第084話 街への買い物・後編
セリスとアイリスは、市街南側にある食材市場へ向かっていた。
「わー! 久々の市場だね!」
アイリスが軽やかに跳ねる。
「はい! 新鮮な食材がたくさんありますよ!」
セリスも弾んだ声で応えた。
市場は昼下がりらしい活気に満ちていた。野菜、魚、肉を扱う店が軒を連ね、商人たちの呼び声が絶え間なく響いている。
「いらっしゃい! 今朝採れた野菜だよ!」
「魚も入ったばかりだ、見ていきな!」
セリスは目を輝かせ、次々と店を覗いていく。
「この野菜、色がとても綺麗ですね」
「おっ、お嬢さん、目利きだね!」
商人が笑顔で応じる。
アイリスはその様子を楽しそうに眺めながら、隣を歩く。
「セリス、今日は何作るの?」
「うーん……みんなが元気になるもの、ですね!」
「いいね! じゃあ肉料理?」
「それもいいですけど、魚もすごく新鮮そうです!」
セリスは嬉しそうに笑った。
二人は魚屋の前で足を止める。氷の上に並ぶ魚が、光を受けて銀色に輝いている。
「この魚、新鮮ですよ!」
商人が胸を張る。
セリスはじっと魚を見つめた。
「本当ですね。目が澄んでいます」
「分かるかい! さすがだね」
「これ、ください!」
迷いのない声だった。
「おっ、いいね!」
アイリスがにやりと笑う。
セリスは魚を受け取り、満足そうに頷いた。
その後も二人は市場を巡る。野菜屋では、セリスが真剣な表情で品を選ぶ。
「このトマト、甘そうですね」
「そうだろ? 今朝採れたばかりだ」
「じゃあ、これもください!」
アイリスが横で感心したように言う。
「セリスって、ほんと食材選ぶの楽しそうだよね」
「はい! 料理は食材選びから始まりますから」
「へぇ……奥が深いね」
「新鮮なものなら、味付けは控えめでも美味しくなるんですよ」
セリスは誇らしげに説明した。
肉屋では、自然と料理の話題になる。
「この肉、柔らかそうですね」
「ああ、いい部位だ。煮込みでも焼きでもいける」
「じゃあ、煮込みにします!」
「それは間違いないな」
店主が笑う。
アイリスはその横で、小さなパンを齧っていた。
「ねえ、セリス。デザートも買わない?」
「あっ、それもいいですね!」
二人は市場の奥へ進み、菓子屋の前で足を止める。
色とりどりの菓子が並んでいる。
「わー、美味しそう!」
「これ、みんなで食べたら楽しそうですね」
「よし、買おう!」
気がつけば、袋はすぐにいっぱいになった。
「ありがとう! また来てね!」
「はい、ありがとうございます!」
市場を後にする頃には、二人の腕は食材と菓子で塞がっていた。
「今日はいっぱい買えたね!」
「はい! これで美味しい料理が作れます!」
「楽しみだなー!」
アイリスが上機嫌で言い、セリスも頷く。
拠点へ戻る途中、セリスがふと思い出したように言った。
「そういえば……ユイさんたち、ちゃんと買い物できてますかね」
「あー、大丈夫でしょ。ユイはハンスと一緒だし」
「それなら安心ですね」
一方その頃、ユイとハンスは防具屋にいた。
店主との何気ない会話の中で、ユイは耳に留まる言葉を聞く。
「最近、冒険者の装備が妙に傷みやすいんだよ」
「……どういうことですか」
「理由は分からん。ただ、普段より明らかに早い」
ユイは考え込む。
ハンスも無言で頷いた。彼自身、同じ違和感を抱いていた。
「……そうですか」
それ以上は踏み込まず、ユイは店を出る。
ハンスが静かに後を追った。
二人は言葉を交わさず、拠点への道を歩く。
ユイの胸には、小さな引っかかりが残っていた。
何かが、少しずつズレ始めている。
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