第092話 アイリスの情報収集
朝、アイリスは街に出る準備をしていた。黒と紫のレザーアーマーを身につけ、小型ナイフを腰のベルトに差し込む。
「よし、行ってくるかー」
拠点の玄関に向かうと、エルザが立っていた。黒い軽装鎧に身を包み、無言でこちらを見ている。
「えっ、エルザも来るの?」
「…情報は重要だ」
短い答えに、アイリスは肩をすくめた。
「まあ、確かに。じゃあ一緒に行こうか」
二人は王都の街へ出た。朝の市場は活気に満ち、商人たちの声が飛び交っている。アイリスは慣れた足取りで人混みを抜けていった。
「まずは、いつもの情報屋だね」
路地を曲がり、古びた酒場の前で足を止める。看板は擦れて文字も読みにくい。
「ここ」
扉を開けると、昼間にもかかわらず数人の客がいた。カウンターには見覚えのある無精髭の男が座っている。
「よぉ、久しぶりだな」
「久しぶり! 元気してた?」
「まあな。で、今日は何だ?」
「最近、変わったことない?」
男は顎に手をやり、少し考え込んだ。
「変わったことか……冒険者の失踪が増えてる」
「失踪?」
「北の森と東の街道だ。死体も見つからない」
アイリスは眉をひそめた。
「魔物の仕業じゃないの?」
「それなら痕跡が残るはずだ。だが、何もない」
男は声を落とす。
「それと、素材の値段が上がってる。魔石や硬鱗が倍近い」
「素材か……」
アイリスは小さく頷き、銀貨を二枚置いた。
「ありがと。助かった」
「気をつけろ。何かが動いてる」
「分かってるって」
酒場を出た二人は、市場へ向かった。野菜や肉の露店が並び、人の流れが続いている。
「おばちゃん、最近どう?」
アイリスが野菜売りの老婆に声をかける。
「あら、アイリスちゃん。元気そうね」
「おばちゃんもね。最近、何か変わったことない?」
老婆は少し考えた。
「街道が危ないって話は聞くわね。商人が護衛を増やしてるとか」
「なるほどね」
「それと、ギルドが忙しそうよ。依頼が増えてるみたい」
「ありがと!」
アイリスは次々と人に声をかけ、情報を集めていく。エルザは終始無言で、その背後に立っていた。
「エルザ、何か気づいた?」
「…人が減っている」
「人?」
「街の人数が、以前より少ない」
アイリスは周囲を見回した。確かに、いつもより人通りがまばらに感じる。
「気のせいじゃなさそうだね」
二人は午後まで情報を集め、拠点へ戻った。
広間では、ユイとリリアが地図を広げていた。
「おかえり」
「ただいま! 色々集めてきたよ」
アイリスは簡潔に報告する。
「冒険者の失踪が増えてる。北の森と東の街道」
リリアが地図に印をつけた。
「それと、素材の価格が高騰してる。魔石や硬鱗」
ユイが考え込む。
「供給が減っているのか……」
「街道も危険らしい。護衛を増やしてるって」
エルザが補足する。
「…街の人も減っている」
リリアが息を呑んだ。
「人口減少……」
ユイは地図を見つめ、静かに言った。
「何かが動いているな」
「幻モンスターと関係してる可能性もあるわね」
「断定はできないが、無視はできない」
ユイは地図を閉じた。
「明日、ギルドで素材の情報を集める。装備強化の準備も進めよう」
「了解! また情報集めるよ」
「…そうだ」
夜、アイリスは自室の窓から外を見ていた。冒険者の失踪、素材の高騰、街の人口減少。
偶然ではない。
「退屈しないね」
小さく笑い、月を見上げた。雲に隠れた月は、何かを予感させるように淡く光っていた。
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