第59話 晶を呑み、晶で封じる
男は地面に尻もちをついていた。
合成獣の大軍を操っていた杖はすでに奪われ、今は「粘縛索鞭」に絡め取られて身動きができない。
それでも彼は怯えるどころか、神経質な笑い声を漏らした。
血走った両目で、男はモーフェイの手にある「古曜原晶」を凝視し、ぶつぶつと呟く。「お前たちのような下賤な傭兵には分からん! 種族を超えた融合、生命と構造を縫い直して完璧な個体へ作り上げることこそ、錬金術の真理だ!」
「もういい。扉を開けろ」ヴァルクが冷たく遮った。
「……ようやく魔法会の愚か者どもが撤退し、私はこの完璧な実験の機会を得たのだ! 原晶の『晶封』は、あの魔物どもを容易に捕獲し保存できる、得難い手段でな……」
男はなおも一人で話し続けた。だが彼のローブが膨らみ始め、肩の下の布地が何らかの圧力でゆっくりと張り詰めていく。まるで何かが肉と皮の内側から突き破ろうとしているようだった。
ヴァルクは突然何かに気づき、慌てて怒鳴った。「こいつ、時間を稼いでいる。取り押さえろ!」
「そこまで死に急ぐなら、『進化』で叶えてやろう!」
男のローブが激しく弾け飛び、拘束を破って、異様な肉体が露わになった。
彼の左肩と背中の半分には、正体不明の魔物の残肢が縫い合わされていた。甲殻に覆われた巨大な節足の前脚が一本、そして大蛇のように蠢く二本の触腕。
配達箱の中からプロトタイプ1号が半分だけ頭を出した。その「人型キメラ」を見た瞬間、極度に嫌悪した「きゅ──」という声を上げ、電光石火で蓋をがっちり閉めて箱の奥へ引っ込んだ。
「杖を失ったところで、遠隔操作装置を失っただけのことだ」
男は口端を吊り上げた。喉の奥から呪文が転がり出て、甲殻の巨爪が赤く輝く。前肢全体がたちまち鋭い魔力に包まれた。
戦闘が再び始まった。
ロックが杖を振るい、荒れ狂う雷霆を叩き込む。しかし甲殻の巨爪に真正面から押し返され、弾かれた。
カミラがピンク色の光束を連射するが、しなやかな触腕にことごとく打ち払われる。
ヴァルクは接近して押さえ込もうとしたが、怪物の関節は歪み、防ぎようがない。何度も触腕に腰から断ち切られかけた。
モーフェイは……戦闘力がほとんどない。時折、残骸を拾って男へ投げつけ、妨害を試みるのが精一杯だった。効果は薄い。
度重なる激戦で一同の余力は底を突き、攻勢は鋭さを失って、かろうじて続いているだけになった。戦況はそのまま膠着する。
男が狂ったように吠えた。一本の触腕が、攻城槌のように地面すれすれを薙ぎ払う。モーフェイは慌てて後退したが、足元の残骸に引っかかった。均衡を失った半秒が、致命的な隙になった。
「モーフェイ!」誰も救援に間に合わない。
触腕が迫ったその瞬間、モーフェイの背中の配達箱から轟音が響き、蓋が弾き飛ばされた。
翠緑色のゲルの塊が砲弾のように宙へ飛び出した。高速で触腕を飛び越え、男の顔へべちゃりと張りつく。数本の触手が、鼻の穴と眼窩へ必死に突き刺さった。
「ぐっ……離れろ!」生理的すぎる攻撃に男は悲鳴を上げ、薙ぎ払っていた触腕がびくりと止まる。
モーフェイはその隙に転がるようにして致命範囲から逃げ出した。
男は完全に激怒した。両手でプロトタイプ1号をがっちり掴み、力任せに引き剥がす。続いて喉からごぼごぼと音を立て、手の中のプロトタイプ1号へ濃い墨緑色の毒液を吐きつけた。
プロトタイプ1号は鋭い悲鳴を上げ、体に紫黒い斑点が浮かぶ。そのまま雑巾のように地面へ投げ捨てられた。
「駄目だ!」モーフェイの心臓が強く縮んだ。
男は荒い息を吐き、血走った目でモーフェイを捉えた。縫合された巨爪が猛烈な勢いで迫る。
モーフェイは慌てて身をかわした。だが死角から触腕が伸び、彼の手首を容赦なく打ち据える。
「つっ!」痛みにモーフェイの手が緩み、握っていた古曜原晶が手から飛び出した。石床に澄んだ音を立てて転がり、プロトタイプ1号の前で止まる。
