第36話 サプライズを用意したよ、猟師さん
モーフェイは配達箱の傍らにしゃがみ込み、右手の人差し指で蓋の縁に刻まれた「猟跡の焼印」をそっと撫でた。
「捨てても無駄だ。魔力の軌跡はもう工房の入り口まで繋がってる。逃げられないなら、派手にやるしかない。」
彼にははっきり分かっていた。地下城で深淵鉄顎虫を相手に見せた雷系魔法は、半独学の我流であるモーフェイが真正面から対抗できるものではない。
真っ向勝負は即死。なら、別の手を使うしかない!
彼の視線は、工房の脇にある、古い器具と空の桶が詰め込まれた狭い物置に向いた。
「一流の猟師ほど、獲物の姿で現れるもんだ。ケケケ!」
彼は手際よく配達箱を物置の中央に運び込み、手に入るものをすべてかき集めた。鉄くず、どこからか出てきた鉱滓、廃材置き場から拾ってきた中古部品……。
「じゃあまず、鉄塊錬成をウォーミングアップに。」
モーフェイは大きく息を吸い込み、作業台に「成形陣」を描き出した。
エーテルの脈動が錬成陣と共鳴すると、廃鉄の山は淡い青い輝きの中でうごめき始め、柔らかく溶け出した。陣の働きで不純物が弾き出され、どっしりとした鉄塊へと凝固した。
一度目の錬成を終えた瞬間、耳元でシステムの通知音が鳴り響いた。
【項目「鉄塊」熟練度:31%。熟練ランク「職人」に到達。】
【報酬:30 EP。】
【システム評:宿主はこの安っぽい根性で、熟練度を職人ランクまで気合いでゴリ押した。この社畜めいた頑固さに、システムは敬意を表する。現在EP:36.58。】
「敬畏してるわけねーだろ。褒めるくらいならボーナスを増やせよ!」
口では悪態をつきながら、口角はひとりでに上がっていた。この30 EPは、干からびた砂漠に降る恵みの雨だ。
時間を無駄にせず、鉄塊の加工に取り掛かった。一部はEPに変換して備蓄を確保し、残りは錬成陣の下で素早く引き伸ばし、ねじり上げた。
仕上がりは精巧とは言えないが、執拗なエーテルの誘導によって生み出された鉄線とチェーンリンクは、実用に十分な強度を持っていた。残った端材は圧力をかけて変形させ、返し付きの鋭い網フックへと仕上げた。
次に、安物の錬金薬粉と溶剤を取り出した。
鉱粉を砕いて混ぜ合わせ、錬金炉の残り火でじっくりと蒸した。液体が暗い赤みがかった半固形の膏体になると、細い刷毛で鉄線網の接合部に塗り込んでいった。
続いて、最も刺激の強い硫化廃滓を選び出した。瓶に詰める際に、漂ってきた極細の粉末をうっかり吸い込んでしまい、喉をサンドペーパーで擦られているような感覚に襲われた。立て続けに天地を揺るがす三回のくしゃみをかまし、溢れ出した涙が陶製の瓶に直接飛び込みそうになった。
「こいつは……密閉空間で炸裂したら、神様が直々にいらしても顔を覆って半日は泣きじゃくるに違いない。」
続いて、罠の組み立てに入った。
第一の罠:【超サイレント:ドア警報罠】。薄い鉄片一枚と、ぴんと張った釣り糸一本。扉を押した者がいれば、金属片が激しく擦れて放つ高周波の悲鳴が、最も冷静な猟師でも一瞬心臓を止めるに十分だ。
第二の罠:【化学の極み:特大催涙スモーク】。唐辛子粉と竜息草の粉を混ぜ合わせて陶製の瓶に密封し、つまずき線の下に埋める。蹴られた瞬間、瓶が床に落ちて砕け、物置全体が二秒で濃煙に包まれる。同時に落下の重みが天井の重網の安全ピンを引き抜く。
第三の罠:【目潰し:フラッシュ球】。混沌錬成を使い、4 EPで強光球を一個錬り上げた。竹を箱の真正面の浮き埃の中に半分埋めておく。鉄網が落下した瞬間、竹が砕け、失明させるほどの瞬間的な閃光を放つ。
そして必殺技:【万引きスペシャル:工業チェーン網】。鉄網全体を天井の横梁に前もって吊るしておく。誰かが箱に触れ、かつ煙霧の罠が安全ピンをすでに引き抜いていれば、支えを失った網が頭上からどさりと落ちてくる。床にはあらかじめ四本の長い釘を打ち込んであり、網が落下した瞬間に食い込んでロックされる。対象は数秒間、脱出不能となる。
モーフェイは鉄くずを嫌そうに払いのけているプロトタイプ1号をちらりと見て、そのままひょいと抱き上げた。
「もうすぐ戸締まりするぞ。中で邪魔するなよ。」
プロトタイプ1号はそれを聞いて不満そうに小さく丸まり、「きゅっ」と一声鳴いて、まるで路傍の石であるかのように振る舞った。
「おとなしくしてろ。今夜余計な声を出したら、おやつ三日間抜きだからな。」
……
空が純粋な黒から、寒々しく不吉な濃い灰色へと徐々に変わり始めた。
モーフェイは工房の正面扉で最終確認を行い、掛け金をわざとわずかにずらした。「老朽化しているが、中に何か価値あるものがありそう」という安っぽい誘惑感を演出するためだ。
一晩中、EPは作業台での動きに合わせて少しずつ積み上がっていった。
職人級の腕前に後押しされ、部品制作の合間にさらに数バッチの鉄塊を補充した。それらの純度と平坦さは目に見えて一段上がり、珍しいことにシステムが弾いたコメントにも毒舌が影を潜めていた。
やがて、最後の灯りを消した。
工房は瞬く間に死の沈黙に包まれた。
モーフェイは作業台の死角にしゃがみ込み、冷たい護身用スパナを握りしめ、背中を冷えた壁に密着させた。足元にわずかなぬるりとした感触──プロトタイプ1号が音もなく寄り添ってきた。
目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませ、外の細やかな夜の音に耳を澄ませた。遠くの下水道を流れる水の音、この古い建物が寒さで収縮して立てるきしみ声、そして自分自身の静かで低い呼吸音。
どれほど時間が経ったか分からない頃、足元のプロトタイプ1号が突然動いた。
モーフェイは勢いよく目を開けた。
声はない。だが、小さな体が瞬時に極度の緊張状態になったのが分かった。普段はぼんやりとした黒豆のような瞳が、今は扉の隙間を向いたまま微動だにしない。
その瞬間、室内の気温がわずかに下がった。淡い電離臭を帯びた冷気が部屋中に広がり始めた。雷系魔力の前兆だ。猟師が近づいている足跡でもある。
「来た。」
ぎっ──
正面扉の掛け金が外れた。極めて微かな、まるで亡者を起こすまいとするような木材の擦れる音が耳に届いた。
モーフェイはスパナを握りしめ、掌に細かい冷や汗が滲んだ。
続いて、物置から予想通りの音が聞こえてきた。
キィィィ──!!
金属片が摩擦して生み出した高周波の金切り声が、焼けた尖刀のように夜の静寂を一瞬で引き裂いた。




