第088話 拠点での夕食と明日への準備
夕方、クラウンの拠点に戻ると、セリスは荷物を置くより先に台所へ向かった。
「今日は、昨日買った食材で料理を作りますね!」
「お、いいねー!」
アイリスが軽快に応じる。
「手伝います!」
カイルが元気よく手を上げた。
「私も手伝いますわ」
リリアも席を立つ。
「じゃあ、みんなで作りましょう!」
セリスは嬉しそうに笑った。
台所に全員が集まる。
セリスがてきぱきと指示を出す。
「カイルさん、野菜を切ってください!」
「了解です!」
カイルは包丁を握り、慎重に野菜を切り始める。
だが、厚さが揃わない。
「あれ……?」
「カイルさん、もう少し薄くお願いしますね」
セリスが優しく声をかける。
「すみません!」
カイルは慌てて切り直す。
「料理下手だねー、カイル」
アイリスが軽口を叩く。
「うっ……頑張ってるんです!」
「じゃあ私がやるよ」
アイリスが包丁を取り、手際よく野菜を刻み始めた。
「意外と器用ですね!」
セリスが驚く。
「情報屋時代に覚えたんだよ」
アイリスが得意げに笑う。
リリアは食材を見ながら、つい理論を語り始める。
「料理も魔法と同じで、理論が重要ですわね。火加減と時間配分は──」
「リリアさん、料理は感覚も大事です!」
セリスが苦笑する。
「……そうですか?」
「味見係、お願いします!」
「承知いたしましたわ」
リリアは素直に頷いた。
エルザは無言で包丁を動かしている。
正確で無駄のない動きだった。
「エルザさん、すごく綺麗ですね」
「……当然だ」
セイラがふと呟く。
「……氷魔法で冷やせば」
「待ってください!」
だが一瞬遅く、野菜が霜に覆われた。
「あ……」
セリスが一瞬だけ固まる。
「……失敗」
セイラが淡々と認める。
「大丈夫です! 解凍すれば使えますから!」
セリスはすぐに笑顔を戻した。
ハンスは黙々と火を扱っている。
フライパンの温度は安定していた。
「ハンスさん、火加減が完璧です!」
「……」
短い頷きだけが返る。
ユイは少し離れた場所から、その光景を見ていた。
仲間が並び、笑い、失敗し、助け合っている。
前の人生では、なかった時間だ。
一人で戦い、一人で食べ、一人で眠る。
それが当たり前だった。
やがて料理が完成する。
温かいスープ、焼き魚、野菜の炒め物、甘い菓子。
全員が席に着いた。
「いただきます!」
湯気の立つ料理を囲み、自然と会話が弾む。
「美味しいです!」
「ありがとうございます!」
「野菜、いい切り方だね」
「でしょー?」
穏やかな時間が流れた。
食後、ユイが全員を見渡す。
「明日から、素材の情報を集める」
「はい!」
「了解!」
「承知しましたわ」
「まずはギルドだ。計画を立てる」
全員が頷いた。
「今日は休め」
ユイはそう言って立ち上がる。
それぞれが部屋へ戻っていく中、ユイは一度だけ窓の外を見た。
星が静かに瞬いている。
守りたい時間がある。
守るために、強くなる。
ユイは灯りを落とし、部屋を後にした。
長い一日が終わり、次の一日が始まろうとしていた。
第11章 完
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