第096話 出発前夜
夜。クロウフォールの拠点。
廊下には蝋燭の灯りが揺れ、各部屋の扉の下から淡い光が漏れている。明日から始まる素材収集遠征に向け、全員が最後の準備をしていた。
カイルの部屋では、大剣と盾が壁に立てかけられている。彼は椅子に腰かけ、無言で盾を磨いていた。銀のプレートアーマーが橙色の光を反射する。
「明日から、素材集めか」
低く呟き、盾の表面を撫でる。ゴードンに確認してもらった際、微細なヒビを指摘された。強化が必要だと言われたことを思い出す。
「もっと強くならないと」
拳を握る。守りたい。追いつきたい。その想いだけは、誰よりも強い。
装備を順に確認する。回復薬、ロープ、予備武器。抜けはない。
隣の部屋では、リリアが杖を机に置き、先端の宝石をじっと見つめていた。
「少し曇っていますわね……」
魔力を流す。光が弱い。伝導率が落ちている。
羊皮紙の素材リストを広げる。
魔石、元素核、雷結晶、火精核、氷精核。
「強化しないといけませんわね」
穏やかに微笑み、薬品を丁寧に鞄へ収めていく。回復薬、解毒薬、魔力回復薬。指先の動きに迷いはない。
セリスとセイラは隣室で準備をしていた。
「明日、楽しみですね!」
明るい声が響く。
「……そうだな」
淡々とした返事。
セリスは薬品を並べて数える。回復薬5本、解毒薬3本。
「セイラさん、足りてます?」
「……ああ」
セイラは氷の杖を確認していた。魔力結晶の消耗を感じる。
「氷洞にも行くんですよね」
「……そうだ」
短い返答。それでも覚悟は固い。
アイリスの部屋では地図が広げられていた。
「深森、岩場、山岳、湿原……」
指でなぞりながら確認する。
「氷洞、溶岩帯、雷原……」
地図を畳み、小型ナイフを抜く。刃こぼれが目立つ。
「ま、とりあえずは使えるか」
軽く振り、鞄へしまう。
エルザは無言で短剣を研いでいた。石に刃が触れるたび、静かな音が響く。
研ぎ澄まされた刃が光る。
「……準備完了」
短く呟き、窓の外の月を見上げる。
ハンスはハンマーを手に取り、重さを確かめていた。柄の劣化を思い出すが、振り心地は問題ない。
「……明日」
低い声が部屋に落ちる。
ユイの部屋。
机の上に並ぶ双剣を見つめる。整備は完璧だ。前世からの習慣で、武器管理は徹底している。
「みんな、準備してるかな」
廊下へ出る。各部屋の灯りが心強い。
階段を下り、広間へ向かう。
広間にはカイル、リリア、アイリスが先に集まっていた。
「ユイ!」
アイリスが手を振る。
「準備は終わったか?」
「はい。問題ありません」
「私も完了ですわ」
「あたしもバッチリ!」
やがてエルザとハンスが現れる。
「……準備完了」
「……ああ」
最後にセリスとセイラが合流する。
「みんな揃ってますね!」
「……ああ」
8名が揃う。
ユイは全員を見渡した。
前の人生では、隣に誰もいなかった。失敗も痛みも、すべて一人で抱えた。
だが今は違う。
7人の仲間がいる。
「明日から、素材収集に入る。無理はするな。だが、必ず成果を持ち帰る」
カイルが力強く答える。
「はい!」
リリアが静かに頷く。
「皆でなら可能ですわ」
「楽しみだね!」
「頑張りましょう!」
「……ああ」
「……明日から」
それぞれの声が重なる。
ユイは小さく笑った。
「今日は休め。明日は早い」
それぞれ自室へ戻っていく。
自室に戻り、窓の外を見る。月が高い。
ダイアウルフ、アーマーリザード、ストーンゴーレム、マッドゴーレム、そして各種エレメンタル。
長い遠征になる。
だが一人ではない。
今度こそ、最後までやり遂げる。
ベッドに横になり、目を閉じる。
静かな夜が、明日への決意を包んだ。
翌朝。
全員が広間に集まる。朝食を終え、最終確認を済ませる。
ユイが短く告げた。
「行くぞ」
全員が頷く。
素材収集遠征が、始まる。
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