第78話 壊滅の戦場
北の森の奥。
廃墟が広がるその場所に、15人の観察者が辿り着いた。
森は異様なほど静まり返っていた。風は止み、鳥の声もない。不穏な気配が、空間そのものに染み込んでいる。
ガルスが前に立ち、周囲を見渡した。
「配置につけ」
低く、力強い声。
上司派の精鋭たちが前衛に展開する。重装鎧を纏った戦士たちが盾を構え、剣を握る。
ザイン、ミラ、ドレイクは後方。レイナとユーリも、その近くに配置された。
「我々の力を見せる時だ」
前方。
崩れた建物の奥から、影が動いた。
漆黒の鎧を纏った騎士の姿。全身は黒い金属のような装甲に覆われ、兜の奥で赤い光が揺れている。
巨大な黒剣を携え、その存在だけで空気が歪んだ。
身長は約3メートル。
異様な魔力が、周囲を圧迫している。
レイナが息を呑んだ。
「あれが……カオスナイト……」
ユーリが弓を構える。
「気をつけろ……!」
ガルスが大剣を抜いた。
「前へ! 連携を崩すな!」
上司派の10人が、一斉に前進した。
次の瞬間。
カオスナイトが動く。
速い。
巨体からは想像できない速度で間合いを詰め、黒剣を振り下ろした。
前衛の1人が盾を掲げる。
だが、防御は成立しなかった。
一撃。
戦闘員の身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。重装鎧は大きく歪み、動かなくなった。
「くっ……!」
ガルスが叫ぶ。
「陣形を維持しろ! 包囲する!」
精鋭たちが動く。
だが、その直後だった。
「右です! 右に移動しました!」
ミラの声が後方から響いた。
指示を信じ、数人が右へ動く。
だが、カオスナイトは左にいた。
孤立した戦闘員に、黒剣が振り下ろされる。
また1人、倒れた。
「何をしている!」
ガルスが振り返る。
ドレイクが一歩前に出る。
「……援護する」
だが、動きはわずかに遅い。
その一瞬。
カオスナイトの剣が別の戦闘員を捉えた。
防御も、回避も間に合わない。
さらに1人が地に伏す。
「回復します!」
レイナが杖を掲げる。白い光が放たれるが、倒れる数が多すぎた。回復が追いつかない。
「左から回り込んでいます!」
ユーリが叫ぶ。
だが、それも誤った情報だった。
カオスナイトは右にいた。
連携が崩れる。
動きが噛み合わない。情報が錯綜し、判断が遅れる。
ガルスは歯を食いしばった。
「……なぜだ……」
だが、考える余裕はなかった。
黒剣が振るわれるたび、誰かが倒れる。
攻撃は通じず、防御も意味をなさない。
上司派の精鋭は、次々と戦闘不能に陥っていった。
10人いた前衛は、残り3人。
そして、その3人も、次の瞬間には地に伏していた。
ガルスが叫ぶ。
「撤退しろ! 俺が時間を稼ぐ!」
返事はない。
ガルスは1人、カオスナイトの前に立っていた。
「……了解した」
ザインの声は冷え切っていた。
ミラとドレイクに視線を送り、3人は後退を始める。
「レイナ、ユーリ、下がれ」
「でも……!」
「命令だ」
その声に逆らえず、2人は涙を堪えて後退した。
ガルスは、最後まで剣を構えた。
黒剣と大剣が激突する。
だが、力の差は明白だった。
一撃。
防御が砕かれ、ガルスの身体が宙を舞う。
「……これが……幻モンスター……」
地面に叩きつけられ、動かなくなった。
5人が森を駆け抜けていた。
ザイン、ミラ、ドレイク、レイナ、ユーリ。
レイナが振り返り、涙を流す。
「みんな……」
ユーリの声も震えていた。
「どうして……」
ザインは無表情のまま、前を見据えている。
内心で、冷たく結論づけた。
計画通りだ。
上司派の主力は、完全に壊滅した。
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