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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第13章 土と牙の試練

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第097話 出発

朝の空気は冷えていた。


王都ティリアスの東門を抜けると、石畳が砂利道に変わる。遠くに丘の稜線が見える。その手前、日が昇りきる前の薄い光の中に、岩場が広がっているはずだった。


「行きますよ! 任せてください!」


先頭を歩くカイルが振り返り、銀のプレートアーマーを打ち鳴らすように胸を張った。背負った大剣を握り直す姿には、隠しきれない高揚が滲んでいる。


「張り切りすぎだよ。最初からそのテンションは持たないって」


アイリスが呆れたように言う。ナイフを指先で弄びながらも、その視線は道の端、木の陰、遠くを行き交う人影へと絶えず向けられていた。


「問題ありません! むしろ気合いが必要です!」


「……出発前から消耗するのは非合理ですわ」


リリアが淡々と補足する。緑金のローブの裾を持ち上げ、砂利道の凹凸を確かめながら歩く。長杖の先が地面を軽く叩くたび、宝石が鈍く光った。


ユイは列の後方を歩いていた。


全員の背中を見ながら、出発前に頭の中で組み立てた手順を静かに辿る。岩場まで徒歩で約5時間。アーマーリザードの推奨討伐レベルは14。今の全員なら問題なく対処できるはずだ。前世の記憶では、そうだった。


ただ、そのはずだという確信の奥に、わずかな引っかかりがある。


前世でも同じ道を歩いた。この砂利の感触も、冬が近づく空気の匂いも、記憶と重なる。だが、どこかが違う。何が、とは言えない。ただ、何かがずれている。


セイラが無言で歩いていた。白青の長髪が風に揺れる。吐息が白く、周囲の気温より確かに低い。彼女は視線を前に向けたまま、表情を変えない。


最後尾をハンスが歩く。巨体が砂利道を踏むたび、低く重い音が響く。その隣をエルザが静かについていく。全身黒ずくめの装束の中、赤い瞳だけが周囲を冷静に読んでいた。


セリスが足元の小石を踏み、転びかけた。


「わわっ」


「足元」


ユイが短く告げると、「ありがとうございます!」と元気よく返る。水晶の杖が空を切り、ヒビの入った杖先が朝の光を反射した。


一行は街道を外れ、草地の踏み跡を辿る。岩場へ続く道は整備されていない。冒険者が踏み慣らした痕跡があるだけだ。


リリアが地図を広げ、現在地を確認する。


「予定通りの方角ですわ。このペースなら昼前後には到着できそうですわね」


「ペースを落とすな」


5時間の道のりは長い。足場も悪い。消耗を読み誤れば、戦闘前に体力を削ることになる。


ユイは後方から全員の歩き方を観察し、それぞれの疲労の出方を頭に刻む。


カイルは元気が先行し、歩幅が安定していない。アイリスは軽快だが、索敵に意識を割くとペースが乱れる。ハンスは重量がある分、足場の悪い場所で時間がかかる。


昼過ぎ、草地は緩やかな丘へと変わり始めた。足元に岩の欠片が混じる。


「休憩するか」


ユイの声に、全員が岩陰に腰を下ろした。水を飲み、回復薬の残量を確認する。会話は少ない。疲労というより、自然と気が引き締まっていた。


アイリスが立ち上がり、丘の頂近くまで歩いてから戻ってくる。


「なんか……多くない? 気配」


軽口ではない。純粋な観察として落とされた声だった。


「どこだ」


「全体的に。この距離で複数感じるのって、前に来たときより多い気がする。あたしの気のせいかな」


気のせいではない、とユイは思う。


休憩中も、草地の奥でいくつかの気配が動いていた。前世でこの時期、この場所で感じた密度より確かに多い。


だが確証はない。記憶の誤差か、本当に増えているのか。今は断定できない。


「警戒を上げろ。陣形は維持」


「はいっ!」


カイルが力強く応じる。


丘を越えると、岩場が視界いっぱいに広がった。大小の岩が積み重なり、日差しを受けた苔が湿った光を帯びる。隙間に伸びた草の奥で、影が動いた。


1つではない。


ユイは立ち止まり、目を細めて数える。3。いや、4。岩陰を移動する鱗の影が、複数。


「予想より、多い」


無意識に漏れた声が、乾いた空気に溶けた。

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