第55話 深淵鉄顎虫、再び
「これが、お前の言う『波乱』か?」ロックは冷笑し、杖を地面に打ちつけた。
杖の先から目を刺す雷光が瞬時に爆ぜ、重槌のように薙ぎ払われた。先頭を突っ込んできた数匹の岩殻甲虫が数メートル先まで吹き飛ばされ、焦げた辛い臭いがたちまち空気に広がる。
暗がりに潜んでいた魔物たちが、狂ったように湧き出した。
背に灰晶を結晶させた大量の結晶化した盲蜘蛛が岩天井から這い下り、潮のように彼らを包囲してくる。
「自分の仕事に集中しろ。」ヴァルクの声は相変わらず冷たい。彼は腰の短刃を逆手に抜き、モーフェイの横へ一歩踏み込んだ。刃が薄暗がりに致命的な弧を描き、側壁から飛び降りようとした盲蜘蛛を正確に斬り裂く。
前方では雷光と刃の軌跡が絡み合い、密な殺戮の網を織り上げていた。
カミラは冷たい顔で算盤を取り出した。指先が珠を素早く弾き、次の瞬間、算盤から古銅色の光が射出され、防御壁を形作る。
防御壁ができた直後、すり抜けてきた岩殻甲虫が頭から突っ込んだ。結界に激しい波紋が走り、カミラの算盤の珠が一つ、音もなく滑り落ちる。
彼女は表情一つ変えず、逆の手で腰のルーン銃を抜いて引き金を引いた。短いくぐもった銃声とともに、その甲虫は焦げた甲殻の塊へと弾け飛んだ。
「早く片づけなさい。でないと、防御料金を倍にするわよ!」
背後の殺戮音とカミラの冷酷な宣告が混ざり合う。それでもモーフェイは振り返りもしなかった。
彼は目の前で狂ったように歪むルーン中枢を凝視し、額に細かな汗をにじませていた。
先ほどの作業で、閉鎖法陣の安定性は大きく落ちている。過負荷になった魔力が、法陣の内部で出口を求めて暴れ回っていた。
これは閉鎖ルーン、これは分圧節点、これはエネルギー伝導術式……見つけた! エネルギー排出節点だ!
彼には、全速運転しながら圧力計が振り切れかけている高圧蒸気機関が見えているようだった。そして「排出節点」は、その排気口である。
「力押しで壊せないなら、こっちから燃料を足してやる!」
モーフェイは配達箱から素早く刻印板を一枚取り出し、彫刻刀を抜いた。両手は残像が出るほど速く動き、板の上に単純で乱暴な「無限ループ」術式を刻み込んでいく。
続いて、排出節点が魔力の奔流を吐き出す一瞬の隙をつかみ、錬成を発動した。刻印板を節点へ溶接するつもりだった。
ジジッ──!
稼働中の法陣に外部術式を強引に接ぎ木するなど、暴走するエンジンの歯車へ鉄棒を突っ込むのと変わらない。
法陣の排斥力が瞬時に爆発した。荒れ狂う魔力の乱流が、無数の灼熱した砥石のように、モーフェイの両手を狂ったように切り裂く。
彼は退かなかった。むしろ命知らずの勢いで、その「ループ」を力ずくで節点へ噛み合わせた。
法陣が再び魔力を排出口へ押し出した瞬間、刻印板がそのエネルギーの流れを横取りし、そっくりそのまま陣列の内部へ「折り返し」た。
行き場を失った魔力は回路内部で際限なく積み上がり、空転を加速させ、エンジンが爆発寸前に上げるような耳障りな唸りを放つ。
「ロック! こっちにきついのを一発ぶち込め!」モーフェイは勢いよく手を引いて後退しながら、防衛線へ向かって叫んだ。
ロックは唸りを上げる法陣を横目で一瞥し、杖を返した。一本の雷光が防御壁を越え、閉鎖法陣へ叩き込まれる。
その外部からの荒々しい雷撃が、最後の起爆剤となった。すでにデッドループに陥っていた法陣は、内部の脆い均衡を雷の威力で一瞬にして引き裂かれる。
カラッ──轟!
