第091話 カイルの戦術講義
夕方、クロウフォールの拠点。
広間には全員が集まっていた。カイルは珍しく前に立ち、羊皮紙を広げている。その表情は真剣だった。
「みんな、少し聞いてほしい」
カイルの声に、視線が集まる。ユイは腕を組み、黙って様子を見ていた。
「今日は……クロウフォールの戦術について話したい」
リリアがわずかに目を見開く。
「戦術、ですか?」
「ああ。俺たち、連携は取れてきてる。でも、まだ噛み合ってない部分があると思うんだ」
カイルは羊皮紙を指差した。そこには前衛・中衛・後衛を簡略化した陣形図が描かれている。
「前衛がここで、後衛がここ……で……」
説明しながら、カイルの言葉が少しずつ曖昧になる。考え込むように額に皺を寄せた。
「……ユイが前に言ってたんだけど……いや、違うな……」
アイリスがにやりと笑う。
「それ、ユイの話そのまんまじゃない?」
「ち、違う! 俺なりに考えた戦術だ!」
慌てて言い返すカイルに、リリアが微笑んだ。
「でも、口調がユイそっくりよ」
「……そうか?」
エルザが静かに問いかける。
「……実戦で使ったことは?」
カイルの動きが止まった。
「……それは……」
沈黙が落ちる。ハンスは腕を組んだまま、何も言わない。
セリスが優しく声をかけた。
「カイルさん、正直に言っていいと思います」
カイルは深く息を吸い、頭を下げた。
「……すみません。正直に言うと、戦術はほとんど分かってない」
全員が黙って聞いている。
「ユイが話してくれるのを聞いて、少しでも役に立ちたくて……でも、知識だけ真似しても、意味がなかった」
セイラが低く言った。
「……正直でいい」
ユイが小さく笑った。
「無理すんな。カイル」
「でも……盾役として、戦術を理解してないと……俺、みんなを守れないかもしれない」
その言葉には、焦りと不安が滲んでいた。
ユイは歩み寄り、カイルの肩に手を置く。
「十分やれてる。前線で立ち続けられる盾役は、簡単じゃない」
「……ありがとうございます」
リリアも穏やかに続けた。
「戦術は知識だけじゃないわ。経験と感覚も大事。あなたは、盾役としてとても優秀よ」
アイリスが笑いながら言う。
「そうそう。カイルは難しいこと考えなくても、前でドンと構えててくれればいいんだよ」
「筋肉ってことか……」
カイルが苦笑する。
ハンスが低い声で言った。
「……筋肉は裏切らない」
一瞬の間の後、笑いが広がった。
セリスが明るく言う。
「カイルさん、一人で頑張らなくていいんです。みんなで学びましょう!」
エルザが頷く。
「……そうだ」
セイラも静かに言った。
「……背負いすぎだ」
カイルは全員を見渡し、ゆっくりと頷いた。
「……ありがとう。俺、焦ってたみたいだ」
ユイが締めくくる。
「戦術は、みんなで作る。カイル、お前の視点は必要だ。ただ、一人で抱えるな」
「はい!」
カイルは力強く返事をした。
リリアが提案する。
「戦術の整理は、私とユイで進めましょう。共有すれば、連携も良くなるわ」
アイリスが手を挙げる。
「じゃあ、あたしは他のパーティの戦い方を調べてくる!」
「私も手伝います!」
エルザが静かに言う。
「……裏から情報を取る」
ハンスが頷いた。
「……守りは任せろ」
セイラが短く言った。
「……攻撃は私が」
ユイは全員を見渡した。
「これがクロウフォールだ。全員で強くなる」
カイルは胸の奥が少し軽くなったのを感じていた。
知識が足りなくてもいい。
自分にできることを磨き、仲間と補い合えばいい。
それが、今のクロウフォールだった。
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