第083話 街への買い物・中編
リリアとセイラは、市街西側にある魔法触媒専門店へ向かっていた。
「セイラさん、何か必要なものはありますか?」
リリアが穏やかに尋ねる。
「……氷結晶」
セイラは短く答えた。
「そうですわね。私も魔力結晶を補充しておきたいですわ」
二人は並んで歩く。会話は少ないが、歩調は揃っていた。
魔法触媒店「蒼月の欠片」は、落ち着いた佇まいの店だった。扉を開けると、魔力を帯びた鉱石や結晶が棚に整然と並んでいる。
「いらっしゃいませ」
店主が声をかけてきた。中年の女性で、魔法使い特有の落ち着いた雰囲気を纏っている。
リリアは丁寧に会釈した。
「失礼いたします」
セイラも無言で軽く頭を下げる。
リリアは店内を見渡し、魔力結晶の棚へ向かった。
「この結晶は……純度が高いですわね」
手に取って光に透かし、内部の流れを確認する。
「魔力の伝導率も安定しています。杖の補修にも使えそうですわ」
理論を口にしながら、必要な数を選んでいく。
一方、セイラは迷いなく氷結晶の棚へ向かっていた。青白く輝く結晶を前に立ち、ひとつずつ手に取る。
結晶から、かすかな冷気が指先に伝わる。
「……これ」
短く呟き、一つを選び取る。
店主が興味深そうに近づいた。
「氷魔法使いかい。珍しいね」
セイラは視線だけを向ける。
「……問題ありますか」
「いや、ないよ。ただ最近は見なくなったからさ」
店主は穏やかに笑った。
リリアが言葉を添える。
「氷魔法は高度な制御が求められますもの。とても希少ですわ」
セイラは何も言わず、結晶を見つめている。
リリアは他の触媒にも目を向けながら、淡々と説明を続けた。
「この光粉末は、治癒魔法の効率を高めるのに有効ですわね。魔力純度を整えることで、回復速度が安定します」
「詳しいね」
店主が感心したように言う。
「研究の延長ですわ」
リリアは微笑んだ。
セイラは別の氷結晶も手に取り、冷気の強さを確かめている。一つずつ、慎重に。
その様子を見て、リリアが声をかけた。
「セイラさん、その結晶で大丈夫ですか?」
「……問題ない」
「そうですか。ですが、もし制御に不安が出たら、いつでも相談してくださいね」
「……理解している」
短い返答だった。
リリアはそれ以上踏み込まず、静かに頷いた。
二人は必要な触媒を選び終え、会計へ向かう。
「ありがとうございました。またどうぞ」
店主が言う。
「ええ、ありがとうございました」
リリアは丁寧に会釈した。
セイラも無言で頭を下げる。
店を出ると、リリアが改めて尋ねた。
「他に必要なものはありますか?」
「……ない」
「では、少し街を見て回りましょうか」
「……そう」
二人は再び並んで歩き出す。
リリアは時折、魔法理論について語る。
「氷魔法は水魔法の応用ですが、温度制御が加わる分、難易度が高いですわね」
セイラは答えず、ただ聞いている。
少し間を置いて、リリアが控えめに尋ねた。
「……何かあれば、無理をなさらないでくださいね」
「……分かっている」
それだけで、会話は終わった。
二人は静かに次の通りへ向かう。
リリアの胸には、わずかな懸念が残っていた。
セイラの力は強い。だが、その強さは、制御と隣り合わせだ。
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