第33話 角を曲がれば同業者
「学院の廃棄魔草園?」モーフェイは眉をわずかに寄せた。「あそこのものを取るのは、リスクが高すぎませんか」
こぶ爺は黄ばんだ見取り図をカウンターに広げ、太い指で褪せた書き込みの一点を叩いた。「維持陣法は十年前から順次停止している。学院はとっくに点検を終えて巡回もやめた。帳簿の上じゃただの名前付きの荒れ地だ」
モーフェイはもう少しで折り目から裂けそうな図面を見つめながら、頭の中で『学院』と『荒れ地』という二つの言葉を天秤にかけた。学院が絡む話は、慎重に越したことはない。
「あの陣法は、わしが教師をしていた頃に設計・監督に携わったものだ。学院は全部止まったと思っているが、わしの人間が奥に一区画まだ動いているのを見つけた。中には『活性期』に入った曼陀羅の群れがある」こぶ爺は目を上げ、口調が専門家の冷静さへと戻った。「もっとも、あの陣法ももう数日と持たない。そうなればその区域は完全に死ぬ」
モーフェイは褪せた見取り図を見つめ、頭の中で素早く計算した。残り数日、闇市での調達と道のりの変数を考えれば、ここ二日で動くしかない。
こぶ爺はさらにカウンターの下から古い植物図譜を取り出して広げ、枯れ細った指でその上を指した。「これが全株の図だ。お前の目なら見分けるのは難しくないだろうが、難しいのは取り出すことだ。驚かせた瞬間、土の中へ猛然と潜り込む。一株でも騒がせれば、周囲の株も危険を察知して一斉に移動する。つまり、鏝を入れる角度・深さ・力加減を一瞬で完璧に揃えなければならない。しくじればすべて終わりだ」
「わかりました」モーフェイは見取り図を引き取った。
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闇市でヴィクトルの材料を揃えてから、モーフェイは闇市を出た。
ジミーは市場の出口で足を止め、最後に「お気をつけて、兄貴」とだけ絞り出すと、鼠のように人混みの中へ消えた。
モーフェイは近くの普通の錬金材料店を一回りし、幻獣瓶の残りの補助材料を買い揃えると、錬金材料もついでに補充した。
「合計2金貨です」店員が愛想よく微笑んだ。
モーフェイは血と汗の結晶である2枚の金貨を押し出した。表情は変わらなかったが、足取りは明らかに重くなっていた。
その中でも幻獣瓶が一番大きな出費だったが、仕方ない──まだ自分で作れないのだから。
工房に戻ると、ヴィクトルは散乱した図面の山に埋まっていた。
モーフェイは歩み寄って材料を置き、単刀直入に言った。「材料費と使い走り料です」
ヴィクトルは白衣のポケットから銀貨を何枚か取り出して差し出したが、その動きは肉を削ぎ落とすように遅かった。「昨晩の診療代はほとんど部品の発注に回した。これだけ先に受け取ってくれ。残りは……数日後に払う」
モーフェイは無表情で手帳を開き、『ヴィクトルの未払い』と書かれたページに一行書き足すと、パチンと閉じた。
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荷物をまとめていると、モーフェイの視線が工房の隅の配達箱に止まった。箱の側面には猟跡の焼印がまだ残っている。
ふと思いついた──帰ってきたら試してみよう。
振り返り、炉の傍でまるまると丸くなっているプロトタイプ1号の背を軽く叩く。
このちびは食い意地が張っているが、見方を変えれば、何でも飲み込むあの口が最高の採集ツールだ。
根系を鏝で緩めた瞬間に一口で吞ませれば、マンドレイクの根が土に潜る暇も、仲間に警戒信号を送る間もない。
それに、こぶ爺は食べた後のものは受け取らないとは言っていなかったはずだ。
プロトタイプ1号はつぶらな黒豆まなこをゆっくりと持ち上げ、またサービス残業か、と言わんばかりの恨めしそうな顔を向けた。
「行くぞ。仕事だ」
言葉が終わるや否や、工房の扉がノックされた。過不足なくきっかり3回、振り子のように一定のリズムで。
