第31話 闇市、またきたぞ
女の足音は静まり返った夜の路上で遠ざかっていき、やがて夜風にかき消された。
モーフェイは工房の入口に立ち、がらんとした街角を眺めながら、眉をかすかに上げた。
「どこかで見たような気がするな?」
工房の扉を押し開け、地下城の埃まみれの戦損外送箱を背負ったまま、地下室へと真っすぐ向かった。
重い木の扉を押し開けると、薬剤の刺激臭と奇妙な臓物の血の匂いが一気に鼻を突いた。
ヴィクトルは腰を曲げ、左目の特製片眼鏡の縁が微かに光を瞬かせながら、細長いメスで何かの組織を処理していた。
「さっき出ていった女は誰だ?」モーフェイは外送箱を作業台の脇に無造作に置いた。
ヴィクトルは顔も上げずに答えた。「客だ。」
「……いつから客がいるんだ?」モーフェイは眉を寄せた。「お前はここに籠もって『完璧な触感』の研究だけしたいんじゃなかったのか?」
「じゃあ俺がどうやってお前に金貨を出すと思ってるんだ?」ヴィクトルはメスを銅の盆に放り込み、澄んだ音を立てた。目の下に濃い隈を浮かべ、歯を食いしばるような不満を声ににじませた。「後ろ暗いくだらない仕事をこなして、血の匂いのする金貨を数枚もらう。まさかこんな仕事を引き受けるはめになるとは思わなかった。」
モーフェイは言葉に詰まった。この男の技術は下城区では文字通り千金に値する。あの女客は、高額の謝礼を払って診てもらいに来たのだろう。
「まあいい、お前の仕事はお前の話だ。」モーフェイは手を振って階段へと向かった。「衛兵隊か仇敵を連れてきさえしなければな。」
ヴィクトルはぞんざいに手を振り、また仕事に戻った。
……
翌朝、モーフェイは腹の減りで目を覚ました。原型1号が枕元で小さく喉を鳴らしていた。
起き上がり、ベッドの下から鉄箱を引き出す。地下城の依頼で250金貨を手にし、フローラの迅速協力手当と貯蓄を合わせると、手持ちはようやく493金貨まで積み上がっていた。
ビズネス商会に払う500金貨の利息まで、あと7金貨を切った。
「適当に一件こなせば埋まる。」モーフェイは長く息を吐いた。坑道労働プランの心配は、もう少し後でいい。
債務の危機が和らいだところで、ずっと頭の隅に引っかかっていた最優先事項に集中することにした──新たな瓶中の幻獣を錬成することだ。
地下城では、ペニーのあの一見役に立たない能力でさえ、いざというときに使えると証明された。自分には原型1号がいるが、制御がまったく利かない。加えて、以前学院へ便乗させてもらったとき、重い荷物を運ぶ需要があると聞いていた。それがますます焦りを煽っていた。
モーフェイが再び地下室へ下りると、ヴィクトルは昨夜と同じ姿勢のままだった。
「今から幻獣瓶を錬成できるか?」モーフェイはふたつの物を卓上に置いた。
ひとつは人造エーテル種。もうひとつは、微かに光る金属環で封じられた黒い石球だった。
黒い石球に視線が触れた瞬間、ヴィクトルはぴんと背筋を伸ばした。
「……黒導石?!」彼はカップを押しのけ、極めて慎重にその石を摘み上げた。「これは空間実験の暴走による副産物だぞ。王立学院の廃材処理区から持ち出したのか?」
「少し骨が折れた。」モーフェイは淡々と言った。「この黒導石を人造エーテル種と組み合わせて、空間機能の幻獣瓶を錬成する。可能か?」
「金属環が力場を抑えているなら、理論上は可能だ。」ヴィクトルは両手を卓縁に突いた。「ただし、空間形態を固定する強力な『錨』が必要になる。なければ、錬成の瞬間に生じる歪曲力でエーテル種が引き裂かれる。」
「土元素の素材、だな?」モーフェイが問うた。
「最低でも、密度が異常なほど高い『重壌』か、千回沈降を経た『地髓泥』が必要だ。」ヴィクトルは黒板にすらすらと書き込んだ。「凝固剤と高濃度安定剤も要る。廃材処理区にそんなものはない。」
「どこで手に入る?」
「凝固剤と安定剤は普通の材料店で買える。土元素素材なら……闇市で探してみろ。」
「リストを書いてくれ。闇市に行ってくる。」
「ついでに俺の分も頼む。」ヴィクトルは遠慮なく羊皮紙を一枚差し出した。
モーフェイはリストを受け取った。闇市でひと稼ぎして、残りの差額も埋めるつもりだった。
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上階に戻り、装備の整理を始めた。外送箱の側面を拭いていたとき、ふと手が止まった。
指先の感触がおかしい。硬貨ほどの小さな一区画だけ、もともと粗い木目だったはずの表面が異様になめらかになっており、まるで構造ごと変質したかのようだった。
モーフェイの目が冷たく細まった。箱を掴んで地下室へ取って返した。
「これが何か分かるか?」モーフェイは箱をヴィクトルの前に押しやった。
ヴィクトルの表情が曇った。「猟跡の焼印だ。」
「何だそれは?」
「魔法猟人の刻印術式だ。対象が通った場所に魔力の軌跡を残す。」ヴィクトルは真剣な顔で言った。「術者にとっては、パン屑を辿るようにお前を追える。」
「削り取れるか?」
「意味がない。」ヴィクトルは首を振った。「軌跡はもう環境に残っている。ただ今は魔力が枯渇しているから、長くは持たない。それに猟人は獲物の行動を暗がりで把握してから動く習性がある。まだ少し時間はある。」
少し間を置いて、付け加えた。「少しだけな。」
モーフェイの心が沈んだ。地下城であの黒装束が見逃したのは、慈悲などではなかった。すれ違いざまに刻印を押しつけていたのだ。
「俺を道案内の耗子にするつもりか。」モーフェイは歯を食いしばった。相手に善意などあるはずがない。早急に対策を立てなければならない。
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午前。闇市入口の円蓋市場。
以太灯が薄暗い円蓋の下で明滅し、空気は相変わらず澱んでいた。砂埃と硫黄の匂い、値切りの怒声、安物の煙草の臭い、貪欲な視線——何も変わっていない。
モーフェイは素材を揃えながら、久々に「掘り出し物探し」で残りの金貨不足を埋めるつもりだった。
階段を下り、見慣れた通り筋に沿って露店の間を縫って歩く。雑貨の露店の前で足を止め、いくつかの鉱石をひっくり返しながら値段を計算していた。
露店の主人がひと声かけてきたが、その視線がモーフェイの顔で二秒ほど止まった。次の瞬間、皺だらけのその顔が真っ赤に染まり、喉を張り上げて熱狂的に叫んだ。
「掘り出し物師がきたぞ!」
喧騒が一瞬で凍りついた。数十の視線がいっせいにモーフェイに突き刺さった。
モーフェイはその場に固まり、口の端をひくひくと痙攣させた。
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