第068話 理由と覚悟
ユイは深く息を吸った。
証明。
それを求められるのは、当然だった。
だが、前世の記憶は誰にも見せられない。
ならば、別の方法で示すしかない。
「今、挑めば全滅します」
ユイは静かに言った。
広間の空気が、さらに重くなる。
セイラが眉をひそめる。
「全滅?」
「はい」
ユイは頷いた。
「準備が足りない状態で挑めば、間違いなく全滅します」
「だから、隠していました」
リリアが小さく息を呑む。
「ユイ……」
「皆さんを危険に晒したくなかった」
ユイは全員を見渡した。
「だから、準備が整うまで待ちました」
セイラが腕を組む。
「それが理由か?」
「はい」
ハンスが低い声で尋ねる。
「だが、情報源は?」
「それだけは言えません」
ユイは繰り返した。
前世の話は、絶対にできない。
誰も信じないし、理解もされない。
セイラが鋭い目でユイを見据える。
「それでは納得できない」
カイルが口を挟む。
「でも、ユイさんの判断は今まで正確でした」
「僕たちが受けた依頼も、成功してきました」
アイリスが続ける。
「ユイの情報は、外れたことがない」
リリアが頷く。
「だから、私たちは信じてきたわ」
セイラが冷たく言う。
「だが、それは小規模な依頼だろう」
「幻モンスター討伐とは、次元が違う」
「確かに」
リリアが認める。
「次元は違うわ」
「でも、ユイは本気よ」
セイラが立ち上がる。
「本気なら、証明してみせろ」
「お前の情報が正しいという証拠を見せろ」
ユイは唇を噛んだ。
証拠。
それを見せることはできない。
だが、別の方法がある。
ユイは顔を上げた。
「実際に、見に行きませんか?」
全員が息を呑む。
「見に行く?」
セイラが繰り返す。
「はい」
ユイは頷いた。
「カオスナイト本体を」
「戦うのではなく、偵察です」
ハンスが眉をひそめる。
「偵察?」
「はい。撤退前提で」
ユイは続けた。
「あの存在が、どれほど強いか」
「実際に見てもらいます」
「そうすれば、私の情報が正しいか分かります」
セイラが鋭く尋ねる。
「逃げられるのか?」
「必ず撤退します」
ユイは真剣な目で答えた。
「私が保証します」
リリアが心配そうに言う。
「でも、危険じゃない?」
「危険です」
ユイは認めた。
「ですが、偵察だけなら可能です」
「その前に、準備が必要です」
カイルが尋ねる。
「準備?」
「はい」
ユイは全員を見渡した。
「まず、全員の使える技を確認しましょう」
「そして、連携訓練をします」
「それから、偵察に向かいます」
セリスが不安そうに言う。
「本当に、逃げられるの?」
「逃げられます」
ユイは断言した。
「私が必ず、全員を連れて帰ります」
エルザが短く言う。
「……信じるしかない」
ハンスが低い声で言った。
「それで、証明になるのか?」
「はい」
ユイは頷く。
「カオスナイトの脅威を目の当たりにすれば」
「私の情報が正確だと分かります」
「そして、準備がいかに重要か、理解してもらえます」
セイラは黙っている。
しばらく沈黙が続いた。
やがて、セイラが口を開く。
「分かった」
「見せてもらおう」
「だが、逃げられなかった場合は?」
「逃げます」
ユイは繰り返した。
「必ず」
ハンスが頷く。
「俺も、見てみたい」
「倒せぬ存在が、本当にそこまで強いのか」
リリアが不安そうにユイを見る。
「ユイ、本当に大丈夫?」
「大丈夫です」
ユイは微笑んだ。
「私は……準備をしてきました」
それ以上は言わなかった。
前世の話は、できない。
「だから、大丈夫です」
カイルが真剣な目で言う。
「僕も行きます」
「ユイさんを信じます」
アイリスが頷く。
「私も!」
セリスが小さく言う。
「私も、頑張ります」
エルザが短く答える。
「……同じだ」
ユイは全員を見渡した。
8名が揃っている。
前世では1人だった。
だが、今は違う。
「ありがとうございます」
ユイは深く頭を下げた。
「では、明日から準備を始めます」
「まず、全員の使える技を確認しましょう」
セイラが尋ねる。
「技の確認?」
「はい」
ユイは頷いた。
「それぞれが何ができるのかを確認します」
「そして、連携パターンを構築します」
「それができれば、偵察に行けます」
ハンスが低い声で言った。
「明日か」
「はい」
ユイは答える。
「明日、訓練場で」
全員が息を呑む。
技の確認。
それが、次の一歩だった。
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