直々に出席するらしいぞ」

「本当か? あの人、そういう付き合いには普段出ないだろ?」

「城主の面子がそれだけ大きいってことかもな。今回の宴には街の大物が全員招かれているらしい。ビズネス商会の会長も出席するそうだ。幸運をもたらす珍品を祝いの品として特別に見繕ったとか」


モーフェイは黙って肉を噛みながら、今日、城主から誕生日宴の招待状をもらったことを思い出した。


……行くべきか? 大物と知り合うにはいい機会のはずだ。

モーフェイの脳裏に、ドラマで見るような華やかな宴の光景がよぎる。だがすぐに笑って首を振った。いや、俺が大物と知り合ってどうする。俺みたいな小物が、ああいう連中の目に留まるわけがない。

現実的に行こう。まずは浄化装置と銀行草案を片付ける。その後は「スマホ風符文」の研究もある。やることは山積みだ。貴族の付き合いに割く暇なんてどこにある。


彼は麦酒を一口あおり、引き続き食事を楽しんだ。


---


酒も食事も十分に楽しんだ後、モーフェイは店を出た。

夜の涼しい風が顔に当たり、体についた焼き肉の残り香を吹き散らす。心地よかった。


数歩も歩かないうちに、前方の街角から「ドン」というくぐもった音が響き、黒煙が一筋ゆっくり立ちのぼった。


「何があった?」モーフェイは好奇心から周囲を見回した。野次馬根性そのままに、人の流れに沿って前へ近づいていく。


街角の中央で、見覚えのある人物が散らばった部品の中からみっともなく這い起きた。顔は煤だらけで、頭から煙を上げ、慌てふためきながら床一面の部品をかき集めようとしている。


その人物が顔を上げた。視線がちょうどモーフェイとぶつかる。


「……アーダイ?」


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