第081話 休息の朝
カオスナイトとの戦いから、数日が経った。
クラウンの拠点であるティリアス市街の小さな邸宅は、朝の光に包まれて静まり返っていた。いつもならユイが全員を起こし、訓練へ向かう時間だが、今朝は違う。
ユイはゆっくりと階段を降りる。足音が静かな廊下に響くだけだ。
食堂に入ると、すでにセリスが朝食の準備をしていた。
「おはようございます、ユイさん!」
明るい声で振り返るセリスの青い髪が、朝日に照らされて揺れる。
「おはよう」
ユイは短く答え、席についた。
「今日は、少しゆっくりですね」
「ああ。たまには休んでもいいだろう」
「そうですね。みんな、疲れてますもんね」
セリスは笑顔で頷き、フライパンを動かす。香ばしい匂いが食堂に広がった。
やがて、他のメンバーも次々と姿を現す。
カイルは早朝訓練を終えたばかりのようで、額に汗を浮かべている。
「おはようございます!」
「朝から訓練か」
「はい。体を動かさないと落ち着かなくて」
少し照れたように笑うカイルに、ユイは何も言わず頷いた。
「……おはよう」
低い声とともにエルザが席につき、無言で窓の外を眺める。
「おはようございますわ」
リリアが優雅な動作で椅子に座る。銀髪が朝日を受けて淡く光った。
「……そう」
セイラは短く言葉を落とし、静かに腰を下ろす。
「おーい、おはよー!」
元気な声とともに、アイリスが階段を駆け下りてきた。
「遅いぞ、アイリス」
「いやー、久々にゆっくり寝られたからさ!」
最後に、ハンスが静かに現れる。巨体が食堂に入ると、空気がわずかに引き締まった。
「……そうだ」
短くそう言って、壁際に立つ。彼の体格では、椅子は使えない。
全員が揃うと、セリスが料理を運んできた。
「できました! みんなで食べましょう!」
温かいスープと焼きたてのパン、野菜の炒め物が並ぶ。
「いただきます」
久しぶりに、戦いを考えずに迎える朝だった。
食事の途中、カイルがユイに尋ねる。
「今日は、どうしますか?」
ユイは少し考え、短く答えた。
「今日は、何もしない日にしよう」
その一言に、場の空気がわずかに動く。
セイラは無表情のまま視線を向け、ハンスは黙って頷いた。リリアは少し驚いたように首を傾げる。
「……本当に、何もですか?」
「ああ。休息も必要だ」
「そうですね。確かに」
アイリスが笑う。
「じゃあ街でも散策する?」
「それもいいな」
「私も行きます!」
セリスが元気に手を上げた。
「……そうね」
エルザが小さく呟く。
カイルが少し不安そうに聞く。
「訓練はしなくても大丈夫ですか?」
「一日くらい、問題ない」
朝食を終え、ユイは全員を見渡した。
「午後から街に出る。それまでは自由行動だ」
それぞれが頷き、思い思いに動き出す。
ユイは食堂に残り、窓の外を眺めた。
穏やかな朝。戦いのない時間。
前の人生で、こんな日があっただろうか。
ユイは静かに息を吐く。
「……装備の確認だけは、しておくか」
休息の日でも、油断はしない。それが、今の自分だった。
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