第082話 街への買い物・前編
昼を過ぎた頃、クラウンのメンバーは拠点前に集まっていた。
「全員揃ったな」
ユイが短く確認する。
「はい!」
カイルが元気よく答え、アイリスが軽く跳ねる。
「久々の街歩きだねー!」
「楽しみですわ」
リリアが穏やかに微笑む。エルザは無言で頷き、セイラは淡々と立っている。ハンスは壁際に静かに佇み、セリスは明るい表情を浮かべていた。
ティリアス市街は、平日の午後らしい落ち着いた活気に満ちている。石畳の通りを進みながら、ユイは全員に指示を出した。
「二人一組で行動する。必要なものがあれば買っておけ」
「了解です!」
「わかったー!」
それぞれが頷く。
「カイルとエルザは武器屋へ」
「はい!」
カイルが即座に応じ、エルザは無言で肯いた。
「リリアとセイラは魔法触媒の店」
「承知いたしましたわ」
「……そう」
「セリスとアイリスは食材市場」
「はーい!」
「了解だよー!」
「ハンスと私は防具屋を見てくる」
「……承知した」
「夕方に拠点で合流だ」
全員が了解し、街の中へ散っていった。
カイルとエルザは、市街東側の武器屋街へ向かう。並ぶ店先から、金属の匂いと打ち直された刃の気配が漂っていた。
「エルザさん、何か見ますか?」
歩きながらカイルが尋ねる。
「……見るだけ」
エルザは短く答え、足を止めない。
武器屋に入ると、壁一面に剣、槍、斧が整然と並んでいた。カイルは思わず目を輝かせ、大剣の並ぶ一角へ向かう。
「おお……!」
手に取り、重さと重心を確かめる。
「この重量配分、いいですね」
感心したように呟くカイルの横で、エルザは静かに短剣の棚へ移動していた。
一本ずつ視線を走らせ、時折手に取って重さを確かめる。刃の角度、柄の感触、わずかな歪みまで見逃さない。
「いらっしゃい」
店主が声をかけてきた。初老の男で、鋭い目をしている。
「そっちのお嬢さん、目が利くね」
エルザは答えず、短剣を元の位置に戻した。
カイルが驚いたように振り返る。
「えっ、エルザさんって武器に詳しいんですか?」
「……当然だ」
短い返答だった。
「すごいですね。全然知りませんでした」
「……知る必要もない」
エルザは淡々と言い、次の短剣を手に取る。
店主が興味深そうに近づく。
「暗殺者か何かかい?」
エルザは沈黙したまま、刃を光に透かす。
「まあいい。その目は本物だ。気に入ったら声をかけな」
エルザは小さく頷いた。
一方、カイルは大剣を見つめながら呟く。
「でも、今は買う余裕がないな……」
「……見るだけでいい」
「そうですね。今日は見るだけにします」
カイルは名残惜しそうに剣を戻し、他の武器にも目を向けた。
エルザは短剣だけでなく、投擲用の刃や仕掛けのある武器にも視線を走らせている。
「エルザさん、普段から手入れしてるんですか?」
「……毎日」
「すごいですね」
「……当たり前だ」
それだけ言って、最後の一本を戻す。
「また来な」
店主の声に、エルザは軽く頷いて店を出た。
「待ってください、エルザさん!」
カイルが慌てて後を追う。
「意外と武器が好きなんですね」
「……好きじゃない」
「え?」
「……必要だから、知っているだけだ」
カイルは納得したように頷いた。
二人は次の武器屋へ向かう。エルザの表情は変わらない。ただ、その足取りはわずかに軽かった。
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