紫の斑点に半身を覆われたプロトタイプ1号は、弱々しく息をしていた。戦況を見やる。ヴァルクの口元には血が滲み、ロックは押し返され、カミラの魔力は尽きかけ、モーフェイは無様に逃げ回っている。飯の種は、もう限界に近かった。
プロトタイプ1号はもう迷わなかった。震える触手を伸ばして原晶を巻き取り、大きく口を開けて呑み込む。
「待て──」それを目にしたモーフェイは、驚きのあまり舌を噛みそうになった。
声が終わるより早く、プロトタイプ1号が温かな金色の光を放った。毒の斑点は一瞬で洗い流される。翠緑のゲルから柔らかく眩い金光が透け、ホール全体が温かくも刺すような輝きに包まれた。
【個体特性の更新を検出。特性:「晶封」を獲得しました。】
「これもありなのか!?」モーフェイは愕然とした。
プロトタイプ1号は勢いよく跳ね起き、人型キメラを捉えて威厳ある鳴き声を上げた。
きゅうん──
重い共鳴が空気を薙いだ。男は本能的に避けようとしたが、右足を上げた瞬間、灰白色の高密度結晶が石床から生じ、たちまち脛をその場に封じ込めた。
「な、なぜお前が『晶封』を使える! あり得ん! お前は何の怪物だ!?」男が恐怖に叫んだ。
晶封の速度は異常だった。男は触腕を振るって脚の結晶を叩き砕く。轟音とともに数片の結晶が剥がれ落ちたが、さらに分厚い結晶が骨に食らいつく病のように這い上がってくる。
わずか数秒で、結晶は腰まで呑み込んだ。男は胴体を狂ったように捻ったが、もう半歩も動けない。ただ無力な咆哮を上げるだけだった。
「扉を開けろ!」
ヴァルクが命じた。男は閉じ込められているが、二本の触腕はまだ空中で暴れ回っている。遠くから怒鳴るしかなかった。
「断る! お前たちも私と一緒にここで野垂れ死ね!」
「これだけ大きな扉なら、必ず起動装置がある。痺れさせて、身体を探れ」ヴァルクがロックへ言った。
ロックは頷き、雷球を数発放つ。だがすべて触腕に弾かれた。
「諦めろ! たとえ壊しても、お前たちには渡さん!」男は狂笑しながら、盛り上がった肉の隙間へ手を伸ばした。
しかし何度か空を探ったところで笑みが凍りつき、動きが狂ったように乱れ始める。
その時、カミラがルーンの刻まれた骨片を取り出し、狡猾な笑みを浮かべた。「これを探しているの?」
「あり得ん! なぜお前のところにある!?」
「さっき引きずられてきた時、これがあたしの足元に落ちたのよ。ついでに拾っておいたわ」
こうして石扉はゆっくりと開いた。一同はホールから飛び出し、男だけをその場に残して無力な怒りを吠えさせた。
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帰り道は行きよりずっと順調だった。新鮮な夜風が頬を撫でた時、彼らはようやく地上へ戻っていた。
「ふう~、生き延びた……」カミラは体裁もなくへたり込み、大きく息をついた。この時にはもう、元の姿へ戻っている。
「喜ぶのはまだ早い」ヴァルクは険しい顔で配達箱を見た。「あいつが品物を食った。俺たちは何を納品すればいい?」
空気が一瞬で凍りついた。一同は箱を見つめる。
「だ、大丈夫。この子、そんなに早く消化しないから……」
ブブブ──
モーフェイがどう説明するか頭を痛めたその時、通話符文が何の前触れもなく激しく震え、熱を帯びた。
彼が慌てて繋ぐと、フローラの焦りと怒りが混じった声が即座に炸裂する。
「モーフェイ! どこへ行っていたの? 材料を届けに行かせた者が、あなたを見つけられなかったわ。まさか逃げたんじゃないでしょうね!」
「お嬢様、今日は地下城へ出張していて、今さっき出てきたところです」
「何ですって? 早く戻りなさい! 城主が戻ってきたの。戒厳令を出したわ。もうすぐ城門が封鎖される!」