扉の外に立っていたのは、ぴしりとした燕尾服を着たセバスで、左目の金縁片眼鏡が落ち着いた光を帯びていた。
「お嬢様があなたを専属錬金術師として迎えたいとのことです。待遇はご相談の上で。本日は、その真摯なご意向をお伝えするためだけに参りました」
モーフェイは布越しにポケットの見取り図に触れた。今は用事がある。この件は……少し考えさせてくれ。
「かしこまりました。ご決断の際は、こちらの通話符文でご連絡ください」
セバスは絶対の自信に満ちた眼差しをひとつ向けると、優雅に身を翻して街角へと消えた。
モーフェイは腿を一叩きし、1号を連れて迷わず目的地へ向かった。
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園区は下城区の端、崖に面した行き止まりの一角にあった。
午後の白い陽光が枯れた低木を透かし、固い土の上に短く濃い影を刻んでいた。
脇の砕石壁はとうに雑草に飲み込まれ、黒い杭に腐り果てた木棒と、番号の消えた真鍮の標板がまばらに見えた。
薬園は見取り図より広かった。植床の大半はすでに雑草に占領されている。石畳の間の陣法の刻み溝には苔が詰まり、銅製の陣板は錆びて黒ずみ、魔力の欠片も感じられない。
モーフェイは見取り図を照らし合わせながら奥へ進んだ。三列目の植床を伝って奥へ入ったとき、足がぴたりと止まった。
半壊した棚の下、灰紫色の蔓が植床全体を占領していた。茎は腕ほどの太さで、表面に走る暗赤色の紋が緩やかに脈打っている。
葉は鉤付きの硬質な鱗甲で、棚架を隙間なく覆い尽くした巣穴に変えていた。周囲の雑草の根は灰紫の細根に貫かれ、黄色く黒ずんでいる。
これは寄生で生きるものだ。魔力の枯れた環境でこそ、何より旺盛に育つ。
最も近い蔓の先端が突然弾き上がり、鱗甲が逆開きのギザギザした漏斗口になって真っ直ぐ飛びかかってきた。
モーフェイは半歩後ろへ跳んだ。蔓は空を切って震え、元の位置へ引っ込み、鱗甲が再び閉じた。
これはこぶ爺の見取り図にない。モーフェイは場所を記憶し、砕石壁の外を回り込んで反対側の隙間からさらに奥へ入った。
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目標は植床群の最奥にあった。枯れた茎葉と地割れの中に、モーフェイは微かな魔力の震えを捉えた──陣法が終わる直前の最後の共鳴だった。
【曼陀羅草根】
【状態:活性期(安定)】
【成分:木質部 58%、臆病な根鬚 15%、木属性エーテル (5〜10%)、魔属性エーテル (5〜10%)……】
【特性:極めて敏感、驚愕閾値が非常に低い】
モーフェイは呼吸を緩め、土の割れ目にのぞくひとかけらの目立たない緑を視線で縫い止めた。全知の視界がなければ、ただの雑草として通り過ぎていただろう。
腰を落とし、道具袋から根掘りコテを抜く。こぶ爺の言葉はまだ耳に残っていた──チャンスは一度だけ。
力を入れる軌道を頭の中で何度も繰り返し、柄を握る指の関節が白くなるほど力が入り、呼吸は限界まで浅くなっていく。
手首が沈み込み、金属の先端が今まさに土を破ろうとした、その瞬間──
ざわ……
向こうの低木の茂みから、突然がさりという物音が聞こえた。
モーフェイの体が途中でぴたりと固まった。木の柄を握る指の関節が白くなっている。
大きめの灰色の長衣を着た、顔色の白い少女が茂みの隙間から体を横向きにして出てきた。髪には枯れ葉がひっかかっている。
斜め掛けの鞄のサイドポケットにしっかり収まった幻獣瓶の中で、翠緑色の小熊がガラスに鼻を押し当て、両目で曼陀羅を凝視していた。今すぐ飛びついてかじりつきたくてたまらない、という顔で。
少女も固まったようだった。髪から枯れ葉を取ろうとしていた手が、宙に止まっている。
二人は3メートルにも満たない距離で見つめ合った。
空気が凝固したかのようだった。一枚の枯れ葉だけが二人の間の地面に落ちて、気まずそうにくるりと一回転した。
どちらも口を開かなかった。