法陣は耐えきれない悲鳴を上げ、直後、内側から完全に砕け散った。きらめく青い魔力の欠片が焦げた雷の余波をまとい、降る雪のように空気の中へ消えていく。
地下城の二層へ続く深い入口が、惜しげもなく開かれた。
同時に、二層の奥から重い気配が奔流のように噴き出してくる。
つい先ほどまで死を恐れず襲いかかっていた盲蜘蛛と甲虫の群れは、その気配に触れた瞬間、捕食者に出くわしたかのように岩の隙間の暗がりへ逃げ戻った。
騒がしく激しかった洞窟は、一瞬で死んだように静まり返る。全員が長く息を吐いた。
モーフェイは目の前の深い通路を見つめ、きっぱりと背を向けた。「解けたぞ。みんな見ただろ? 通路が開いたなら、俺の仕事は完了ってことでいいよな。じゃ、帰る?」
「甘い。」ヴァルクは彼の襟首をつかみ、強引に通路の入口へ押しやった。
「おい! これ、完全に話と違うだろ! 下には名状しがたい高危険度モンスターとかいるかもしれないんだぞ!」モーフェイは力なく抗議したが、鉄鉗のようなその手から抜け出せるはずもなかった。
こうして一行は、この地下城の第二層へ足を踏み入れた。
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「ここ、静かすぎておかしいわ。」カミラは算盤を強く握りしめ、珍しく声に緊張をにじませていた。
先頭を歩いていたヴァルクが突然足を止め、手にした短刃で前方の岩壁にある晶脈の一房を払った。
一同が短刃の反射光を追うと、晶簇の中に、猿の胴体と蝙蝠の翼を持つ巨大な獣の体が埋め込まれているのが見えた。
カミラは近づいて一目見る。「これだけ大きなケイブ・バットエイプなら、毛皮と翼膜が無傷なら闇市で最低でも金貨30枚ね。ちぇっ、この晶封を解ければよかったのに。」
モーフェイは無言で彼女を見た。「いつ怪物が飛び出してもおかしくない不気味な場所を歩いてるのに、お前は死体の査定をしてるのか?」
言い終えた直後、布が岩の地面と擦れるような、ごくかすかな音が、彼らの背後の暗がりから聞こえた。
「誰だ!?」
ヴァルクとロックの反応は速かった。ほとんど同時に振り返る。ヴァルクは手首を返して短刃を投げ、冷たい光が闇の角へ一直線に飛んだ。ロックの杖は目を刺す雷光を瞬時に爆発させ、背後の薄暗い空間を照らし出す。
ぼやけた黒い影が雷光の中で一瞬だけ閃いた。極めて異様な姿勢でヴァルクの投げナイフをかわし、岩天井の死角から通路の奥へ飛び込むと、そのまま姿を消した。
「誰かが俺たちを尾行してる? こんな場所で?」モーフェイは驚いて目を見開いた。
「追うぞ!」ロックが冷たく言い放つ。
一行はすぐに、その黒い影が消えた方向へ進んだ。
狭い曲がり角を抜けた瞬間、目の前の空間がふっと大きく開ける。
両側の岩壁は、過剰に成長し歪んだ形の晶脈に完全に覆われ、不安を誘う暗い微光を放っていた。
あの黒い影は、もうどこにも見えなかった。
誰もそれ以上追おうとはしなかった。
全員の視線と呼吸が、中央にあるものへ釘づけになっていた。
それは、巨大な深淵鉄顎虫だった。
かつて暴れ回った高位魔物の体の大半は、周囲の晶脈と不気味に融合していた。あの破壊不能に見えた甲殻は今や、地脈に無理やり生きながら呑み込まれ、剥ぎ取られたかのようで、完全に環境の一部へ成り下がっている。
その巨獣は力なく地面に伏し、極度の苦痛の中で途切れ途切れの惨めな鳴き声を漏らすことしかできなかった。
モーフェイは固まった。甲殻の側面に、見覚えのある蜘蛛の巣状の裂け目がある。数日前、一層で交戦したときに彼らが残した傷跡だった。
モーフェイは愕然として隣のロックへ振り向いた。「これ、前回のあいつじゃないか? お前、あのとき追いかけて下に行ったんじゃなかったのか!?」




