第20話 危うく宝探しを忘れるところだった
フードの人物の言葉が頭をよぎった──「灰霧地帯が一割近く縮んだ」。それを聞いた瞬間、墨飛はある考えが浮かび上がってくるのを感じた。
「あの灰霧が縮んだのって……まさかシステム、お前と関係ないよな?ないよな?」
【システムは宿主が何を言っているのかわかりません。げっぷ~】
「……」
背後の幻獣瓶から鈍い音が二度。プロトタイプ1号が目を覚まし、触手で箱の壁を叩いて急かしていた。
「やっと起きたか。箱の中に放り込んでおいた廃材でも食ってろ。もう帰るぞ。」
墨飛はヴィクトルの素材袋を肩に担ぎ、砕石の坂を踏みしめて廃坑の出口へ向かった。来た時より半歩速く、振り返ることなく。
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工房の灯りがついていた。
扉の隙間から鈍い琥珀色の光が漏れ、断続的な金属の打音に混じって、液体が沸騰する低いぐつぐつという音が聞こえてきた。墨飛は背中で扉を押し開け、素材袋を作業台に叩きつけた。「採ってきた。自分で確認しろ。」
ヴィクトルは顔も上げず、片手で袋を受け取って中をちらりと覗き、採集管と密封瓶を一つずつ取り出して鼻に近づけた。「妖精の花粉──品質問題なし。蛍光コケ──根ごと土付き、合格。地脈共生キノコ、」最後の瓶を軽く握る、「茎が完全で根系もある。ちょうどこういうのが欲しかった。」
墨飛は内ポケットの人造エーテル種に触れた。「瓶中の幻獣の錬成、知ってるよな?」
「当然だ。俺は生物錬成で卒業した。」
「どうやって錬成するか教えてくれよ。」
ヴィクトルは少し間を置いてから墨飛を見た。「お前もその年頃か?」
「何の話だ?」
「親に『俺も瓶中の幻獣が欲しい』と駄々をこねる年頃だよ。瓶中の幻獣の錬成には人造エーテル種が必要でな、あれは卸売りで手に入るもんじゃない。」
墨飛は無表情のまま、人造エーテル種をポケットから取り出してテーブルに置いた。
「お、お前、どこでそれを……?」
めったに見せない驚きの表情を浮かべたヴィクトルを見て、墨飛は思わず口元がほころんだ。「稼いだ。正規ルートで。それで、次は?」
「次はどういう機能が欲しいか次第だ。それに合わせて素材を準備する。」
「選べるのか? 荷物の処理を手伝えるやつがいい。」一秒置いて、「荷物の体積を圧縮できるやつ──場所も取らないし、力もいらない。」
ヴィクトルは軽く鼻を鳴らし、鉛筆を手に取って記録帳の余白にさらさらと二行書き付けた。
「空間型素材:空間歪曲特性。
土属性素材:高密度鉱石、収斂性優先。」
「瓶中の幻獣の錬成は料理の注文じゃない。投入する素材の元素と特性が、すべて結果に影響する。」
記録帳をくるりと回して墨飛の前に押しやった。「空間機能を持つ瓶中の幻獣を錬成するには、非常に特殊な素材が要る。空間を歪曲できる特性がなければ話にならない。普通の鉱石を代わりに使っても意味がない。」
「空間を歪曲できる素材はどこで手に入る?」
「知らん。闇市にあるかもしれんが、安くはないだろう。」
そうか、これはすぐには錬成できそうにない。
「そうだ、」ヴィクトルは再び計測機に視線を落とした、「今日依頼が来てたが、お前の代わりに断っておいた。」
「なんだって!?」
せっかく来た依頼を、このご先祖様は断ったのか?
「王立錬金術学院からだ。後山の廃材置場に来てほしいとかいう話だったが。」
「ちょっと待て、なんで断る!? 数日後に500金貨返さないといけないの知ってるか?」
「あいつらは、」ヴィクトルは目を上げ、錬成の失敗作を品評するような顔で言った、「三百年続いた魔法学院を名前だけ変えて『錬金術学院』と名乗り、看板まで丸パクリして、学術論文は仲間内で互いを引用し合う無駄話ばかりだ。」
再び視線を下げる。
「あんな場所のために使い走りをしたら、お前の専門家としての面目が立たん。」
「……使い走りに面目なんてあるか。」
「だから代わりに丁重にお断りした。どういたしまして。」
墨飛は絶句した。怒ったといえば怒ったが、一瞬のことだった。しょうがない──このツンデレクエスト発行NPCにドロップしてもらわないといけないんだから。
深く息を吸って、喉元まで込み上げてきた言葉を飲み込んだ。
待てよ──廃材置場?
ある物が頭に浮かんだ。あの銘板──白袍人が識別証と交換したやつ。学院後山廃材処理区の立入許可証だ。
もともと行くつもりだったのに、次々と厄介ごとが重なって、すっかり忘れていた。
あそこには学院が廃棄した失敗実験品が山積みのはずだ。錬成陣の廃フレーム、期限切れの薬剤、失敗した試験材料……学院はかなり捨てているに違いない。
記録帳を押し返し、立ち上がった。
「どこへ行く?」
「王立錬金術学院の後山廃材置場。入場許可がある。」
ヴィクトルは意外そうに墨飛をもう一度見た。「今から? 何時だと思ってる。」
「廃材置場に時間帯は関係ない。山積みの廃材が仕事終わりに帰るわけじゃないからな。」墨飛は幻獣瓶のベルトを締め直した。
「廃材置場を丸ごと持っていくなよ、」ヴィクトルはもう計測機に視線を戻していた、声は気だるげだ、「学院も時々巡察に人を出すからな。」
「わかってる、ほどほどにする。」
工房の扉が閉まり、廊下の夜風が隙間から流れ込んで、中のテーブルに置かれた記録帳の端を一枚めくった。
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今回は運が良かった。器材を運ぶ知り合いの車に便乗させてもらえた。
道中、墨飛は交通手段をもう一台確保しないといけないと考えていた。借金返済のために走り回るのに、足だけでは限界がある。
もちろん、「地獄爆走」から始まるやつはご遠慮願いたいが。
ポケットから銘板を取り出し、手のひらの上で軽く弾んでみると、ずしりと重かった──見た目よりずっと。
この銘板を持ち歩いて何日も経つ。今夜やっとその出番が来た。
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銘板を提示して広大な廃材置場に踏み込んだ瞬間、足が止まった。
あたりには時折またたく魔力の残光だけ。人の気配はどこにもない。
墨飛は顔を上げ、目の前にそびえ立つ廃材の山々を見渡した。
二つに折れた錬成陣の鉄枠、錬金矩陣を半分剥がされた圧力炉の外殻、失敗した錬成残骸が詰まった木箱……
雑多な廃材が歪に積み上がり、断崖の縁すれすれまで迫っていた。外城の路地ではスクラップ業者でも引き取らない代物だが、ここにある一つ一つは、かつて王立錬金術学院の実験室を通ったものだ。
墨飛は深く息を吸った。
興奮を抑えながら宝探しを始めようとしたその時──彼は気づかなかった。どこかの隅から、廃棄物と溶け合うような、まったく生気のない視線が、静かに彼を見つめていることに。




