第57話 魔法少女カミラ
この世界には、「ボス部屋に入ると後ろの扉が閉まり、ボスと生死を懸けて戦わなければならない」などという設定は存在しない。だが、それは起きてしまった。
鼓膜を引き裂くほどの甲高い絶叫が、ホールに響き渡った。
そのキメラムカデは、異様な軌道で猛烈に跳ね飛び、最前列にいたヴァルクとロックを完全に無視して、後方のモーフェイへ一直線に襲いかかった。
「ちょっと待て! なんで俺だけ追ってくるんだよ!」モーフェイは石柱の間を無様に転がりながら、もう片方の手で原晶を必死に握りしめていた。キメラムカデの無数の鋭い脚が、彼の頭皮をかすめていく。
「くそっ! こいつの速度、異常だ!」ヴァルクは低く吠え、体をひねって短刃を振るい、迎撃しようとした。だがムカデは器用にそれをかわし、刃は舞い上がった数本の脚をかすめただけだった。
恐怖なのか、それとも悪臭を混ぜ合わせ、継ぎ接ぎにして生まれたこの歪な生命への嫌悪なのか、プロトタイプ1号はこのとき丸く縮こまり、壁際にぴったり張りついていた。モーフェイの叫びを無視して、どうしても動こうとしない。
キメラムカデは空中で体をひねり、数対の脚を刃のように交互に振り下ろして、モーフェイのそばで盾になっていた石柱を粉々に切り裂いた。
ロックは怪物の一挙一動を見つめていた。この怪物は速度こそ非常に速いが、突撃するたびに胸部の甲板が開閉し、その下にある暗紅色の核を露出させることに気づいた。
あれがおそらく怪物の弱点だ。あそこへ強力な一撃を叩き込めれば、状況をひっくり返せる可能性がある。だが普通の手段では威力が絶対に足りない。完全に安全な溜め時間が必要だ。
ロックは横へ視線を向けた。カミラはルーン銃を握りしめ、何度も引き金を引いていたが、ムカデ怪物の甲殻には浅い白い痕が残るだけだった。
「カミラ」ロックは平坦な声で言った。「『あれ』を使って、俺に時間を稼いでくれ。」
カミラの体がびくりと跳ねた。引き金を引く動きが一瞬で固まり、顔に不自然な赤みが差す。
その目には強烈な拒絶が浮かび、銃を握る手がかすかに震えていた。
「い……絶対に嫌! あれを使えっていうなら、世界の終わりでもない限り無理! こんな場所で、あんなもの絶対に使わないから!」
「今が世界の終わりだ。」ロックは無表情で、再び突撃態勢に入るムカデを見た。それから一言付け加える。「報酬を二割増しにする。」
カミラは葛藤した。
「三割!」
「二割五分。嫌ならなしだ。」
「足元見やがって!」
カミラは絶望の悲鳴を上げ、歯を食いしばって銃をしまうと、先端にピンクのハート飾りがついた魔法の杖を取り出し、勢いよく頭上へ掲げた。
次の瞬間、ホールはまばゆい強烈な光に覆われた。
彼らの目の前のすべてが、この一秒で極端に跳躍した。もともとの荒れ果てた廃墟は消え、代わりに巨大で華麗なピンクと白の魔法陣が現れる。無数のきらめくハートと星の光エフェクトが空中を旋回した。
強烈な光の中心で、カミラの長身で成熟した体が光の中で脈打つように動いていた。すらりと伸びた脚と細い腰が、光に包まれながら信じがたい変形を始める。
彼女の体格は急速に縮み、成熟した艶を帯びていた線は、幼く小柄な少女の体つきに置き換わっていった。
突撃中だったキメラムカデは、獰猛な姿勢のまま空中で静止し、ぴくりとも動かない。
ロックは一秒たりとも無駄にしなかった。この空白の時間に詠唱を始める。杖の先端に極小の雷球が形を成し、心臓を締めつけるような波動を放った。
カミラの体を包む光が一層ずつ引いていく。まるでベールが少しずつ剥がされるようだった。光が退いた場所の傭兵装束は、レースで飾られたピンクと白のミニスカートへ変わっていた。
カミラの全身を包んでいた光が消えた瞬間、ロックが動いた。
「雷蛇!」
巨大な蛇のような白雷が雷球から放たれ、空間を裂く銀色の折れ線のように、ムカデの核へ向かって走る。
バキィ──!!
白雷が核を貫いた瞬間、大量の電弧がムカデのすべての節肢に沿って外へ暴れ出し、甲殻の隙間を内側から次々に押し裂いた。まばゆい白光がその裂け目から怒涛のように噴き出す。続いて鈍い爆発音が響き、胴体全体が中央から外へ弾け飛び、焦げ黒い破片が地面に散らばった。
光が消え、カミラがゆっくりと降りてくる。
このときの彼女の身長は、ロックの胸元ほどしかなかった。もともとの洗練された冒険者の雰囲気は跡形もなく消え、代わりに現れたのは、レースの縁取りと大量のリボンがついた、極めて華やかな短いスカート姿だった。
皮のブーツを履いていた長い脚は、白いストッキングに包まれた細い脚へ変わり、足元にはルビーをはめ込んだ小さな革靴がある。
彼女は両手で顔を覆い、体を激しく震わせ、極度の羞恥状態に陥っていた。
あの抜け目なく有能な大人の女は、今や完全に縮んで、精巧な人形のような少女になっていた。
ロックは杖をしまい、淡々と評した。「さすがは『闇市の魔女』カミラだ。この制御魔法は実に精妙だな。」
「黙って! あんたなんか嫌い!」カミラは悲鳴を上げた。
モーフェイは横で呆然と見ていた。
彼の心は全力で叫んでいた。魔女って何だよ、これ完全に教科書レベルの魔法少女じゃないか!! しかも変身を利用して敵を強制的に行動不能にする設定が、この世界に本当に存在するのか?
彼は床の裂け目にでも入りたそうなカミラの姿を見て、思わずツッコんだ。「ギャップが大きすぎるだろ。お前、本当に傭兵か? どこかの魔法サークルの宣伝担当じゃないよな?」
「黙れ!! 黙れって言ってるでしょ!!」カミラは杖をモーフェイの顔に投げつけたそうだった。
カミラが暴れ切る前に、ヴァルクが口を開いた。「品物は壊れていないか?」
一同はひとまずカミラの崩壊を無視し、視線を一斉に、モーフェイがまだ固く握りしめている古曜原晶へ落とした。
彼らがその結晶を確認しようとしたそのとき、背後から、冷たく、わずかに狂気を帯びた声が聞こえてきた。
「お前たち、よくも私の傑作を壊してくれたな!」




