第166話 工房主の棚卸し時間
目の前にいるのは、記憶の中にいた四つの小さな毛玉ではなかった。木箱のそばから身を乗り出す、細長くなった四つの猫の影だ。
モーフェイはしばらくその場に立ち尽くし、目の前の猫たちと、記憶に残る手のひらサイズの子猫たちをようやく結びつけた。
「たったこれだけの間で、みんなこんなに大きくなったのか」
四本の足は伸び、体も、石の隙間へ適当に縮こまれば隠れられるような小さな毛玉ではなくなっている。
小さなオレンジ色の猫は、相変わらず真っ先に彼のもとへ歩いてきた。ただ、足取りはずっと安定している。残りの三匹も次々と木箱のそばから顔を出し、黒猫はいつものように高いところでうずくまっていた。
「四匹ともいるな。よかった。前にいた鼠怪に傷つけられていなくて」
前に鼠犬モンスターを路地から吹き飛ばし、子猫を守ると言っていた女性を思い出す。「あの女性とは、また会うことがあるのかな」
小さなオレンジ色の猫が顔を上げて一声鳴き、モーフェイの靴に体をこすりつけた。ほかの猫たちも彼を覚えていたらしく、集まってきて足元を行ったり来たりしている。
プロトタイプ1号がモーフェイの脚の脇から半身を滑り出させ、黒豆のような目を猫の群れへ向けた。
以前なら姿を見ただけで逃げていた子たちは、今回は散らなかった。一番近くにいた一匹が立ち止まり、首を伸ばしてプロトタイプ1号の匂いを嗅ぐ。プロトタイプ1号も触手を一本持ち上げ、ゆっくりとその顔へ近づけた。
猫の前足が触手の先に軽く触れ、胸元へ引っ込む。プロトタイプ1号は触手を揺らし、もう一度差し出した。
「きゅっ」
子猫がまた一度叩いた。ゼリー状の体が揺れる。柔らかなクッションを見つけたとでもいうように、子猫は前足を交互に動かして揉み始めた。ほかの猫たちもそばへ集まり、様子を見ている。
モーフェイは脇でしばらく眺め、思わず笑った。「悪くない。どうやら猫用クッションの審査には合格したみたいだな」
彼は何匹かの頭を撫でた。「悪いな。今回は様子を見に来ただけで、食べ物は持ってきていない」
さらにしばらく猫たちを撫で続け、小さなオレンジ色の猫が気持ちよさそうに目を細め、ほかの猫たちも木箱のそばへだらりと戻ったところで、ようやく手を引いて立ち上がった。
プロトタイプ1号は揺れる何本もの尻尾をもう一度見てから、振り返って彼のあとを追った。
壁の角を通り過ぎた時、背後で小石がかすかに鳴った。彼は足を止め、振り返る。そのうちの一匹が、彼について路地の入口まで来ていた。
「君も工房で働きたいのか?」
子猫は彼を見上げ、さらに一歩前へ出た。
モーフェイは腰をかがめて子猫を抱き上げ、壁の角の奥へ戻した。「やめておけ。俺のところは、ネズミより危険な素材のほうが多い。ここが君の家だ」
黒猫はもう木箱から下りていた。モーフェイが腕の中の子猫をその前へ戻すと、子猫は黒猫の体側へ寄り添った。それでも尻尾はモーフェイのほうへ向かって揺れている。
黒猫はその場にとどまった。モーフェイを見上げ、鼻先を何度か動かす。それから彼のズボンの裾へ近づき、脇に垂れた袖口まで嗅ぎ上がった。
モーフェイは腕を持ち上げて匂いを嗅いだ。「俺、何か変な匂いをつけてるか?」
黒猫は半歩下がり、ただ静かに彼を見つめた。
「まあいい。もう遅いからな」モーフェイは猫たちへ手を振った。「またな」
彼はプロトタイプ1号を連れて狭い路地を出た。外の通りの角を足音が回り込んでいくと、黒猫はようやく影の中から歩み出し、音もなくあとを追った。
---
工房へ戻ると、モーフェイは椅子を引いて作業台の前に座り、これからの予定を棚卸しした。
「浄化装置のほうは、だいたい決まった。あとはお嬢様が指定した版を作るだけだ」
続いて、分解されたまま元に戻っていない拒絶ランタンへ目を向ける。「リリィにこれを元どおりにできるか、明日聞いてみるか」
そう言いながら草紙を一枚引き寄せ、「浄化装置」と書く。その後ろに「確定」「お嬢様指定版」と順番に書き足し、最後に「ランタン復元→リリィに相談」と付け加えた。
少し考え、さらに「来週の競売会」と書く。
「浄化装置の仕事は一つの段階まで来た。競売会に出す機体を仕上げるのに、そう時間はかからないだろう。そのあとは来週の競売会の結果を待つだけだ。競売会まではあと一週間ほどある。この空き時間をどう使うか、しっかり考えないとな……」
彼は帳簿の確認を始めた。「今までの収入は……だいたい270金か。1000金の賠償金までは、まだ距離があるな。はあ」
続いて、魔女会から手に入れた薬草へ目を向ける。「今回の薬草採取には、思わぬ収穫があって助かった」
草紙に「つなぎ→報酬:希少素材→販売/製薬」と書き足す。
彼は腕を組んだ。「製薬といえば、最近は工房に新しい依頼があまりない。タンサのような学院展示用の案件が来てくれればいいんだが」
「そうだ。ミラの今後も考えないといけない。お嬢様が手伝ってくれたのは、学院と工房の提携契約だ。つまり、お嬢様が金を出して、俺のところには無料の労働力が一人増えた。だが、浄化装置の律令解析はもう一段落している。いつまでも工房の整理をさせるわけにはいかないし、トビーが戻ってきたら仕事が重なる……」
モーフェイは頭をかいた。「あいつには何をさせればいい? ああいう理論の天才は、普通なら……」
呟きながら、「ミラ」「理論」「最先端研究」と書き込んでいく。
「そうだ、異世界版スマートフォン! 方向性を教えて、実際の技術を研究してもらえばいい。転移者の俺が、こんな大きなアドバンテージを見逃すわけにはいかない」
こうしてミラの名前の横に丸がつき、その中へ「スマートフォン」と書かれた。
モーフェイはその横に「リリィ?」と書き足した。プロトタイプ1号が突然近づき、たった今書かれた文字を見つめる。
モーフェイはプロトタイプ1号をつついた。「リリィは浄化装置がきっかけで俺たちと一緒に仕事をしている。もう試作機も手に入れたし、この先も一緒にやってくれるかはわからない」
最後に「トビー→雑用」と書き足し、草紙を机の隅へ押さえた。顔を上げると、プロトタイプ1号はもうジップとじゃれ合っている。
「それに、『瓶中の幻獣を一体錬成する』っていうクエストもある。何日も詰まっているが、あの報酬を捨てるのは惜しい」
彼は片手で頬杖をついた。「次の仲間は、どんなやつがいいかな?」
窓の外では、黒い耳の先が窓枠の下から覗いていた。しばらくすると、室内を静かに見つめるもう一組の目が現れる。
モーフェイが新しい瓶中の幻獣の能力を思い描いていた、その時。一筋の紫色の光が思考を遮った。
振り返ると、逆位者の信物だった。
接続したばかりなのに、そこからロックの声が響く。「まさか、俺に魔導具を一つ借りていることを忘れていないだろうな?」
「わ、忘れるわけがないだろ」モーフェイは軽く咳払いした。「ちょうど、どうしてまだ要望を出してこないのかと思っていたところだ」
ロックは鼻で笑った。「なら、覚えているうちに要望を決めろ。俺が欲しいのは蓄魔装置だ」
「蓄魔装置か……わかった」モーフェイは別の草紙を引き寄せた。「どんな形にしたい? 手持ちの素材はあるのか?」
「護腕にしてくれ。素材はほとんどある。足りないのは蓄魔核一つだけだ」ロックは言った。「ああいうものは、最近ますます見つけにくくなっている。そっちに在庫はないか? それとも手に入る場所を知っているか?」
「俺のところにそんなものがあるわけないだろ。闇市場へ行くほうが、まだ……」
モーフェイのペン先が紙の上で止まった。以前、ジミーが賭け箱をいくつも抱えて工房へ来た時のことが脳裏に浮かぶ。そのうちの一箱から、干からびた果核のような外見の小型蓄魔核が出てきた。
「闇市場には何度も行ったが、粗悪品すらなかった」
「持っているかもしれない人なら、心当たりがある」モーフェイは言った。「ただ、しばらく前の話だから、まだそいつが持っているかはわからない」
「手がかりがあるなら、聞きに行け」
「わかった。そいつは普段から闇市場で活動している。そこで会おう」
---
硫黄と安物の煙草の匂いが再び鼻腔へ入り込んできた時、ロックはすでに闇市場の入口脇に立っていた。杖は腰に掛けている。
「行くぞ」ロックは闇市場の奥へ目を向けた。「まずは、お前の言っていた相手を探そう」




